7年越しの努力がコロナ禍においても実を結んだ!豊橋総合動植物公園に3頭のアジアゾウがやってきた。
はじめまして、動物園・水族館・植物園を専門に撮影している、動物園写真家の阪田真一です。
コロナ禍で外出もままならない日々を過ごしている多くの皆さんに、動物園の生き物たちに関する話題を今回も撮りおろした写真をみて、少しでも動物園の気分を味わってもらえたらと思う。
さて、皆さんはゾウをみたことがあるだろうか。いや、知らない人はいないだろう。動物園といえばライオン、キリン、ゾウ……と絵本にも出てくる定番の動物だ。
そこで、7年越しの努力で日本の動物園に3頭のアジアゾウの新たな導入に成功した話を知ってもらいたい。
(左:バヴァーニ 中:チャンパカ 右:ドローナ)
アジアゾウとは
アジアで最も大きい陸上の生物である。インド亜大陸やインドシナ半島、セイロン島、ボルネオ島などに分布し、レッドリスト(国際自然保護連合[IUCN]の定める絶滅の恐れのある野生生物の種のリスト)では、「絶滅危惧IB類(EN)」近い将来、野生下において絶滅の恐れのある種(絶滅危惧種)という位置づけとなっている。
新たなアジアゾウの来園
今回、インドからアジアゾウ3頭が、愛知県豊橋市にある豊橋総合動植物公園(愛称:のんほいパーク)へ、2021年5月19日に来園した。
来園後は検疫(健康のチェックや各種検査)を無事クリアーして、日々ターゲットトレーニングや既存のアジアゾウ達との慣らし(柵越しで鼻の触れ合える距離でのお見合いの形)を少しずつ行っていた。
2021年7月17日には駐日インド大使がご臨席になるなか、一般公開のセレモニーが行われた。3頭のアジアゾウは、この日初めて多くの市民やゾウを愛するファンの方たちにお披露目となった。
それでは、来園した彼らのことをご紹介しよう。
朝の食事を嬉しそうにわし掴み
・ドローナ(Drona)オス 10歳(2011年3月10日生れ)
3頭のなかでは一番体も大きい、他の2頭の面倒をよくみているようだ。とても頼れるお兄さんという印象だ。
バヴァーニとチャンパカはそろって、足をコンクリーの壁にこすりつけてかいている。同じ動作に仲の良さを感じる。
右:チャンパカ(Champaka)メス 10歳(2011年2月22日生れ)
ドローナと同い年の彼女は、いつもバヴァーニと一緒。とても仲良しな姉妹のよう。飼育員さんによると、とても頭の良い子だそうだ。
左:バヴァーニ(Bhavani)メス 5歳(2015年6月16日生れ)
まだ幼さの残る行動が愛らしく、チャンパカにベッタリな彼女はとても元気。飼育員さんによると、まだ鼻をうまく使いこなせていないようだ。
3頭は取材中も、団子状態で常に楽しそうに食事、砂浴び、飼育員さんからのホースでの水浴びと、とても忙しそうだった。複数のゾウ達がじゃれ合っている様子はとても迫力があるものの、とても微笑ましくその光景を眺めていることで癒やされた。
ゾウを日本の動物園に導入するという難しさ
今回のゾウの導入について尽力された 豊橋総合動植物公園 前公園長の瀧川直史 様から、導入までの道のりについてコメントを頂いた。
『アジアゾウに限らず、ゾウの導入には現在、多くの動物園が苦労しています。
とにかく、ゾウが入らないのです。アジアゾウの寿命は五十歳から六十歳と言われていますが、高度成長期に幼くして日本にやって来た各地の動物園のゾウ達は今、ほとんどが高齢個体となっています。
将来、日本からゾウが消えるのは時間の問題だとも言われている由縁です。そんななか、本園では、今年5月に3頭のアジアゾウ導入することができました。
40、50年前は、動物商に頼めば簡単に導入できたゾウ、当時は2歳3歳での来日が普通で、輸送コストも高額ではありませんでした。
しかし、現在では、ある程度大きくなった個体の導入が求められており、その結果、高額な輸送費が必要となっています。
また、ゾウの導入は、ワシントン条約で、商業取引が禁止されたことにより、動物園や国からの繁殖目的や研究目的の寄贈が原則となっており、相手の動物園との交渉やお返しの動物の調達など、難しい調整が続きます。
豊橋の場合も、7年ほど前から、様々な国へのアプローチを行ってきましたが、相手国がゾウを出さない方針に転換したり、移動するための法律の整備が進まなかったり、なかなかうまくいきませんでした。インドのマイソール動物園との2年前の交渉で、やっと確かな感触をつかむことができて、ようやく今回の導入となりました。
また、導入を成功させるためには、その飼育環境が何よりも大切で、広く伸び伸びと暮らせる放飼場やストレスのない飼育方法が求められました。本園の放飼場は5千平米超、広大な池。日本屈指の広さを誇っています。』
「みんなここにおいでよ のんほいパーク公園長の徒然日記 著:瀧川直史」 https://amzn.to/3i24kwD
ゾウ達の放飼場:左が雄のエリア。右が雌のエリア。
ゾウ達の放飼場:プール
現在整備された広大なエリアに加えて、周辺には将来的に拡張を視野に入れたスペースも用意されている。ゾウを受け入れるという同園の意気込みと熱意が感じられた。いまのコロナ禍が落ち着き、気兼ねなく旅行ができるようになれば、同園に足を運びその広さを実際に感じてもらいたいと思う。
3頭が頑張っているトレーニングとは
いま、3頭が頑張っている「ターゲットトレーニング」とは、準間接飼育の下で、ターゲット棒を使って指示した部位を認識させ、掛け声とともに動作と紐づけて意識させて行うトレーニングだ。
これは「ハズバンダリートレーニング」のひとつで、彼らの体の状態をみたり、ケガの治療を行ったりするときに、お互いが安全に対応をするためにとても重要なトレーニングで、ゾウ達には優しい方法となっている。
既にのんほいパークの顔である、既存のアジアゾウの「ダーナ」の場合は、とてもなれた様子でターゲット棒と飼育員さんの掛け声に答えるようにすぐに体の向きを変えたり、意図した足を窓から差し出したり。その一連の作業に安心感が感じ取れる。
*「準間接飼育」 … 動物とは空間を別にするが、柵を挟んで体の一部をケアする飼育方法。他に同じ空間で世話をする「直接飼育」、動物には全く触れない「間接飼育」がある。
ダーナの大きな前足の爪を亀の子束子で洗ってもらう。ゾウの爪は前足に5つ、後ろ足に4つある
ダーナの後ろ足を洗ってもらう。砂地を歩くようになってから足裏が滑らかになったのだそうだ。
ダーナ後ろ足を洗ってもらう。「準間接飼育」檻の外からのお世話。
新しく来たドローナの足裏。手相のように幾重にも溝があってゴツゴツしている
「ダーナ」に比べると、「ドローナ」はまだトレーニングは半ばである。足を上げることは分かっているようだが、それが右か左か分からなかったり、空いている窓にうまく足がハマらなかったりと何度も繰り返しトレーニングを積んでいる。動作の度に食パンやリンゴやキャベツなどのおやつがもらえるので、本人は食べ物がもらえればご機嫌の様子。ゆっくり信頼関係を作りつつ成長しているようだ。その少しの成長について話してくれた飼育員さんが嬉しそうに答えてくれたのが印象的だった。
この日、飼育員さんは4名で6頭のアジアゾウ達の世話をしていました。聞けばいくつかの班がありローテーションで対応しているとのこと。しかし、飼育員さん達はいつ休んでいるのだろうと思うぐらい走り回っており、清掃作業やゾウたちの水浴びなどで大量の水を使用した湿度の高いなか、汗だくでゾウの大きな糞の塊を片づけたり、餌の準備をしたりと膨大な力仕事をチームワークでこなしている姿にも感心させられた。
飼育員さん達と、(左)アーシャーと(右)チャメリー
のんほいパークの看板(ダーナ、アーシャー、チャメリー)
最後に、既存のゾウ達を紹介しておこう。
ダーナ オス(推定50歳)
第一印象はとても大きい。本当に大きいのだ。最近、砂地の広場に出るようになって足の裏がとてもきれいになったそうだ。
いままでコンクリートの上での生活が続いていたため、砂地になれるまでに少し時間がかかったようである。
左)アーシャー メス (44歳)
おっとりしたお姉さんという印象のアーシャー。
チャメリーととっても仲が良いというか年の離れたお姉さんのように、見守っている。
右)チャメリー メス (29歳)
食欲旺盛なチャメリー。岩場に隠して設置された餌を見つけて嬉しそうに口に運んでいるのがとても幸せそうに見える。
早く、6頭があの大きな広場を一緒に散歩したり、プールではしゃいだりする姿がみたいものだ。
[取材協力]
豊橋総合動植物公園(愛称:のんほいパーク) https://www.nonhoi.jp/
〒441-3147 愛知県豊橋市大岩町大穴1−238
TEL: 0532-41-2185
[写真/記事]
動物園写真家 阪田 真一