資産裏付型セキュリティトークンを対象としたSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)が、SBI証券と野村證券で行われる。資産裏付型が対象となるのは国内初。
裏付となる資産は、大手不動産ファンドのケネディクスが手がける渋谷の賃貸不動産。
発行決定日は2021/8/2予定で、募集の需要申告が始まっている。
セキュリティトークンの発行・管理は、三菱UFJ信託銀行が開発した「Progmat」(プログマ)というブロックチェーン基盤を使う。
今回のSTOに関連するSBI証券ら4社は、2021年7月9日付で資産裏付型セキュリティトークンのSTOの協業に関するプレスリリースを発表した。
注:各社のプレスリリース記事URLや募集情報URLは記事最下部に記載
■資産裏付型セキュリティトークン発行の仕組み
プレスリリース文中では、上図のイメージ図を用いて、資産裏付型セキュリティトークン発行の仕組みを説明しているが、登場人物が多く、金融特有の専門用語が並んでいて分かり辛い。
そこで本稿では、@DIME読者の皆さんが理解しやすいように、登場人物の役割を整理しながら、用語を解説した。
■セキュリティトークンでの投資対象
引用元:SBI証券
ケネディクスが手がける渋谷のマンションが投資対象、つまりセキュリティトークンの裏付資産となる。投資商品名は「ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南(譲渡制限付)
渋谷の不動産がセキュリティトークンとして募集されるまでの流れ
そもそも裏付とは「利益が発生する資産がある」という意味。
今回の仕組みでは、ケネディクスが手がける渋谷の賃貸不動産が資産、入居者の賃料収入が利益となる。
その不動産を「信託」する。具体的には、「受益証券発行信託」という仕組みを使い、投資家が売買しやすい「有価証券」を作って出資を募る。有価証券に当たるのがセキュリティトークンとなる。
- 有価証券とは?
企業の株式のように、ある対象に対しての価値や権利を示して発行される書面のこと。データで管理されることもある。
- セキュリティトークンとは?
ブロックチェーン技術を使ってデジタル化した有価証券のこと。
「セキュリティ」は「証券」という意味、「トークン」は、ブロックチェーン上に価値や権利の情報を記録して、他者と交換ができるデジタルデータという意味。
●信託とは?
引用元:信託協会
信託とは財産を「信じて託す」こと。誤解を恐れずに言えば、プロに「丸投げ」することである。何を丸投げするか。今回の例では、渋谷の賃貸不動産を裏付けにしたセキュリティトークンの発行業務などである。
不動産の所有者であるケネディクスは、投資を受けた資金の運用や、建物修繕などの管理は自社で行う。しかし、投資家を集めたり、セキュリティトークンを発行したりなどの業務は、三菱UFJ信託銀行に任せていることになる。
- 受益証券発行信託とは?
今回は三菱UFJ信託銀行が信託を受け、Progmaを使ってセキュリティトークンを発行している。
既存の金融の仕組みで、セキュリティトークンは有価証券の一種であると整理。有価証券を発行する信託なので「受益証券発行信託」という。ちなみに受益とは利益が得らえるという意味。
●SBI証券と野村証券が投資家に対してセキュリティトークンを募集する
セキュリティトークンへの投資への応募は、SBI証券または野村証券を通じて行う。募集が終了したら、SBI証券と野村證券は投資家の情報や投資家の出資金額を三菱UFJ信託銀行に送る。
また渋谷の不動産から利益が出た場合、三菱UFJ信託銀行がケネディクスから一括で利益を受け取り、SBI証券または野村証券を通じ、配当金として投資家に支払う。
以上が一連の流れである。
- 配当金にかかる税金はいくら?
2021年7月時点の税制では、今回のSTOで投資して配当金を受け取った場合、上場株式の配当金と同じく20.315%の税金がかかる。内訳:所得税(復興特別所得税含む)15.315%、地方税5%。
例)50,000円の配当金の受取:
所得税=50,000×15.315%=7657円(小数点以下切り捨て)
地方税=50,000×5%=2500円
税額計=10,157円また上場株式の売買で生じた損失と損益通算もできる。株式の取引に慣れている人ならば、お馴染みの税制といってよいだろう。
税率引用元:ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南(譲渡制限付)の目論見書
■各会社の役割分担と用語のまとめ
・オリジネーター:不動産の元の所有者のこと。
・アセットマネジメント:この場合は不動産やその入居者の管理などを行うこと
・保護預かり:購入したセキュリティトークンを投資家の代わりに預かっておくこと。投資家の手元には、セキュリティトークンは届かない。
・カストディ業務:投資家の代わりにセキュリティトークンを保管し、利益の分配があったときは代わりに受け取り、投資家に送金する業務。今回の例では間にSBI証券や野村證券が入っているので、これらの証券会社経由での業務を行う。
■受益証券発行信託のまとめ図解
引用元:信託協会
図では「①貴金属を信託」となっているが、今回の例の不動産も当てはまる。また商社をケネディクスに、信託銀行等を三菱UFJ信託銀行に、証券会社等をSBI証券・野村證券に、受益証券をセキュリティトークンに読み替えるとよい。
受益証券発行信託は、セキュリティトークン用に作られた仕組みではなく、資産の所有者が資金を調達する仕組みのひとつ。資産の所有権を手放すことなく、有価証券を作って資金調達ができるので「証券化」や「流動化」ともいわれる。流動化とは、金融市場で取引がされやすいという意味である。
証券化・流動化は、ケネディクスのような不動産保有者が、不動産を手放すことなく、新たな不動産への投資資金を集められる。金融市場を活用して投資家とWin-Winの関係を作れる仕組みでもある。
各社プレスリリース記事など(順不同)
■STO ビジネスにおける業種横断での協業と資産裏付型セキュリティトークンの本邦初の公募について
・三菱UFJ信託銀行
・ケネディクス
・野村證券
・SBI証券
ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南(譲渡制限付)の投資募集ページ/SBI証券
文/久我吉史