人生の教訓や風刺を短い文章の中に込めて表現した、日本のことわざ。その中でもよく使われるも一つが「塵も積もれば山となる(ちりもつもればやまとなる)」だ。最近では「手軽な”ちりつも”ダイエット法」や「無理しないチリツモ貯金術」のように短く略して使われることもあり、言葉の意味も広く浸透している。
そこで本記事では、そんな「塵も積もれば山となる」について、意外と知らない言葉の由来や併せて使える関連表現など、より深く理解するための知識を紹介する。
ことわざ「塵も積もれば山となる」の正しい意味と由来
まずは、「塵も積もれば山となる」の正しい意味や、由来について詳しく見ていこう。親しみやすいことわざだが、実は意外にも普段あまり馴染みのない仏教書が基になっている。
小さなものでも集まれば大きなものになることを表す
「塵も積もれば山となる」は、その言葉が表す通り「小さいものでも積み重ねれば大きなものになる」という意味。後述するが、ここに出てくる「塵」を埃やゴミ、あるいはつまらないものを表す言葉ではない。なお、「積土成山(せきどせいざん)」は「塵も積もれば山となる」とほぼ同じ意味を持つ四字熟語だ。
仏教書が語源
「塵も積もれば山となる」の語源は、「大品般若経(だいぼんはんにゃきょう)」という般若経典を詳しく注釈した全100巻もの仏教書、「大智度論(だいちどろん)」の94巻に記されている一文。「譬如積微塵成山、難可得移動(微塵も積もり積もれば、山となり動かすことができなくなる)」がそれにあたり、微塵(みじん)は埃やゴミのことではなく「ごくわずかなもの、小さなもの」を表している。
ポジティブとネガティブ、両方の意味で使われる
「塵も積もれば山となる」は、「塵」の部分に何を当てはめるかによってポジティブ、ネガティブどちらの事例にも用いられる。例えば、“毎日コツコツ努力をして目標を達成する”といったニュアンスで使えばポジティブな意味だが、“些細な怠慢や無駄が大きな損失に繋がる”ならネガティブな表現になる。
「塵も積もれば山となる」の類語と英語表現
次に、「塵も積もれば山となる」に似た意味を持つ言葉や、英語で説明する場合に使える具体的な表現を紹介する。言葉の理解を深めつつ、実際に会話で使う際の参考にしてほしい。
英語ではどのように表す?
「塵も積もれば山となる」の英訳としてよく使われるのが「Many a little makes a mickle」。「a little」は「わずかな、少量の」を、「mickle」は「多くの、多量の」を表し、「少量のものがたくさん集まれば多量になる」という意味になる。また「Light gains make heavy purses(少しの収入が重い財布を作る)」も同義。
英語に限らず、似た意味の言葉は世界中にあり、例えばフランス語では「Petit à petit l’oiseau fait son nid(鳥は少しずつ巣を作る)」、中国語では「集腋成裘(狐の脇の下の高級な毛を集めて毛皮にする)」といった慣用表現が使われている。
「塵も積もれば山となる」の類語は?
・雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ)
「雨垂れ石を穿つ」は、中国の歴史書「枚乗伝(ばいじょうでん)」の一説が基になった故事成語。雨垂れの小さな雫も、長い時間をかけて同じ場所に落ち続けると固い石にも穴を開けることから、「小さな努力を積み重ねていずれ大きな目標を達成する」といった意味を表す。企業面接の際などに聞かれる座右の銘としても人気のある言葉だ。
・ローマは一日にして成らず
英語のことわざ「Rome was not built in a day」を日本語訳した「ローマは一日にして成らず」は、繁栄を誇ったローマ帝国は一日で建設されたものではない、つまり意味は「大きなことを成し遂げるためには長い年月に渡る努力の積み重ねが大切」となり、「塵もつもれば山となる」に近いニュアンスを持つ。
・積羽舟を沈む(せきうふねをしずむ)
中国の歴史書が由来の故事成語「積羽舟を沈む」も、「塵も積もれば山となる」の類義語。「羽のように軽いものでもたくさん積めば舟が沈んでしまう」ことを表した言葉で、転じて「小さなことでも重なると大事の原因になる」という意味。どちらかと言えば、あまり望ましくない結果に対して使われることが多い。
「塵も積もれば山となる」の例文
「塵も積もれば山となるだと思い、最近では買い物をする時はマイバッグを持参するようにしている」
「毎月少しずつ貯金をしていたら、10年経ってかなりの金額になった。まさに塵も積もれば山となるだ」
文/oki