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15歳で家出し自ら望んでイスラム国に向かった少女の今を描くドキュメンタリー映画「The Return:Life After ISIS」

2021.07.04

Shamima Begum©TheReturnLife After ISIS 2020

■連載/Londonトレンド通信

 6月にイギリス中部の都市シェフィールドで開催された第28回シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭で、アルバ・ソットラ監督『The Return: Life After ISIS』が上映された。自ら望んでイスラム国に向かった女性たち、いわゆる“ISISの花嫁”を撮ったドキュメンタリーだ。

 イスラム国のプロパガンダ映像に、ムスリム理想の地を見たというシャミマ・べガムは、「フェイク・ニュースと事実の区別がつかなかった。私はまだ14歳でした」とイスラム国に入る決意をした頃を語る。

 イギリス生まれでバングラデシュ人の血を引くシャミマは、2015年、友人2人とイギリスからイスラム国に向かった。3人組なのと当時15歳という若さが、センセーショナルに報じられた。

 オランダからイスラム国に来た男性の妻となったシャミマは、3人の子をなすも、3人とも亡くし、夫はシリア戦士に連れ去られた。

 シャミマが今いるのは、仮収容所となっている北シリアのロジ・キャンプだ。約60か国からイスラム国に入った女性とその子供たち約1500人が暮らす。

workshop©TheReturnLife After ISIS 2020

 アメリカ生まれのイエメン人であるホダ・ムサナは、「洗脳されていることは、そこから抜け出すまで気づけない」として、「この酷い暮らしを、ずっと後悔し続けるでしょう。消してしまえたらと思います」と語る。

 ホダは「学校では友達もそれほどできず、痛々しいほど内気」な生徒だったと言い、「アメリカで生まれ育っても、先に待っているのは親の望むアレンジ・マリッジ」で、将来に何の希望も持てなかったとしている。

Hoda©TheReturnLife After ISIS 2020

 家での自分を「黒い羊」というシャミマも同様で、故国で居場所が見つけられず、イスラム国にそれを求めた。だが、イスラム国もまたパラダイスではなかった。

 映画には、「美人だから高いよ」など戯れのように女性を売り買いする、肩に銃を下げた男たちの様子や、夫が亡くなると、すぐ次の結婚を組まれた女性の話もある。

 キャンプにいる女性たちは、夢から覚めた状態だ。居心地の悪い家だったというシャミマでさえ、「母のそばで安全だった」と振り返る。シャミマは、故国に戻ることを願っている。

 イギリスでの市民権を剥奪されたシャミマは、不服として法廷で争うことを選ぶも、彼女の入国が「国家の安全面で甚大なリスクとなりうる」として、政府による入国拒否を認める判決が最高裁で下った。ほかにも帰国を目指す女性たちは、それぞれ係争中だ。

 上映とは別に、討論会も開催され、ソットラ監督のほか、関係者、ジャーナリストらがそれぞれの見解を示した。

 BBCのジャーナリスト、ジョシュ・ベーカーは、イスラム国の信条に染まった女性たちを危険視した。それに対し、人権活動団体Reprieve代表マヤ・フォアは、「イスラム国に惹かれる若者が、世界中に大勢いる現実があります。そこを考慮し、注意深く発言しなくてはなりません」と、強硬姿勢で対立を深め、結果的にそういう若者をますますイスラム国に追いやることを、警戒するふうだった。

 この映画は、映画祭終了後、イギリスでは有料チャンネルでテレビ放映された。様々な意見が出たが、この女性たちにセカンド・チャンスを与えるべきか否か、答えるのは簡単ではない。

 そういうジレンマを個人の中で抱えるのが、映画中でキーパーソンとなるセヴィナだ。女性の人権を守る活動家としてキャンプで働くセヴィナは、クルド人だ。イスラム国の攻撃を受ける民族として、セヴィナの父親は娘の活動を快く思っていない。

 セヴィナも、自分の思いを殺して、キャンプで働いているわけではない。オランダからイスラム国に来たキンバリーとのシーンは印象的だ。

 「わたしは誰も傷つけていないし、殺してもいないわ」と言うキンバリーに、セヴィナは「でも、あたなの夫は、わたしのいとこ、隣人、先生か友人を殺したかもしれない」と冷静な口調で返した後、少しきつめに「こういうことがあると、わたしがこれをすべきなのか、家に帰ってはいけないのか、ここでやることなどないと、ほんとうに思うわ」と続け、キンバリーは黙る。
 
 それでも、セヴィナはキャンプで女性と子供たちのために働き続けている。

Sevinaz©TheReturnLife After ISIS 2020

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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