野菜の茄子(なす)を使ったことわざに、「秋茄子嫁に食わすな」がある。これは姑の嫁に対する想いを表しており、既婚女性の中には、嫁姑の関係でこのことわざを実感している方もいるかもしれない。
本記事では、「秋茄子嫁に食わすな」の正しい意味や例文、類義語、英語表現について解説する。一般的に姑による嫁いびりの意味で広く認識されていることわざだが、実はまったく違う意味を持つ点に注目してほしい。
正反対の意味を持つ「秋茄子嫁に食わすな」
「秋茄子嫁に食わすな」の読み方は「あきなすびよめにくわすな」。また「秋茄子は嫁に食わすな」とも言い、この場合「秋茄子」は「あきなす」または「あきなすび」と読む。
ここでは、「秋茄子嫁に食わすな」の意味を解説する。一般的な嫁いびりのほか、正反対の意味として姑の嫁への優しさも表す珍しいことわざだ。
姑の嫁いびり
一般に知られている意味は、「秋にとれる美味しい茄子を憎い嫁には食べさせるな」というもの。茄子は収穫時期により呼び方が異なり、6月頃から収穫された茄子は夏茄子、秋茄子とは9月以降に収穫された茄子のことを指す。夏茄子に比べ秋茄子は、皮が柔らかく水分を多く含んでおり、甘みや旨味が強い。そんな美味しい秋茄子を、わざわざ嫁に食べさせるのはもったいないという嫁いびりを表している。
嫁へのおもいやり
「秋茄子嫁に食わすな」には、嫁いびりとは反対に姑の優しさを表す意味もある。「茄子は体を冷やすため、涼しくなってきた秋に茄子を食べると、大切な嫁の身体を冷やしてしまう」という嫁の身体を気遣ったものだ。また、茄子は種子が少ない野菜のため、子どもができにくくなるといけないと案じて食べさせないという解釈もある。
茄子が体を冷やすと言われるのは、カリウムが多く含まれているから。カリウムには利尿作用があるため、水分と一緒に塩分も排出され血圧が下がる。血圧が下がると、全身の血流がゆっくりとなって体温が上がりにくくなるという。
嫁ではなくネズミだった?
「秋茄子嫁に食わすな」の元となったと言われる和歌が、鎌倉時代の私撰和歌集『夫木和歌抄』(ふぼくわかしょう)に収録されている。
・「秋なすび わささの粕につきまぜて よめにはくれじ 棚におくとも」
この歌の「よめ」は「夜目」と書き、ネズミのことを指すという解釈がある。これは「酒粕に漬けた秋茄子を棚に置いておくのはいいが、ネズミには食べられないように気をつけなさい」という意味で、本来は「秋茄子ネズミに食わすな」であったとも言われている。
例文
「秋茄子嫁に食わすなということわざのとおり、秋に収穫した茄子は美味しい」
「秋茄子は嫁に食わすなと言うように、何もしない嫁にこんな美味しいものを食べさせるのはもったいない」
「秋茄子嫁に食わすなと言うでしょう?涼しくなってきたから、あまり茄子は食べ過ぎないようにしなさいね」
「秋茄子嫁に食わすな」の類義語、英語表現
ここでは「秋茄子嫁に食わすな」の類義語と英語表現を紹介する。嫁と姑の関係を言い表したことわざは多数あるが、その中でも「〇〇嫁に食わすな」は旬の食材でいくつもバリエーションがあるようだ。
類義語
・「〇〇嫁に食わすな」シリーズ
秋茄子は嫁に食わすなと同じく「〇〇嫁に食わすな」という形のことわざで、〇〇の部分には、旬の美味しい食べ物が入る。例として、秋魳(かます)は嫁に食わすな/秋鯖(あきさば)嫁に食わすな/秋蕗(あきふき)嫁に食わすな/五月蕨(ごがつわらび)は嫁に食わすながある。
・「鯒の頭は嫁に食わせ(こちのあたまはよめにくわせ)」
このことわざも、秋茄子嫁に食わすなと同様、二つの解釈がある。鯒(こち)という魚の頭は骨が多く身が少ないため、嫁には「これで十分でしょ」という姑のいびり。ところが、実は鯒の頭部にある頬肉がどの部位よりも一番美味しいと言われていることから、嫁いびりではなく、姑の優しさを表しているとも言われる。
・「秋柴嫁に焚かせろ(あきしばよめにたかせろ)」
秋の柴は煙が多く焚きにくいことから、辛い仕事は嫁にやらせて楽なことは娘にやらせるという、嫁いびりのことわざ。また、仕事の苦楽や難易も言い表している。
英語表現
英語圏で「秋茄子嫁に食わすな」に該当することわざはないが、英語に直訳すると「Don’t feed autumn eggplant to daughter-in-law.」となる。「feed」は「食物を食べさせる」、「daughter-in-law」は「息子の妻」のこと。嫁いびりを表現したい場合には「because they’re too delicious」を付け加える。
文/oki