■連載/Londonトレンド通信
7月9日公開の『ライトハウス』は、ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーの2大スター主演に新鋭ロバート・エガース監督で、演技はもちろん、画面の面白さに、先の読めないストーリーと、見所満載の映画だ。
原題は『The Lighthouse』で、イギリス、ウェールズのスモールズ灯台での実話を基にしている。聞くだに恐ろしい話で、過去にも同じく『The Lighthouse』としてイギリスでラジオドラマ化、映画化されている。
映画化の方は2016年、クリス・クロウ監督、2人の主役はマーク・ルイス・ジョーンズにマイケル・ジブソンで、実話の怖さを活かしたイギリス映画だった。
一方、今回の映画は、怖さのポイントを実話とは変えている。ストーリーも実話通りにはしていない。実話を想像力で補った2016年版、アレンジを加えた今回というふうだ。
スモールズ灯台は、1775~6年、マーローズ半島から約30キロ離れた岩場の上に建てられた孤島の灯台だ。(写真は全て今回の映画『ライトハウス』から)
当初は2人の灯台守が任務にあたっていたが、あることをきっかけに、1801年には3人体制に改められた。『The Lighthouse』の基になったことだ。それは、当時の灯台守、奇しくも同じ名前のトーマス・ハウエルとトーマス・グリフィスの間に起こった。この2人、喧嘩ばかりする仲の悪さで知られていた。
今回の『ライトハウス』は、名前が同じだったことを、もう1つひねったストーリーにしている。実話の方も十分怖いが、さらにホラー味を加えている。実話とは違う結末になっているので、たいしてネタバレにはならないが、重なる部分も少しあるので、実話の紹介はしないでおく。興味のある方は、スモールズ灯台の悲劇で検索すると出てくる。
さて、仲の悪い2人というが、この映画のトーマス・ウェイク(デフォー)と上手くやれないのは、イーフレイム・ウィンズロー(パティンソン)ばかりではないはずだ。
なにしろ、汚いオヤジという言葉から連想する様々をまとめあげたような人物だ。狭い空間で遠慮なく放屁するは、ゲップするは、わかりやすく汚いばかりでなく、偉そうに指示して、きつい仕事は相手、おいしいところは自分と、やり方も汚い。
仕事の割り振りに妙に固執するのも変だ。何か秘密があるのではと、雑用ばかりのウィンズローは勘繰る。これでもかとばかりに嫌な人物を描きつつ、謎も感じさせるデフォーの演技力だ。
2人きりの島で、何かおかしな行動をしているウェイクのみならず、ウィンズローも想像力がたくましいのか、幻を見ているのか、あやしい状態だ。名優デフォーに負けず、パティンソンも引きつける。
嵐になった時、そんな2人がやけっぱちのように備蓄してある酒を次々開けて、2人パーティー状態になるのは、盛り上がれば盛り上がるほど、不安を掻き立てる。
その果てにあるのは何か。モノクロの画面、通常の横長ではなく1:1.19と真四角に近い形も緊迫感につながっている。
常軌を逸していく酔いと、海にまつわる民話、2人の灯台守がそれぞれに思う事柄が、映像効果と相まって不思議な世界を形作る。そうして運ばれていく先にある結末は、ここまで起きた事をさかのぼっての再構築を観る者に迫り、圧巻だ。
7/9(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給・宣伝:トランスフォーマー
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文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com