ショートケーキ好きを震撼させたスイーツ界の大事件
その衝撃的なビジュアルを初めて目にしたのは、2021年6月20日のこと。北海道発のリゾット専門店「リゾットカフェRisotteria GAKU(リゾッテリア ガク)」兼「夜パフェ」専門店のオーナーである橋本学さんが投稿したtweetだった。
なんと、缶入りのショートケーキ!プルトップを開けた写真からは、中に生のイチゴとふわふわのクリームがぎっしりつまっているのがわかる。最初は、よくできたコラ画像かと思ったが、文面を見るとどうやら本物らしい。
今まで、イチゴショートケーキを買って持ち帰る時は揺らさないようにものすごく神経を使っていた。それでも崩してしまうことが多く、手土産にしたくても、移動距離が長いとあきらめたりしていた。だが缶詰なら、バッグのすみに突っ込んでも、なんならポケットに入れても、気楽に持ち運ぶことができる。まさにショートケーキ界の革命だ。
▲話題沸騰の「ショートケーキ缶」(写真提供:株式会社GAKU)
驚いたことはもうひとつある。「缶詰」と聞いて、外側に見えているショートケーキの断面は、印刷したラベルだと思っていた。だが本体は透明のプラスチック容器。つまりこの絵のように美しい断面はすべて本物で、缶の中には本当にこのとおり、ショートケーキがすき間なく詰まっているのだ!
当然のことながらこの投稿の反響は大きく、その日のうちに一気に拡散。5日後にはYahoo! トレンド一位を獲得し、現在ではリツイートは1.1万を超えている。この現象に、フジテレビ『ノンストップ!』、日本テレビ『スッキリ』、テレビ朝日『グッド! モーニング』など各局のワイドショーが競うように紹介し、7月に入ってからは、韓国のSNSでもスレッドが立ったほど。
■さっそく「ショートケーキ缶」を買いに行った
このショートケーキ缶が買えるのは、2021年6月11日に渋谷にオープンしたリゾット専門店「リゾットカフェ Risotteria GAKU 渋谷」。さっそく買いに行ってみた。
「リゾットカフェ Risotteria GAKU 渋谷」があるのは、渋谷駅西口東急プラザ横の「渋谷中央街」。
2~3分ほど歩いた左手の飲食店ビルの3階に、看板が見える。
さっそく3階に上がって店を訪れると…。
▲店内は入口左手がカウンター席、右手がテーブル席。(写真提供:株式会社GAKU)
このお店は、北海道・札幌で15年以上愛され続けているリゾット専門店の東京初出店店舗。訪れたのはランチタイム終了前の2時過ぎだったが、リゾットを楽しむ若いお客で賑わっていた。
▲ショートケーキ缶はテイクアウトのほかに、店内でデザートとして食べることができる
一番人気は「ショートケーキ缶」だが、シフォンケーキと北海道産の生クリーム、フルーツピューレ、旬のフルーツのコンフィチュール入りの「ふわ缶」も同時発売していて、こちらも人気だ。
▲左から「ふわ缶 苺とシフォンと生クリーム」「ふわ缶 柑橘とシフォンと生クリーム」「ふわ缶 ブルーベリーとシフォンと生クリーム」(各900円)(写真提供:株式会社GAKU)
店頭には「売り切れ」の貼り紙が貼られていた(取材として申し込んでいたので、取り置きをしてもらえた)。連日、11時のオープン前から行列ができ、30分ほどで完売する状態が続いているとのこと。ちなみに現在は宅配サービスのwolt、menu、Uber Eatsから購入可能になっている。
▲「ショートケーキ缶」(1100円)は要冷蔵で購入当日が賞味期限
▲ショッパーには、夜パフェにちなんで、夢を食べるといわれている動物、バクのイラストが描かれている
■持ち帰って、食べてみた
購入後は何か所か寄り道をし、あまり気を遣わずに持ち運んだ。持ち運び時間は2時間弱だが…
全く崩れていないのは、お見事!プルトップを引いて開けてみた。
ぎりぎりまでみっちり詰まった生クリームから、生のイチゴがのぞいている。これはかなり気分がアガる光景だ。
深さがあるので、ロングスプーンが付属されている。底からきれいに取り出そうとして、ぐっとスプーンを差し込んでみたが、みっちり詰まっているので、なかなか底まで届かず、きれいに取り出すのは至難の技。スプーンでちびちびと食べるのが正解なのだろうが、全体でどれくらいの量が入っているのか確かめるために、まずは全部を空けてみた。
▲せっかくの美しい断面をぐちゃぐちゃにするのは、少し心が痛んだ…
中のショートケーキをすっかり出して、また驚いた。
缶のサイズ(330ml)の1.5倍~2倍くらいの量のイメージ。
みっちりと詰まってはいるが、取り出したクリームはふわふわでエアリー。スポンジもふわふわだ。食べる前は多いと思ったが、クリームが非常に軽く、甘さも控えめ。スポンジ部分は卵のコクがしっかりありながらやはり軽い食感で、まさに飲み物のようにするすると入っていく。アクセントとして入っているナッツの食感も楽しい。
■正統派ショートケーキにはない、ショートケーキ缶だけの楽しさがある!
普通のショートケーキよりもイチゴの量が多く、しかも1/2に大きくカットされているので、イチゴを噛んだ時の果汁感がすごいし、イチゴの存在感も大きい。
そして何より「すごい!」と思ったのは、スプーンを差し込む位置によって「イチゴ」「スポンジ」「クリーム」の比率が大きく変わること。どこをカットしても同じバランスになる正統派ショートケーキとは、そこが全く違う。どのバランスで食べても違う美味しさがあるのは、それぞれのパーツのクオリティーが高いからだろう。ほかのスイーツも、この形態で食べてみたくなった。
■目的は、自動販売機で“24時間いつでも買える”こと
このショートケーキ缶を開発したのは、(株)GAKU代表で、イタリアンのシェフであり、パティシエでもある橋本学さん。開発にかかったのは3カ月ほどで、最も難しかったのは、断面をしっかりきれいに見えるようにチェックしながら組み立てていくこと。
▲ショートケーキ缶を開発した橋本学さん(写真提供:株式会社GAKU)
「イチゴもひとつひとつすべて、スタッフが容器の内側に貼り付けています。クリームを入れる時にどうしても空気が入るので、それを取り除かないと完成した時に丸いドットができてしまいますし、クリームやイチゴが動かないように、きっちり詰めるのにも非常に神経を使います」((株)GAKU 社長秘書 山本裕美さん)。
SNSでは形態の面白さや、映えるビジュアルに注目が集まっているが、(株)GAKUによると、ショートケーキ缶の開発の目的は持ち運びの不便解消ではなく、自販機での販売だという。
「深夜の時間帯に、仕事を終えた人や飲み会の帰りにおみやげを買いたい人が、24時間いつでもコンビニスイーツ以上のクオリティーの、パティスリーが作ったケーキを買えることを目的に、無人でも販売できる自販機用として、ショートケーキ缶を開発しました」(山本さん)。
自販機は2021年7月16日に札幌市内でオープンする新スイーツ店「pâtisserie OKASHI GAKU」の店頭に置かれている。
▲自販機は2021年7月16日オープンの新スイーツ店「pat
■ルーツは、夜カフェ⁉
じつは同社は、札幌市内に3店、東京都内に3店、福岡市と大阪市に各1店、計8店の“夜パフェ”店を運営している。「1日の締めに美味しいパフェで〆てよい夢を見て欲しい」という、代表の橋本さんの想いからできた店だという。「24時間、ショートケーキが食べられるように」というショートケーキ缶の発想は、この夜カフェの発想の延長上から生まれたのだろう。
▲夜パフェ専門店「パフェテリアベル新宿3丁目」の新作パフェ「うり玉や、水引きかけて、お中元」(写真提供:株式会社GAKU)
その想いは、北海道で4店・東京で1店を展開しているリゾット専門店にも共通している。リゾット専門店はその昔、橋本さんがイタリアンのシェフをしていた時に「パスタは何十種類もあるのに、なぜリゾットは種類も量も少なく、高いのか」と疑問を抱き、多くの種類を選ぶことができ、リゾット1品でも注文できる”リゾットの定食屋”をイメージして作ったとのこと。
▲リゾット専門店「リゾットカフェ Risotteria GAKU」のリゾットのメニューの一部(写真提供:株式会社GAKU)
そう聞くとショートケーキに缶も、「いろいろなことに縛られず、もっと自由に食を楽しんで欲しい」という橋本さんの願いを、形にしたものであることがわかる。それを知らずに最初にSNSで見た時に、「“映え”狙いのスイーツも、ここまで来たか」と誤解していたことを、ひそかに心で詫びた。
▲渋谷の「リゾットカフェ Risotteria GAKU 渋谷」の隣にも、姉妹店の夜パフェ専門店 「パフェテリア ベル」が併設されている
取材・文/桑原恵美子
◎関連サイト
「リゾットカフェ Risotteria GAKU」(https://risotteria-gaku.net/)
夜パフェ店(https://risotteria-gaku.net/parfait
編集/inox.