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好きな人と同じ体験を共有したいと思うのはなぜ?

2021.07.18

 周囲の人々が小走りに駆けはじめた。自分もうかうかしていられない。ズブ濡れになる前に屋根のある通路に駆け込まなくては——。

梅雨明け直前の街でゲリラ豪雨に遭う

 梅雨明け直前の蒸し暑い午後、新宿某所での用件を終えて都庁近くの高層ビル街を歩いていた。この辺に来るのも久しぶりだ。

 都庁は比較的新しい建物だが、住友ビルや三井ビルディングはいったい築何十年くらいになるのだろう。自分が子どもの頃からずっとここに建っていたはずだが、まさかこの先何十年もずっとこのまま鎮座しているのだろうか。こうした巨大な高層ビルがどのぐらいもつものなのか見当もつかない。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 雲行きがあやしくなっきた。どこか遠くで雷が鳴り響いているのが聞こえる。ひと雨きそうだ。

 ともあれ梅雨が明ければ今年も本格的な夏を迎える。夏休みという言葉も浮かんでくるが、先行きの見えない感染症禍で今年も“特別な夏”が続くことになった。

 感染症禍の夏休みで子どもたちにとってなによりも残念なのは思い出作りが難しくなることだろう。特に友だちやクラスメイトと体験を共有する夏の思い出はあまり多くは作れないかもしれない。しかも去年に続いてのことだ。

 個人的にはもはや夏の思い出のことなど考えることもないが、日中の猛暑がいくぶんか収まった夜に場末の居酒屋に入ってもつ焼きなどをつまみなががらグラスを傾ける体験は、後から思い出せばいい夏だったと振り返ったりもする。今年はこうした他愛のないほろ酔いの夏の夜とも無縁になりそうだ。

 辺りに閃光がはしった。少しして大きな雷鳴が轟く。いよいよ降り出してきそうだ。……呑気なことを言っている場合ではなかった。音を立てて大粒の雨が落ちてきた。周囲の人々が蜘蛛の子を散らすように三々五々となる。駅に通じる屋根のある通路まで走るしかない。

 雨の勢いはどんどん増してきた。ようやく通路にたどり着いたところで完全な土砂降りになる。だいぶ浴びてはしまったが最悪の事態はなんとか避けることができた。バッグからハンドタオルを取り出して少し頭を拭う。

 見れば周囲には自分と同じように通路に駆け込みハンカチやハンドタオルなどで身体に着いた雨水を払っている人々がいた。もちろんまったく面識のない人たちだが、同じ体験を共有したという意味では“戦友”のような存在にも感じられてくる。

我々は人と同じ体験を共有したいと望んでいる

 地下通路を駅に向かって歩く。雷雨はきっと小1時間ほどは続くのだろう。急いで帰る必要もないので、どこかで遅い昼食にしてみてもよい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 駅へ通じる長い通路の左側は高層ビルの地下階になっていて、いくつもの飲食店が集まったレストラン街になっている区画もある。ここにあるいずれかの店に入ってみてもよいのだろう。さっそく足を踏み入れる。

 突然の雷雨に出くわすのは運が悪いことではあるが、季節感のある風物詩的な出来事でもある。子どもの頃、夏休み中などに突然の夕立に遭って全身をずぶ濡れにした体験は誰しもあるのではないだろうか。そして子どもの頃は得てして雨でずぶ濡れになる体験が楽しかったりもするだろう。

 今、自分が全身をずぶ濡れにしてしまうのにはこの後の社会生活上支障があるが、子どもであればちょっとした夏の思い出になるかもしれない。その時に友だちなどと一緒にびしょ濡れになったりすれば、いい思い出話にもなり得るだろう。

 しかし今の子どもたちにはそんな他愛のない夏の思い出を作る機会もまた少なくなってしまったといえる。1人で夕立ちを浴びるよりも断然、友だちなどと一緒に夕立を浴びる体験を共有したほうが楽しいし思い出に残るだろう。

 我々はやはり他者と共に楽しみ、共に喜ぶ体験を欲していることが最近の研究でも報告されている。


 ここでは自分自身と他人に起こるイベントのタイミングの好み、つまり社会的快楽編集(social hedonic editing)について調べます。

 5つの研究で人々は他の人が同様のポジティブまたはネガティブなイベントを経験するのと同じ日にポジティブまたはネガティブなイベントを経験することを好むことがわかりました。

 研究1と2は個人内(intrapersonal)ではなく、個人間(interpersonal)の文脈でこの「体験共有の好み」を文書化しています。研究3と4は、対人関係を向上させるためも人々が体験共有を好むことを示唆しています。5は境界条件を強調しています。人々は非常に感情的な影響を与えるイベントの体験共有は好みません。

※「SAGE Journals」より引用


 米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校をはじめとする合同研究チームが2020年4月に「Social Psychological and Personality Science」で発表した研究では、実験を通じて人々は基本的に他者とイベントを同時に体験したいと望んでいることを報告している。我々は基本的に楽しさや感動を人と同時に共有したいのである。

 快楽編集(hedonic editing)についての以前の研究では、いいことであれ悪いことであれ、自分の身に起こるイベントはなるべく分散した日程で経験したいと考えていることが報告されている。たとえばロトくじに2回当選する体験が待っているとすれば、人々は基本的に同じ日にいっぺんに体験するのではなく、別々の日に体験したいと考えているのだ。

 そして今回の研究は、その快楽編集がソーシャルなものであった場合、人々はどのように考えているのかが探られたのだ。

 たとえば好きな有名人からサプライズメッセージが届けられるという体験が自分にも友人にも待っていた場合、人々は基本的にそれが自分と友人で別々の日ではなく、同時に起こって欲しいと考えていることが調査を通じて浮き彫りになったのである。我々は特にポジティブな体験を好きな人と同時に共有したいと望んでいることになる。

季節感を感じさせる夏の味覚を堪能する

 フロアを歩き天丼店と牛丼店の前を通り過ぎる。その奥には寿司屋も見えてくる。さらには居酒屋もあるようだ。牛丼でもよかったが、もう少し歩いてみる。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 通路を右に曲がるとまた別の居酒屋があり、その奥にうなぎの店があった。うなぎは久しく食べていなかったし、またいかにも夏らしい。入ってみよう。

 ランチタイムを優に過ぎている中途半端な時間であったが、それなりに広い店内には3人の先客がいた。店員さんの導きで手指の消毒を済ませ、4人掛けの席に着く。

 定番メニューであるうなぎが2倍のうな丼を注文しようかとも思っていたのだが、期間限定で「うなめし」のうなぎの量が3倍の「うなめしギガ増し」を提供中とのことで店員さんがお勧めしてくる。ここは素直に従おう。赤だしみそ汁にサラダも一緒に注文する。

 店内の貼り紙には「土用の丑の日」の予約を受付中という告知もある。まったく気にしていなかったが今年の土用の丑の日は7月28日であるとのことだ。通年食べられるうなぎだが、やはりそれなりの季節感はあるということだろう。

 さっそくうなめしがやって来た。赤だしみそ汁を一口飲んでからうなぎの部分だけを口に運ぶ。柔らかくて美味しい。ご飯の大盛りは無料だったが普通盛りにしたので、うなぎの量の多さが余計に引き立つ。本格的にうなめしを堪能する前に、まずはサラダをたいらげたい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 うなぎの丼物を食べるのはずいぶん久しぶりのことだ。基本的には酒の肴としてうなぎを食べたいので、夜にアルコールと共に串焼きや白焼きを食べることのほうがこれまでは多かった。しかし今は外食でアルコールは難しい状況なので、今後は明るい時間に丼物を食べる機会のほうが増えそうだ。

 サラダを食べ終えたのでうなめしの攻略にとりかかる。味わいつつも休むことなく食べ尽くすことにしたい。

 うなぎのほかにも夏を代表する味覚は何だろうか。真っ先にスイカが思い浮かぶが、立派な酒飲みになってしまった自分にはスイカにはあまり食指は動かない。しかしトウモロコシやアスパラガスなどは夏には特に食べたくなる。時間のある時には久しぶりにトウモロコシを茹でて食べてみたいものだ。

 もちろんこうしてうなぎを食べる体験も、気の置けない人物と一緒に共有できればより楽しい体験になることは間違いない。しかし今はそれもそれほど簡単なことではなさそうだ。一緒に食べたとしてもあまり会話を弾ませるわけにもいきそうにない。

 しかしそれでもこのレストラン街の数ある店の中からうなぎの店を選んだということは、きっと自分もまた無意識であれ夏と夏の味覚を誰かと共有したいと望んでいるのだろう。今年の夏に何かひとつでも思い出が作れるだろうか。

文/仲田しんじ

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