
古来より伝わる神話や聖書を基にした物語には、音楽や絵画などの芸術作品のモチーフになっているものも多い。「洪水伝説」で有名な「方舟」もそのうちの一つだ。人気漫画「ONE PIECE」の中にも方舟をモチーフにしたエピソードが登場するなど、元になった話は知らなくてもキーワードとして目にしたことがある人は多いのではないだろうか。
そこで本記事では、そもそも方舟とはどんなものなのか、由来も併せて詳しく紹介する。
「方舟」の意味と由来
はじめに、「方舟」の漢字の意味や、由来となった「洪水伝説」について見ていこう。ぜひこの機会に詳しい内容について理解を深めてほしい。
正しい読み方は「はこぶね」、元々は四角い舟の意味
「方舟」は「はこぶね」と読み、「箱舟」や「箱船」と表記されることもあるが基本的にどれも意味は同じ。「方舟」の「方」という漢字は、「向き」や「地域」といった意味のほかに「四角」を表し、つまり方舟は四角い形状をした船のことを指す。ただし、一般的な船を表す際にはあまり用いられず、単に「方舟」と言う場合は後述の「ノアの方舟」を指していることが多い。
聖書に登場する「ノアの方舟」を指すことが多い
「ノアの方舟」にまつわるエピソードは『旧約聖書』の冒頭、『創世記』の中に記載がある。『創世記』は、聖書を正典とするユダヤ教やキリスト教の考え方の基本となっている重要な部分で、神がどのようにこの世界を創ったのかについて綴られている部分だ。
『創世記』によると、神は世界を創造し、最初の人類であるアダムとイブ(エバ)を楽園に住まわせたが、彼らは禁じられていた果実を食べてしまい神の怒りに触れる。楽園を追放された2人は子孫を残し大いに繁栄するが、地上にあふれた人間たちは次第に欲望を持つようになり堕落していく。
その様子を嘆いた神は人類を創ったことを後悔し、大洪水を起こして人類を滅ぼすことを決める。ただ、神の教えを守り正しく生きていたノアの家族だけは救うことにして、彼に方舟をつくらせ、彼の家族と地上のすべての動物のつがいを1組ずつ乗せた。
その後、神が起こした洪水は長い間続き地上の生き物をすべて滅ぼしたが、方舟に乗っていたノアたちは無事だった。水が引いた後、地上に戻ってきたノアに神は二度と洪水を起こさないことを約束し、彼らを祝福するのだった。聖書の記述に則れば彼らは現在の人類すべての祖先だとされる。
この時に神がノアに命じて作らせたのが「ノアの方舟」であり、おおよその大きさは長さ133.5m、幅22.2m、高さ13.3mと言われている。この方舟の長さ、幅、高さの比率は、大型船舶を造船する際に最も安定する比率とほぼ同じで、現在もタンカーなどの造船の際に用いられている。
「方舟」に関連する表現と「方舟」を用いた作品、商品名
聖書は世界中の人々に親しまれており、「方舟」もさまざまな形で生活の中に浸透している。ここからは、「方舟」を使った作品名や英語表現などを具体的に紹介していこう。
英語やフランス語で「方舟」はどのように表現される?
ノアの方舟を英語で表記する場合は「Noah’s Ark(ark)」と表記する。ark(アーク)は「箱、大箱」を意味する単語で、「蓋のついた箱」を表すラテン語のarca(アルカ)が語源。Ark単体で「ノアの方舟」を指すこともある。
フランス語では、「Arche de Noé」。「Arche」は方舟を表すほか、橋や輪、アーチの意味も持つ。
タロットには「方舟」と関わりのあるカードも
占いでよく用いられるタロットカード。22枚の大アルカナのうちの1枚「審判」は、正位置なら「復活、改善」、逆位置では「悪い知らせ、再起不能」を表す。このタロットに描かれた絵柄は、『新約聖書』の巻末『ヨハネの黙示録』に由来しているとされるが、一部では洪水後ノアが地上に戻って祝福を受けた場面を示唆しているという説がある。
「方舟」を用いた作品名など
「方舟」は作品名にも多く用いられている。代表的なものは、劇作家としても著名な小説家、阿部公房の「方舟さくら丸」。世界滅亡の危機に備えて、核シェルターの中で共同生活を送る男女の物語だ。
「ドラえもん」「パーマン」の作者、藤子・F・不二雄の短編集にも「方舟はいっぱい(厳密には『箱船はいっぱい』表記)」というタイトルの作品がある。
また、銀座に「大吟醸 しずく」「大吟醸 いろり」などの店舗を展開する「方舟」は、北信越の日本酒や日本海の食材にこだわりを持つ居酒屋として有名だ。
文/oki