日本の製造業は元気がないといわれて久しいが、そんな素振りを微塵も感じさせない画期的な新技術をパナソニックが発表した。人の暮らしを支える事業を展開するパナソニック ライフソリューションズ社内に発足した新しい事業体「光源・デバイスビジネスユニット」の類い稀なる技術だ。
照明に関連した技術を応用展開して、一見、全然関係無いように思える“センサーでの空間認識”に長けた「TOFカメラ」や“イチゴの病気予防に役立つ”「UV-B電球形蛍光灯」、さらには“刃に負けない手袋で指を守る”「タングステン線」など、新たな事業を展開する。
中でも「TOFカメラ」はルパンもお手上げのセンサー精度とのこと。一体、どういうことなのだろうか?
「光源・デバイスビジネスユニット」とは、同社の照明事業を担うライティング事業部の傘下として2021年4月1日付けで新設。パナソニック ライティングデバイス、パナソニック フォト・ライティング、パナソニック ライフソリューションズ 池田電機の3社からなる事業体のこと。
光源・デバイスビジネスユニット長の坂本敏浩氏。手に持つのはルパンもお手上げという噂の「TOFカメラ」
パナソニック ライティングデバイスは、1936年から白熱電球の製造を開始し、その後、蛍光灯ブランド「パルック」を開発。光源設計や、金属粉末から金属製品を作る冶金技術などが得意。
パナソニック フォト・ライティングは、1948年に閃光電球の製造を開始し、その後、カメラ用のストロボの開発やデジタルカメラ「LUMIX」のレンズを設計するなど、光学・レンズ設計を得意としている。
そして、パナソニック ライフソリューションズ 池田電機は、1951年に蛍光灯用の銅鉄安定器の製造を開始し、その後、インバーター安定器や、LED照明用の電源を手がけている電源・回路設計のエキスパートだ。
そんな、日本のモノづくりを長い間担ってきた3社がタッグを組み、それぞれ磨き上げてきた技術を融合させ新たな製品を創出するのが「光源・デバイスビジネスユニット」。取り扱う主な製品は、先述した「TOFカメラ」「UV-B電球形蛍光灯」「タングステン線」などだ。
注目の製品①「TOFカメラ」とは?
「TOFカメラ」とは、Time of Flightカメラの略称で、カメラから照射した赤外光が対象物に反射して戻るまでの時間を計測し、対象物との距離を測定するカメラのこと。対象物を、赤(近い)→青(遠い)の色の濃淡で表示した距離画像とカラー画像の2つの画像で認識。つまり、対象物の位置や大きさ、色を正確に測定できるというわけだ。
ただ、距離を正確に測定するためには、測定したいエリア全体に赤外光を均一に照射する投光技術が必要となる。中心などの一部エリアに照射するのでは、端にある対象物から戻る光が存在せず、エリア全体の正確な距離が測れなくなるのだ。
これを可能にしたのが「光源・デバイスビジネスユニット」が持つカメラ用ストロボの技術。「TOFカメラ」の本体には、拡散板と呼ばれるパーツが搭載されており、赤外光を均一に照射できるのだ。
しかも、赤外光を放つだけの出しっぱなしでは、反射の時間の計測ならず。反射する赤外光を正確に受け取る技術がなければ宝の持ち腐れ。もちろん、そこも「光源・デバイスビジネスユニット」は抜かりなし。デジタルカメラのレンズなどを開発してきたレンズ設計技術により、光を集めてセンサにピントを合わせることができる高解像度レンズを搭載している。
この、光を均一に照射する技術と光を集めてピントを合わせる技術の2つの高度な技術を持ち合わせているため、極めて高精度な「TOFカメラ」を作ることができるというわけだ。
体験するとわかる「TOFカメラ」の驚くべき性能
広報・足立氏に撮影協力をお願いしました!
そんな「TOFカメラ」の驚くべき威力は、マスコミ向けの発表会で体験することができた。会場には、「TOFカメラ」で検知する大エリアを用意。大エリアの中には、空中に設けた小エリアも検知対象に設定。これらの設定したエリアは、わかりやすいようテープで囲ったり、四角い枠で表しているが、実際は目に見えない形で正確にエリア分けされている。
大エリア侵入を示す青ランプ点灯!
その仕組みは、大エリアに人が侵入した場合、上部に設けた青ランプの点灯とモニターの「WARNING」の文字で警告。さらに、空中の小エリアに侵入すると、上部の赤ランプが点灯するというもの。
空中の小エリア侵入を示す赤ランプ点灯!
実際に試してみたところ、大エリアに足を踏み入れた瞬間、青ランプが点灯。さらに空中の小エリアに手を入れると赤ランプがしっかりと点灯する。しかも、空中に浮く小エリアの四角い枠の真下に手を入れても赤ランプは点灯せず。その境目が驚くほど正確だ。
そのセンサー精度の高さは、セキュリティーカメラとしても超高性能といえるだろう。もし「TOFカメラ」の登場がもっと早かったら、ルパンやキャッツアイの内容も大きく変わったかもしれない。むしろ、盗む難易度の高さから怪盗エンタメの名作が生まれなかった可能性も。いや、それはそれで問題。
いずれにせよ、「TOFカメラ」たった1台でここまで精度の高いエリア測定ができるというのは画期的。そんな「TOFカメラ」は、以下のような用途の導入が検討できるという。
・コンベア用ピッキングロボット
ロボットに装着することで、コンベア上に置かれるサイズの異なるアイテムの中から正しいアイテムを判別してピッキング
・野菜収穫ロボット
赤く熟したトマトを判別し、位置を正確に測定することでロボットアームが自動で収穫する
・マーケティング分析
スーパーマーケットに導入し、人の動線や滞留時間を可視化し、マーケティング分析用のデータとして活用。※実証実験済み
・無人搬送車、自律走行搬送ロボット
無人で走る車やロボットに装着することで、障害物や人を避けながら目的の場所まで安全に走行
など
対象物の位置や大きさ、色を正確に測定できる「TOFカメラ」は、アイデア次第で用途の幅が広がる汎用性の高いアイテムといえるだろう。
【「TOFカメラ」紹介動画】
商品概要
■「TOFカメラ NC2」(2021年10月発売予定)
既存モデルより約70%小型化。MIPI規格採用で省電力化を実現。
■「エリア検知ユニット」(2021年9月発売予定)
エリア検知に必要なプログラミングソフトを一体化。1台で3次元空間を検知できる。「TOFカメラ」の背部に接続して使用。
関連情報:
https://panasonic.co.jp/ls/pldv/f-products/TOF/index.html
https://industrial.panasonic.com/jp/products/pt/tof_camera
注目の製品➁「UV-B電球形蛍光灯」とは?
「UV-B電球形蛍光灯」とは、紫外線であるUV-Bを照射する蛍光灯のこと。実は同社では、2014年から「UV-B電球形蛍光灯」を展開しており、今回「光源・デバイスビジネスユニット」の新設に合わせ新商品を投入するのだ。
紫外線のUV-Bは、イチゴの免疫機能を活性化させ、植物病害であるうどん粉病の発生を抑制することがわかっている。うどん粉病とは、葉や茎に白いカビが発生する植物病害。原因となる菌は空気中を浮遊してほかの株にうつるため、閉鎖的なビニールハウスなどで一度うどん粉病が発生すると蔓延してしまう。そのため、イチゴ農園では農薬散布などで抑制を図っているのだが、その手間と時間は大きな負担だ。
左/未照射、右/照射
つまり、うどん粉病を抑制する「UV-B電球形蛍光灯」を使うことで、農薬の散布回数を削減することが可能。安心・安全な農作物づくりに貢献できる。新商品では、新開発のランプと反射傘の組み合わせにより、消費電力を従来比約20%低減した。
「UV-B電球形蛍光灯」の宣伝広告。強いイチゴをイメージしたシックスパックの腹筋がユニークでわかりやすい
蛍光灯ブランド「パルック」の開発で培った光源設計技術などにより、「UV-B電球形蛍光灯」が誕生したというわけだ。今後は、ほかの農作物などにも実証実験を行ない、「UV-B電球形蛍光灯」の可能性を模索するという。
商品概要
■「UV-B電球形蛍光灯(反射傘セット)」(2021年10月1日発売予定)
従来品に比べ約20%消費電力を低減。低温下でのUV強度の低下を抑制
関連情報:https://panasonic.co.jp/ls/pldv/f-products/UV-B/index.html
注目の製品③「タングステン線」とは?
「タングステン線」とは、最も熱に強く非常に硬い金属だ。電球の内部を覗くと細い針金のような線が光を放つが、まさにそのフィラメントに採用されるのが「タングステン線」。蛍光灯のコイルなどにも使用されている。
電球が発光する際、フィラメントはおよそ2500℃の高温になるため、熱に耐えることが不可欠。「タングステン線」は熱に強く断線しにくいのが特徴だ。
パナソニック(旧ナショナル)は、1936年に白熱電球1号機を発売し、1950年には、金属粉末から金属製品を作る治金技術によって電球フィラメントの自社生産を開始。高度なタングステン加工技術を有している。加工条件をコントロールすることで、耐熱性に特化したものから、強度としなやかさを併せ持つものなど、豊富な種類の「タングステン線」を作り出すことができる。
カッターでも切れにくいタングステン線を使用した耐切創手袋
つまり、電球のフィラメントはもちろん、ピアノ線より高強度な精密切断用ワイヤーや耐切創手袋など、様々な用途に展開できるというわけだ。
関連情報:https://panasonic.co.jp/ls/pldv/f-products/tungsten/index.html
パナソニックが新設した「光源・デバイスビジネスユニット」が取り扱う「TOFカメラ」「UV-B電球形蛍光灯」「タングステン線」は、アイデア次第で用途を生み出せる画期的な新製品だ。しかしそのベースには、長い年月をかけて培ったパナソニックの秀でる技術が源にある。優れた技術を融合、発展させ、新たなデバイスを創出するという、まさに日本のモノづくりの神髄。「光源・デバイスビジネスユニット」の誕生により、日本の製造業のさらなる活性化を期待したい。
取材・文/オビツケン