貧しく過酷な暮らしから、お姫様のような生活へ……。絵に描いたような“シンデレラ・ストーリー”を歩んできた主婦は、なぜ御曹司の夫を殺害して遺体を切断したのか。
2021年7月8日よりNetflixで独占配信中の『エリーゼ・マツナガ: 殺人犯が抱える心の闇』(全4話)は、ブラジルでエリザ・カパイ監督によって制作されたドキュメンタリーシリーズ。
あらすじ
2012年、大手食品メーカーの会社役員マルコス・マツナガ氏が行方不明となる。日本人の祖父が設立した会社の次期後継者となることが決まっていたマツナガ氏は、ブラジル国内では有名人だった。
通報者は妻のエリーゼ。
当初は誘拐が疑われていたが、実はエリーゼによって殺害されていたのが真相だった。さらにエリーゼがマツナガ氏を殺害後に遺体を切断していたことも報道され、ブラジル国内に衝撃が走った。
貧困家庭で育った女性と、有名御曹司の“格差婚”。
結婚当初は仲睦まじい夫婦だったという。
とくにマルコスは若く美しいエリーゼに夢中で、高級ブランドなど彼女が欲しがるものを何でも買い与えた。
しかし不妊治療中にマツナガ氏の不倫が発覚。
エリーゼは離婚を決意するが、妊娠が判明したため離婚を思いとどまった。しかし娘が誕生したあとに再び喧嘩が増え、エリーゼは二度目の不倫の証拠を確保する。
追い詰められたエリーゼが、娘への愛情を抱きながらも凶行に走ったのは一体なぜなのか。
エリーゼ本人をはじめ、親族・友人、弁護士、警察、記者らへの独占取材をもとに、当時の報道映像や警察の映像資料なども交えながら事件を振り返る。
見どころ
マツナガ氏の友人・知人によると、エリーゼはまるで“お姫様”のように扱われていたという。
しかし優しかったマツナガ氏は結婚後に態度を一変させ、エリーゼを見下しモラハラ的な発言をすることが多くなっていった。
玉の輿&年の差婚の果ての、夫によるモラハラ・不倫……このような夫婦トラブルは日本国内でも決して少なくないが、なぜ遺体を切断するほど猟奇的な殺人事件にまで発展したのか。
本作では、エリーゼとマツナガ氏の馴れ初め、そしてエリーゼの過酷な生い立ちに迫り、他の事件との違いを掘り下げている。
どんな理由があろうと殺人は決して正当化されるべき行為ではないものの、詳細を知っていくと、やはりエリーゼの方にどうしても同情的になってしまう人がほとんどではないだろうか?
「可哀想なエリーゼ」
これが良心を持っているほとんどの人が本作を観て抱く、正直な感想かもしれない。
しかし、自分に度重なる酷い仕打ちをしてきた夫のことが殺したいほど憎くても、愛する娘のことを思って踏みとどまる人が実際には世の中の大半を占めるだろう。
実行してしまったエリーゼの中には、他の多くの女性たちとは確実に違う“何か”があったのだ。
エリーゼの心の中にも娘を思っての葛藤はもちろんあったはずだが、いったい何が彼女に一線を越えさせたのだろうか。
被害者や加害者に安易に感情移入するよりも、その“何か”を理解することが、私たち視聴者一人ひとりに求められるのかもしれない。
Netflixオリジナルシリーズ『エリーゼ・マツナガ: 殺人犯が抱える心の闇』
独占配信中
文/吉野潤子