YouTubeで人気の分子調理学研究家
本格的な夏が到来。今年も蒸し暑い日々が続きそうだ。
緊急事態宣言が明けて今度は、「外が暑い」という理由でおうちごはんが流行しそうだが、どうせ作るなら、少しだけこだわってみるのはいかがだろう?
今回紹介するのは、分子調理学研究家という肩書を持つ「こじまぽん助」さん。YouTubeの料理チャンネルを運営し、著書『日本一ていねいな定番家ごはん』(ワニブックス)もある方だ。
そもそも分子調理学とは、「調理に関する現象を分子レベルで理解し、料理に対する新たな科学的知見を集積すること」(分子調理研究会会則より)。だが、こじまさんのスタンスは、そこまで堅苦しいものではない。ふつうのレシピでは省略される、「なぜその工程なのか」を詳しく解説するのが、こじまさん流。例えばフライパンでハンバーグを焼くとき、アルミホイルをかぶせるのは、なぜか? 著書の中でこじまさんは、以下のように説明する。
「フライパンのふたよりもアルミホイルでふたをする方が、温度が上がりすぎず、水分もほどよく逃がすことができる」
…と、明快。だから調理して「面倒だな」と思っても納得感があるし、完成した料理もおいしい。いつの間にか、家庭料理の腕も上がるという仕掛けだ。
前置きはこれくらいに、本書に掲載の「鶏の照り焼き」を作ってみよう。
照り焼きを分子調理学的に作ってみる
鶏の照り焼きの材料(2人分)は、鶏もも肉1枚に、塩ひとつまみ、酒・みりんが各大さじ2、砂糖と醤油が各大さじ1。いたってシンプルな内容だが、こじまさんの場合、まず「鶏もも肉の扱い方」から始まる。
買ってきた鶏もも肉をひっくり返し、皮のない側を見てみよう。そこには肉そのもの以外に、小骨、軟骨があり、筋や血管もある…言われるまで気にも留めなかったが、こうした要らないモノ。これらを取り除くだけで「肉の舌触りが変わります」と、こじまさん。
さらに、黄色い脂や身からはみ出している余分な皮も。ただし、「チキンソテーなど皮のパリパリ感を楽しみたいレシピ」については、取る必要はないとのこと。
ちなみに、やってみて気づいたが、包丁の切れ味が悪いとムダに苦労する。研いである包丁を使うようにしよう。
こうしてひと手間かけて、下処理を済ませた肉を、真ん中に近い関節部分でカット。いよいよ焼く段階へと入るが、ここでもコツが。
「フライパンに皮を下にして入れ、塩をふり、ふたを少しずらしてのせ、中火にかける。余分な脂が出たらキッチンペーパーで拭き取りながら、身の色がほぼ白く変わるまで10分ほど焼く」
皮面をフライパンにつけることで、皮は高温、身は比較的低温で焼くことになるが、これで「皮はパリッと、身はふっくらと焼き上がる」ことが期待できる。
10分ほど焼いたら、裏返す。酒、みりん、砂糖、醤油を加え、今度は完全にふたをして蒸し焼きに。1~2分ほどしたら、ふたをはずしてさっと煮からめて出来上がり。食べやすい大きさにカットして食卓へ。
定番の炒飯にチャレンジしよう
鶏の照り焼きで、こじまさん流の薫陶を受けたところで、定番中の定番家庭料理である炒飯を作ってみよう。
今度は、作るのはあなた。以下、本書に掲載の材料・作り方をそのまま載せるので、チャレンジしてほしい。
【材料(2人分)】
・冷やごはん:1合分
・溶き卵:2個分
・ハム:4枚
・長ねぎ(みじん切り):1/3本分
・酒:大さじ4
・サラダ油:大さじ2~3
・塩:小さじ1/2
・こしょう:少々
・醤油:小さじ1
【作り方】
1 材料を切る(ハムは6~7mm角に)。
2 ボウルにごはんを入れ、酒をかけ、ほぐすように混ぜる。
こじまさん「パラパラに仕上げたいので、粘りの少ない冷たいごはんを使い、酒をふってほぐしておきます」
3 フライパンにサラダ油を強火で熱し、溶き卵、2を入れ、ゴムべらで切るように炒める。ごはんがほぐれたら塩をふり、ハム、長ねぎを加えて炒め合わせる。こしょう、醬油を加えてさっと炒める。
こじまさん「フライパンは大きめのものを使うのがおすすめ。温度が下がりにくいので、パラパラになりやすい」
実際に作られてみて、理屈っぽさはあっても、調理自体は簡単なことにちょっと驚いたかもしれない。本書のほかのレシピも、数ステップで出来上がるものが多く、実はとっつきやすいのが特徴。毎度の家庭料理をワンランク上のおいしさにしたい方には、とても参考になるはずだ。
こじまぽん助さん プロフィール
分子調理学研究家、ビデオグラファー。「材料は同じ、テクニックも不要、だけど圧倒的においしく作れる」定番料理のレシピを、YouTube、cookpad、Nadiaなどに投稿している。おいしい料理の「なぜ」について、ていねいでわかりやすい解説が好評。食品系企業やメディアのレシピ開発など、多岐に渡って活躍中。『日本一ていねいな定番家ごはん』は初の著書。YouTubeチャンネルはこちら。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)