衣食足りて礼節を知るは、中国の故事から生まれた言葉です。正しい意味や使い方について理解を深めておけば、さまざまなシーンで応用を利かせられます。衣食足りて礼節を知るの意味・由来・例文や、類義語・対義語を紹介します。
「衣食足りて礼節を知る」とは
衣食足りて礼節を知るとは、どのような意味を持つことわざなのでしょうか。まずは、言葉の意味や語源を押さえておきましょう。
「衣食足りて礼節を知る」の意味
『衣食足りて礼節を知る』は、『人は生活が豊かになって初めて、礼儀正しくなり節度をわきまえられるようになる』という意味のことわざです。『いしょくたりてれいせつをしる』と読みます。
『衣食』とは衣類や食料、『礼節』は礼儀や節度を意味する言葉です。着るものや食べるものに余裕が出てくると、心にも余裕が生まれ、名誉や恥を考えるようになるという意味を表しています。
衣食足りて礼節を知るは、『生活が苦しいときは礼儀や節度にまで気が回らないものだ』という意味で使われることもあります。身だしなみが悪いことを指摘する際に使われることもある言葉です。
由来は中国の故事
『衣食足りて礼節を知る』は、中国の古典『管子』の『牧民』に由来します。管子は、春秋時代の思想家『管仲』の言行を記録した書物です。
斉の桓公に仕える宰相でもあった管子は、斉を強国にするためには、民衆の生活に余裕を生むことが必要であると考えました。牧民の中では『倉廩実則知礼節、衣食足則知栄辱』と表現されています。
『倉廩』とは米蔵、『栄辱』とは栄誉や恥辱を指します。『米蔵が食料で満たされてこそ民衆は道徳心を持つようになり、衣服や食料が満たされてこそ名誉と恥辱の違いを考えるようになる』という意味です。
「衣食足りて礼節を知る」の使い方
言葉の正確な使い方を覚えれば、表現の幅をより広げられるでしょう。衣食足りて礼節を知るの正しい使い方や例文を紹介します。
言葉の使い方
『衣食足りて礼節を知る』は、正しい意味さえ理解していれば、ニュアンスを変えながらさまざまなシーンで使えます。
最もよく使われるケースは人を褒める場面です。『生活に余裕が生まれると心まで豊かになる』という、ポジティブなニュアンスで使われます。
由来となった故事のように、人を指導したり注意したりする側の人間が、人の意識を変えるための考え方として使うケースもあります。自分の考えを戒めたり、生活が豊かな人に対して意識改革を求めたりするときにも使われる言葉です。
「衣食足りて礼節を知る」を使った例文
衣食足りて礼節を知るの具体的な使い方を、例文でもチェックしておきましょう。すぐに応用できる例を三つ紹介します。
- 今の部長のことは昔から知っているが、部長に昇進してから見違えるように礼儀正しくなった。衣食足りて礼節を知るは、彼のためにあるような言葉だ
- 衣食足りて礼節を知るという言葉もあるように、顧客満足度を高めるには、接客スタッフの待遇から改める必要があると考えている
- 他人に対してもっと礼儀をわきまえる人間になりたいと思うのだが、生活が苦しいため心にも余裕を持てない。衣食足りて礼節を知るを痛感している
- 衣食足りて礼節を知ることができるようになるためには、ある程度の余裕も大切だ。満足に食べられない状況では心も豊かになれない
「衣食足りて礼節を知る」の類語と対義語
衣食足りて礼節を知るには、いくつかの類義語があります。反対の意味を持つ表現も、併せて覚えておきましょう。
類語「恒産なくして恒心なし」
『恒産』とは安定した職業や財産、『恒心』とはしっかりとした道義心や良識を指します。『恒産なくして恒心なし』とは、経済的に不安定な状態では心も安定しないということを意味する言葉です。
衣食足りて礼節を知るとほぼ同じように使うことが可能です。中国の古典『孟子』を語源とし、孟子が民衆の生活安定を図るために強調した言葉として使われています。
- 恒産なくして恒心なしというように、このまま景気が悪くなると治安の悪化が心配だ
類語「倉廩実ちて礼節を知る」
『倉廩実ちて礼節を知る』は、経済的な余裕が生まれて初めて、人は礼儀や節度を重んじるようになるという意味の言葉です。
衣食足りて礼節を知ると同じ、『管子』の『牧民』に由来しています。『倉廩実則知礼節、衣食足則知栄辱』の前半部分から誕生した故事成語です。
この文章から生まれた類語には、『衣食足りて栄辱を知る』や『倉廩実ちて礼節を知る』もあります。いずれも意味はほとんど同じです。
対義語「人はパンのみにて生くる者に非ず」
衣食足りて礼節を知るの対義語の一つに、『人はパンのみにて生くる者に非ず』があります。正しい読みは『ひとはパンのみにていくるものにあらず』です。
キリスト教の正典『新約聖書』の中で、モーゼやイエスが放った言葉を由来としています。『人は物質的な満足感だけでなく、精神的な支え(聖書では神の言葉)も必要である』という意味を指す言葉です。
- 彼は莫大な財産を保有しているが、孤独を感じる場面もおおk専任の心理カウンセラーもいるようだ。人はパンのみにて生くる者に非ずということなのだろう
- 人はパンのみにて生くる者に非ずというように、家族や友人とのつながりも大切にしなければならない