マッチングアプリなど出会いサービスの利用者が急増している今、“転ばぬ先の杖”としてぜひ観ていただきたい映画がこちら。
2021年6月23日よりNetflixで独占配信中のラブコメディ映画『グッド・オン・ペーパー』だ。
主演・脚本は、コメディアンで俳優のイライザ・シュレシンガー。シュレシンガー自身の実体験に基づいている。
あらすじ
アメリカ、ロサンゼルス。スタンドアップ・コメディアンのアンドレア(イライザ・シュレシンガー)は34歳独身。強気で一言多い性格をしており、仕事一筋に生きてきた。
強すぎて男性から怖がられることや、普通の男性と縁がないことなど、“独身女性あるある”を自虐的にネタにする芸風で人気だ。
最近ではコメディアンだけでなく俳優業にも挑戦しているが、苦戦中。
オーディションで不合格となったアンドレアが落ち込んでいたとき、帰路の空港で航空券を拾ってくれたのが、メガネにスーツの真面目そうな男性デニス。
偶然にも飛行機の座席が隣だったため、ふたりは身の上話で盛り上がる。
ヘッジファンド勤務のエリート金融マンだというデニスは、明るく話し上手で優しい性格。
初めは友情しか感じていなかったアンドレアだが、いつも献身的な態度で寄り添ってくれるデニスに対して、次第に頑なだった心を開いていく……。
見どころ
冒頭、アンドレアの語りによると「普段飛行機では話さないけど、彼はノーマルないい人に見えた」。
デニスは、ヘッジファンド勤務で、恋人はモデルのカサンドラで、名門イェール大学卒あることも判明。
アンドレアが聞いてもいないのに会話の端々にサラッと上記の情報を盛り込んでくるので、初対面でだいたいのプロフィールがわかってしまうのだ。
「家はどこ?」と聞けば、「ビバリーヒルズに購入中だ」。
出だしから何とも言えない不安で心がザワザワするが、その予感は的中する。
“落ち込んでいる時の出会いには要注意”とはよく言われているが、本作はまさにそのパターン。
気持ちに余裕がないときほど、「運命であって欲しい!」が「運命に違いない!」という思い込みにすり変わっていったりするから恐ろしい。
真面目な見た目、高学歴高収入、ユーモアセンスと愛嬌、悩みへの共感、仕事面での献身的サポート……と、すべての項目がバランス良く揃っていて怪しさ満点のデニス。
だいたいヘッジファンド勤務で多忙なはずなのに、なんで仕事が不規則なアンドレアの稽古にいつもベッタリ付き合っているんだよ……とツッコミが止まらなくなるだろう。
“外でバリバリ働いているけどいつも傍にいて献身的に支えてくれる彼”なんて、明らかに矛盾しており物理的に実現不可能なのだが、心に隙がある時は案外気づけないものなのかも。
そもそもレーダーチャートの全項目が100点の人間なんて実在しないし、ゲームのキャラクターにすらほとんどいない。
実際は「真面目だけど話は面白くない」「かっこ良くて楽しいけど堅実さに欠ける」という風にアンバランスで偏りがある方が、人間味があって自然だと言える。
仕事がうまくいかなくてつらい時や寂しい時は「どこかに自分にピッタリの完璧な相手が待っているはず」と希望を持ちたくなるものだが、自分を含めて世の中に完璧な人間など存在しないことを覚えておかねばならない。
そして、こんな苦い体験もキッチリ“芸の肥やし”にするイライザ・シュレシンガーの芸人魂にも、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
Netflix映画『グッド・オン・ペーパー』
独占配信中
文/吉野潤子