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実話に基づいた傑作!CIAが行なった強化尋問プログラムにまつわるAmazon Prime Videoの政治サスペンス映画「ザ・レポート」

2021.07.04

正義の名の下に残虐な拷問を行うことに疑問を抱いた実在の男性、ダニエル・J・ジョーンズの孤独な戦いを描いた政治サスペンス。

Amazon Prime Videoで2019年より独占配信中の映画『ザ・レポート』は、CIAの拘留・尋問プログラムに関する上院情報委員会の調査報告書に基づく。

『ザ・レポート』という一見シンプルなタイトルには、実は原題『the torture report(拷問報告書)』の“拷問”部分を黒塗りしたものであるという意味が込められている。

主演は『スター・ウォーズ』シリーズ、『マリッジ・ストーリー』などのアダム・ドライヴァー。

あらすじ

上院情報委員会に所属する調査官ダニエル“ダン”・J・ジョーンズ(アダム・ドライヴァー)は、9.11テロ事件以降にCIAが行った強化尋問プログラムについて、2007年から約5年かけて徹底的に調査を行った。

ダンはハーバード大学院に入学して2日目に9.11テロを目の当たりにし、翌日国家安全保障に専攻を変更。その後FBI対テロ部門で4年間の勤務を経て、上院情報委員会に採用されたのだった。

ある日、直属の上司である民主党上院議員ダイアン・ファインスタインから、CIAが破棄したアルカイダ容疑者の尋問ビデオを調査するよう命じられ、ダンが指揮を任される。

調査チームは両党から3名ずつ、個人的意見や仮説ではなく事実のみに基づく、あくまでも中立的なレポートにすることが条件だ。

様々な圧力に屈することなく、ダンは報告書を5年かけて完成させる。

「情報を集めて未来の攻撃を阻止する」という名目でEIT(強化尋問テクニック)を受けた容疑者は少なくとも119名、その4分の1は「拘留の必要もなかった」ことが明らかとなった。

しかもこのような拷問はかえって虚偽の自白や証言を誘発して問題を長引かせているだけであり、何ら有効性はないどころか有害であることが、過去の同様の事例や様々な研究結果によって証明されていた。

調査チームの仲間が次々と脱落していき、ダイアンからも断念するよう諭されながらも、ダンは執念深く調査を続けるのだった。

そしてダン自身の身にも危険が迫り、次第に追い詰められていく……。

見どころ

実話ベースということもあり、エンタメ性を重視した脚色よりも、ドキュメンタリーのような臨場感とリアリティを追求している本作。

ショッキングなシーンも含まれるが、それ以外はあまり大きな起伏はなく、淡々と物語が展開されていく。

ひたすらパソコン作業に没頭するシーンや、地味な会話シーンも多め。

しかしだからこそリアリティが強調され、静かながら強い緊迫感と罪悪感と怒りとが伝わってくるように感じた。

とくに、空軍の心理学者ミッチェル博士が自ら考案した拷問メソッドについて、淡々と、しかし得意気に会議室でプレゼンするシーンは、全ての人間が潜在的に隠し持っている暴力性を炙り出しているかのようだ。

モニターに表示されるのは、極めて非人道的な拷問手法を、デフォルメした簡素なイラストで表現したもの。標識などでよく見られる、間の抜けたような人間の記号が、恐ろしい拷問を加えられているのだ。

日常生活の人間関係において感情的・突発的に振るわれる暴力よりも、会議室の中で大勢の人間によって計画的・組織的に実行される暴力のほうがよりグロテスクで恐ろしい。

何か重大な決断をする際、独断ではなく複数の意見に耳を傾けることによって冷静さを保つことができ、倫理面でのブレーキがかかることがある。

しかし本作のように、大勢の他者の存在があることによって責任感の所在があいまいになり罪悪感が薄められ、かえってアクセルを踏むことになりかねないという側面もある。

堂々と正義を振りかざす人間だって、相手の立場から見れば“悪”そのものである可能性は否定できない。

対立する者同士、それぞれ自分こそが正義だと信じている可能性も常に頭に入れておかなければならないと思った。

『ザ・レポート』
Amazon Prime Videoで独占配信中
© 2019 RESOLUTION 400 SPV INC. ALL RIGHTS RESERVED.

文/吉野潤子

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