DIME MAGAZINE
日本語には実にさまざまな表現があり、普段何気なく目にしている言葉でもその由来が意外なものであることは少なくない。例えば、「にべもなく断る」のように使われる「にべもない」。素っ気ない、冷たいといった意味を持つ慣用句だが、“にべ”とは何のことを指しているのまでを知っている人はあまりいないのではないだろうか。そこで本記事では、「にべもない」の語源や適切な使い方、類似表現について詳しく紹介する。
「にべもない」とはどんな意味の言葉？語源や由来とは
まず、「にべもない」の正しい意味と由来について解説していこう。前後の文脈でなんとなく理解していた人は、この機会に意味をしっかり覚えておいて損はないはず。
「にべもない」は愛想がなくそっけないこと
にべもないとは、素っ気ない、何の愛想もない態度のこと。依頼や頼み事を素っ気なく断られた場合や、意見を冷たくあしらわれた時などに使われることが多く、相手に対して思いやりや気遣いが感じられない、否定的な意味合いで用いられる。
由来は魚が原料の接着剤の名前
「にべもない」を漢字で表すと「鰾膠もない」または「鮸膠もない」。この二つに共通して含まれる「膠」は「にかわ」と読み、動物や魚の皮などを煮詰めて作られた低品質のたんぱく質（ゼラチン）のこと。今でも接着剤や日本画の画材として使われている。
「にべもない」は、鮸（ニベ）という海水魚の鰾（うきぶくろ）を煮詰めて作った膠が語源。ニベから作られる膠は粘着力が高かったことから、次第にニベそのものが「粘り気がある、執着心が強い」という意味を持つようになり、執着がない様子、素っ気ない態度を「にべもない」と表すようになった。ちなみに、執着があることを「にべがある」とは言わず、否定形だけが使われる。
さらに強調した言葉が「にべもしゃしゃりもない」
「にべもしゃしゃりもない」は「にべもない」を、より強調する表現。ここで使われている「しゃしゃり」は、「しゃしゃり出る」のように厚かましくでしゃばるといった意味ではなく、さらりとした様子を指した言葉。「粘り気もさっぱりしたところもない」、つまり愛想も素っ気もなく、ひどく無愛想なさまを表している。
「にべもない」の正しい使い方
ここからは、「にべもない」を会話や文章の中で使用する際に気をつけたいポイントを紹介する。特に、音や意味が似ている言葉との違いを理解しておくと、ぐっと表現の幅が広がる。
誤用しやすい言葉と注意点
古語でよく使われる「むべなるかな」は、「もっともだ、その通りだ」を意味する表現。この言葉は響きが似ているため「むべもない」と誤用されやすい。また、「身を寄せるあてがない、孤独だ」を表す「よるべない（寄る辺ない）」も近い響きを持つ言葉。どちらも「にべもない」とはまったく違う意味なので間違えないよう注意しよう。
「にべもない」の類義語、対義語
「にべもない」には類語表現がいくつかある。いずれも相手の態度が冷たい、素っ気ないという場面で使う言葉で、ニュアンスの違いを含めて理解しておくと役立つはずだ。
・すげない（素気無い）
「すげなく断られる」「すげない反応」のように、相手の振る舞いや言動に愛想が感じられない状況で用いられる。ちなみに、漢字の「素気無い」を“そっけない”と間違って読む人が多かったため、その後「素っ気ない」も似た意味の言葉として認識されるようになった。
・つれない
「つれない」も、相手に冷たくされたり素っ気ない態度をとられた時に使う表現。単に冷淡というだけでなく、仲の良い相手や恋人によそよそしい対応をされた時やそしらぬ振りをされた時にも「最近、彼女がつれない態度だ」のように用いられる。「つれない」は同音異義語が他にもあるが、ひらがなで表記された場合はこちらの意味であることが多い。
・取りつく島もない
「取りつく島もない」は、航海に出た船が立ち寄れる島を見つけられず、困り果てる様子が語源となっている言葉。このことが転じて、相手が無愛想、つっけんどんな態度なため話を進めるきっかけが掴めない状況を表す。
英語ではどのように表現する？
「にべもない」を英語で表現する場合、「curt」や「brusque」、「short」を用いることが多い。「curt」は日本語で「ぶっきらぼう、素っ気ない」を意味し、「a curt answer（素っ気ない返事）」のように使う。「brusque」は簡潔で無駄のない、きびきびとした態度を指し、時に“愛想のない、無礼な様子”を表すこともある。「short」は短い、低いといったよく知られているもののほかにも多くの意味を持つが、そのうちの一つに「短気な、無愛想な」がある。
文／oki
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