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「圧巻」「矛盾」のように、日常生活の中で当たり前に使われている言葉の中には、中国の古典に記された出来事が基になった「故事成語」が多くある。言葉の成り立ちや意味を理解すると、表現にも幅が生まれ、さまざまな場面で役立つもの。そこで本記事では、故事成語の一つである「水魚の交わり」について、詳しい意味や由来、使い方などを詳しく解説する。
ことわざ「水魚の交わり」の読み方と意味、使い方
はじめに、「水魚の交わり」が表す意味や由来となった古典について理解しておこう。故事成語にはこの言葉のように「~の交わり」という言葉がいくつかあるが、どれも人間関係を表現するものとして使われている。
親密な関係性を水と魚にたとえた故事成語
「水魚の交わり」とは、魚にとって水がなくてはならないことから「お互いにとって欠かせない存在」を表す言葉。わかりやすく言うと、とても親密な人間関係のことだ。友人だけでなく、主従や夫婦関係の仲の良さを表現する際にも用いられる。
由来となったのは三国志の一説
「水魚の交わり」は、中国三国時代について書かれた歴史書「三国志」の中の「蜀書 諸葛亮伝」に記された一説が原典となっているが、その後「三国志」を娯楽小説として発展させた「三国志演義」の中にも登場し有名になった。
三国時代の武将、劉備が諸葛亮を軍師として迎え入れて以来、両者の親交は日々強いものになっていった。「水魚の交わり」は、そんな自分たちの関係を劉備が配下の者に説明する際に用いた表現で、その部分を表した原文の一例と現代語訳(口語訳)を以下に紹介する。
原文:「興亮情好日密 曰 孤之有孔明 猶魚之水也」
現代誤訳:「こうして(劉備と)亮の親交は日毎に深まっていった。劉備は『私にとって孔明がいることは、言うなれば魚に水があるようなものだ』と言った」
「水魚の交わり」を使った例文
「彼女と幼馴染はいつ見ても仲が良く、まさに水魚の交わりのようだ」
「うちの会社の社長と部長は、会社創設からの付き合いとあって水魚の交わりと呼ぶべき仲だ」
「彼は知り合いや友人が多いといつも自慢してくるが、その中に水魚の交わりと言えるような本当の友人はいるのだろうか」
漢文では「如魚得水」
「水魚の交わり」は、漢文を用いた四字熟語で「如魚得水(うおのみずをえたるがごとし)」とも表現される。これは「仲の良い友人を得る」を表す他、「水を得た魚のように、自分の才能を発揮できる環境で活躍する」と、厳密には「水魚の交わり」と少しニュアンスが異なる意味も持つ。
「水魚の交わり」を使う時に覚えておきたい関連語や英語表現
親密な人間関係を表す「水魚の交わり」は、日常生活のみならずビジネスシーンでも使える表現だ。この機会に、類義語や英語での表し方といった関連表現も併せて覚えておこう。
類語
・管鮑の交わり(かんぽうのまじわり)
「管鮑の交わり」も、中国の古典を基にした故事成語。中国春秋時代に名宰相と言われた管仲(かんちゅう)と、その親友の鮑叔牙(ほうしゅくが)の生涯を通した厚い友情が由来で、「お互いを理解し合い、とても仲がいい友人関係」を表す。この他にも、「二人が結束すれば金属すらも断ち切れる」という意味の「断金の交わり(だんきんのまじわり)」や、「金や石のように固く、壊れることがない関係」を表す「金石の交わり(きんせきのまじわり)」も似た意味を持つ。
・梅に鶯(うめにうぐいす)
春の訪れを告げる梅と鶯は、縁起のよいものとして古来より絵画や詩歌の題材として多く取り上げられ、広く親しまれている。このことから、「切っても切り離せない間柄」や「とても相性の良い組み合わせ」を指す時に使われることわざ。
・莫逆の友(ばくぎゃくのとも/ばくげきのとも)
「莫逆の友」も「水魚の交わり」の類語の一つ。「莫」は否定の意味を持つ漢字で、つまり「莫逆」は「逆らうことがない」を表す。「お互いを否定したり争うことのない親密な間柄」を指す時に用いられる表現。
「水魚の交わり」を英語で表すと?
「水魚の交わり」を英語で表す場合は、「close friendship」や「intimate friendship」がよく使われる。friendship は「友情」や「友人関係」、closeとintimateはいずれも「親しい、親密な」を意味する単語。そのほか、「hand and glove」も「水魚の交わり」の英訳表現として適している。直訳すると「手と手袋」の意味を持ち、ここから転じて「切っても切れない関係、極めて親しい関係」を表す。
文/oki