日替わり定食には「毎日食べられる食事を」という作り手の心遣いがある。
一方、いつも出している定食でも、ふらりと訪れる側としては「今日すれ違う、今日だけの定食」だったりする。
そんな定食との一期一会。
これは、食・街・人・との出会いを求め、空腹で街をさまよう男の記録です。
第四回:名代 宇奈とと(中野) 「うな丼ダブルセット」
秋葉原で働いていた時、オタクの同僚から聞いた話なのだが「オタクが集う街ではカレー屋さんと丼物屋さんが人気である」とのことだ。
理由はというと、好きな品物を探して1日中店をまわり、両手いっぱいに本やらゲームやらDVDやらを買い漁る彼らにとって、昼食の時間はできるだけ短く、効率よく済ませて、買い物の時間を多くとりたいから。
私は中野ブロードウェイの入り口付近にある宇奈ととを前するといつもそんな話を思い出す。
私はまったくマニアではないのだが、それでも中野ブロードウェイを巡る時は1日かがりである。
漫画、画集、小説、写真集、フィギュアその他諸々。
ゆっくりじっくり眺めながら、いろいろな想いにふける。新刊書の「明星書店」もこの地らしい本の並び方でとても楽しませてくれる。
まんだらけやタコシェでは珍しくて斬新な本に胸が踊る。
階段を上がったり下がったりしながら、キン消しを懐かしんだり、最新フィギュアの精巧さにうなったりする。
そして、どっと疲れる。何にしろちょっと歩くだけでも目に入る情報量が半端ではないのが中野ブロードイウェイである。
そんな中野探訪当日のランチは店選びにいろいろと迷うところなのだが、ひとりでも友人と一緒でも、本腰を入れてブロードウェイを巡りたいときは宇奈ととにする。
これは、冒頭で書いた秋葉原をオタクの同僚が巡るときの感覚に近い。
手軽に効率よく、しかしながらしっかり美味しく、疲れも取れる。そして、安い。
今回はお店のおすすめである「うな丼ダブルセット」を注文し、肉厚のうなぎが2枚も乗った丼を堪能させていただいたが、今よりももっと生活が不安定だった頃の私はこの店の「うな丼550円」にいつも随分勇気付けられたものだ。
「うなぎというものは高級品であるが、こうして数百円で食べさせてくれるお店があるのだな」
と、うなぎと同じくらい好きな「肝吸い」を我慢しながらしみじみと思っていた。
しかしながら、今の私はと言えば、こうして「うな丼ダブルセット」をいただきながら「肝吸い」だけでなくサラダまで味わっている。おもえば遠くへ来たような気がするが、まったく同じ店のまったく同じ席だったりするのがうれしい。近年の私のおすすめは山椒をちょっと多めにすることである。
今年の土用丑の日は1日のみ。7月28日だけだが、私の例年のおすすめは土用に食べずに数日うしろにずらしてうなぎを食べることだったりする。うなぎ屋さんにとっての大きな山である土用を乗り越えたあとの店員さんたちがなんだかすがすかしい顔をしている気がするからだ。(完)
ここでご近所の寄り道スポットをすこしだけご紹介。
天下一品 中野店
おやき処 れふ亭
ブロードウェイ地下の魚屋さん
クレープ チャレンジャー
名代 宇奈とと 中野店
東京都中野区中野5丁目52-1
- 通常営業時間
11:00〜20:00
※新型コロナの影響で営業時間が変更になる場合があります。
※酒類の提供は終日中止中です。
※お弁当の配達・お受け取りは22時まで承ります。
http://www.unatoto.com/shop/nakano/
イラストレーション・文/本田しずまる
編集/inox.