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【Licaxxxの読書×鑑賞文・第1回】円城塔から大人なSFの嗜みを知る

2021.06.26

■連載/Licaxxxの読書×鑑賞文【第1回】円城塔から大人なの嗜みを知る

アニメ『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』と小説『これはペンです』

 はじめまして、DJ/ビートメイカーのLicaxxx(リカックス)と申します。この連載では、映像を見て、そこから連想する本を紹介していきたいと思います。今回の事の始まりである映像作品は『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』。いきなりゴジラのSFアニメ?ヲタク全開でくる気だ!とお思いでしょうが、むしろ何で見てないんですか?『エヴァ』をもてはやして、『シン・ゴジラ』もあんだけ流行って、何でこんな地味な扱い?と私は思っている。という事で、今回は『ゴジラ S.P』を入り口に、専門用語等で難しいと敬遠されがちなSFアニメとSF小説の楽しみ方のうちの一つに誘いたい。

 SFと一口に言ってもかなり幅が広く、単なる架空の設定としてのファンタジーものから、科学的要素や社会的要素が入って考証がきちんとなされているSFまであるが、後者はなんかよく分からない=面白くない、とされている風潮をひしひしと感じる。感情も全てセリフに落とし込む、小さい子も楽しめるアニメだけしか見ない大人が大多数の世界でそうなる想像は簡単につくが…。私がこよなく愛する後者のSFアニメで特に面白いと思うための要素は大きく3つだ。

1、エンターテイメントとして楽しめること。

2、その裏に現代社会へのメッセージや問題提起があること。

3、考える余地があること。

 これは通常の私の映画の楽しみ方の基本要素3つでもあるが、やはり架空や未来の設定ゆえ圧倒的にエンタメとして成立していることは大きい。派手なアクションシーンや、実際には現時点の技術ではあり得ないことはアニメで表現しやすい。その裏で、哲学的もしくはエモーショナルな人(もしくはAI等の個体)同士の物語が展開されたり、サイバーパンクのような社会や経済・政治などを俯瞰するメタ的な視野が展開されたりする。そうやって1~3が絡みあう構造は芸術然として作品として気持ちがいいと感じる。なので、実写映画や海外ドラマはよく見るがアニメはあんまり見てない、という方が見たらすぐハマるのではないだろうか。

 ちなみにこの架空でありながらリアルな現実性を保つための役割であるSF考証という作業がある。描写されている内容が科学の基本的な原則に従っているか、もしくは現実の科学理論をふまえた上でそれを補う架空の理論や技術を設定する。ここが崩れるとエンターテイメント要素を一気に邪魔して崩れてしまう。それを説明するために科学・物理・数学等の専門用語が出てきたりするというわけだが、これが特に説明されないものは子どもから楽しめるファンタジーという印象。それらがある場合が敬遠されがちだと思うが、本当に面白い作品はそこをすっ飛ばしても面白く、理解してみるとさらに面白い、ということである。

パラレルな世界線として見る、より理解するための参考文献として読む

 さて、『ゴジラ S.P』においてはアクションとしての戦闘シーンはバッチリ2Dと3Dを素晴らしい塩梅で使って丁寧に描かれ、過去のゴジラ作品の文脈からも楽しめるポイントもあり。なんといっても、円城塔氏がシリーズ構成と脚本を務めており、高橋敦史監督の采配も大きいようだが(ゴジラ関連で円城塔氏がインタビューを受けている記事が色々なところに上がっており参照。そちらも是非合わせて読んでほしい)、円城塔小説を読んでいる時のテンポ感をさらに加速させるような音としてのセリフの配置の仕方、絵の情報などの小説にはなくてアニメでしか表現されない部分が、しっかり考証がなされ話もダイナミックにまとまっていく円城塔的SF展開を引き立てる。

 円城塔小説の楽しみ方はこうだ。物理、科学、数学、プログラミングに基づいた設定に、文学的な引用や手法がしっかり絡んでくるところ。専門用語を差し引いても、話の組み立てやオチのつけ方などは皆が面白いと感じられるはず。専門用語を散りばめた文のリズム感がパズルっぽかったり感じる時も。そしてなんか笑わせようとしてくるところ。文体の変化で思わずニヤニヤする展開を作ったり、思いつきみたいなちょっと謎な単語がクスっとさせてきたりする独特のテンション。言葉の掛け合いや展開で、同じ速度で読んでいても話が急に加速したりピタッと止まったり、時間を操ってくる文章表現。このザ・SF作品には止まらない文学作品が私は大好きだ。

 中でも私は小説『これはペンです』がお気に入り。初めて読んだ円城塔作品である。登場人物は遠隔で二人でやりとりしており、答えにたどり着くまでの道のりを、メッセージと言葉(言語として新しい組み立て)を介して進んでいき、プログラミングの起源を話しているような感覚になる。文章の中で文の作り方を考えているメタな視点や、教授との掛け合い的テンポの会話、頑張って謎を解こうとする頭の切れてる女学生のトライアンドエラー。また、『Self-Reference ENGINE』にも巨大知性体らが演算戦を繰り広げる世界で未来が競合するという表現が出てきており、この2冊は『ゴジラ S.P』のパラレルな世界線として見れたり、より理解するための参考文献として読むことができる。

 先にも申し上げた通り、理系じゃないとわからない設定に関してはぶっちゃけわかってた方がさらに何倍も楽しい(公開時期もあいまって大ヒットとなった映画『TENET』もなんで流行ったか分からないぐらいみんな分からないと言っていた…私も全てを理解したかどうかは不明だがエントロピー増大の法則一個知ってるか知ってないかで見方はだいぶ変わるなと思った…)。が、『ゴジラ S.P』に関して言えば、分からないまま進んで表現をただ眺めたり(これは余談かつオタク的だがSFアニメ表現のオマージュもあり)、速度感を楽しみながら次の展開を考えたりできる作品だと思った。同時に自分は文学的引用はあまり理解してなかった分、理解しきってないまま進んでいたところもあるが、たまにググりながら円城塔小説を読んでいる時の感覚に近い言葉遣いやリズムを愛でながら、毎週やってくる次どうなっちゃうんだろう!?と考えたり調べたりするワクワクを純粋に楽しんだ。皆様も、食わず嫌いや拒否反応を示す前に、大人なSFの嗜みをしてみてはいかがでしょうか。

今回の映像×本

『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』
・公式HP:https://godzilla-sp.jp/
・配信:https://www.netflix.com/jp/title/80234811

『これはペンです』
・詳細ページ:https://www.shinchosha.co.jp/book/125771/

『Self-Reference ENGINE』
・詳細ページ:https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/20985.html

文/Licaxxx

Licaxxx
東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2010年にDJをスタート。マシーンテクノ・ハウスを基調にしながら、ユースカルチャーの影響を感じさせるテンションを操り、大胆にフロアをまとめ上げる。2016年にBoiler Room Tokyoに出演した際の動画は50万回以上再生されており、Fuji Rockなど多数の日本国内の大型音楽フェスや、CIRCOLOCO@DC10などヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。日本国内ではPeggy Gou、Randomer、Mall Grab、DJ HAUS、Anthony Naples、Max Greaf、Lapaluxらの来日をサポートし、共演している。さらに、NTS RadioやRince Franceなどのローカルなラジオにミックスを提供するなど幅広い活動を行っている。さらにジャイルス・ピーターソンにインスパイアされたビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。若い才能に焦点を当て、日本のローカルDJのレギュラー放送に加え、東京を訪れた世界中のローカルDJとの交流の場を目指している。また、アンビエントを基本としたファッションショーの音楽などを多数制作しており、近年ではChika Kisadaのミラノコレクションに使用されている。
https://twitter.com/Licaxxx
https://www.residentadvisor.net/dj/licaxxx
https://www.instagram.com/licaxxx1/
https://soundcloud.com/rikahirota
https://www.facebook.com/licax3.official/

編集/福アニー

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