昭和40年代。日本では今とは比較にならないほどの一大サウナブームが巻き起こっていた。何と銀座だけで9軒ものサウナがあったという。高度成長期の日本とサウナの関係とは?日本サウナ業界の生き字引・中山眞喜男氏に話を伺った。
※こちらの記事は小学館から絶賛発売中のサウナムック「Saunner+」から一部抜粋して掲載しています。ぜひ合わせてご覧ください。
●お話を伺ったのは
中山眞喜男さん
1961年早稲田大学卒業。中山産業(現・株式会社メトス)専務取締役を務め、現在は公益社団法人日本サウナ・スパ協会の技術顧問。サウナ・スパ健康アドバイザー講師。※このページは『日本サウナ総研』での中山氏への取材に追加取材を行ない、新たに再構成いたしました。
銀座に日本独自サウナ。そして渋谷に本格サウナ
もともと日本は蒸し風呂文化の国だけど、そこまで蒸し返しちゃうと話が長くなりすぎる。
いわゆる〝サウナ〟と名乗った第1号は昭和26年に銀座にできた『東京温泉』が昭和32年に作ったサウナ。
でもこれはサウナもどきでね。壁や床に配管を張り巡らせて、そこに蒸気を通して部屋を暖めた、フィンランドのサウナとは全く違う日本独自のサウナ。温度自体は80℃くらいでしたが蒸気管を通した床が熱くって、跳んで歩かないと入れない。
『東京温泉』はもともと〝トルコ風呂〟を謳ってたんで、いわゆる風俗と混同されるんだけど、あくまで健全な〝ターキッシュバス〟でしたね。
その後、昭和39年の東京オリンピックの時に、フィンランドの選手たちが選手村にサウナ持ち込んで作って話題になるんだけど、日本初のフィンランドスタイルのサウナ施設といえば、渋谷の東急プラザの裏のほう、旧地名の大和田町に昭和41年にできた『スカンジナビアクラブ』ということになる。
これは設計もフィンランドの人が行なった本格的サウナでしたよ。
ただ温浴槽を追加したりする日本ならではの設計変更もあって、まぁ今のサウナ施設の原型になった。
水風呂もありましたよ。フィンランドには水風呂ないって言いますけど、古い資料なんか見ると、水風呂がないワケじゃない。そこらも参考にしたんでしょう。
それからのサウナの普及はすごかった。1年後の昭和42年の週刊朝日に『サウナバス繁盛記』っていう記事があるんですが、すでに『新宿や渋谷では過当競争でどうなるか?』って心配してる。
昭和48年に東京都衛生局係長が、日本サウナ・スパ協会に祝辞文を贈っているのですが、そこには『都内のサウナ数440軒』とある。何しろ銀座だけで一時期、9軒ものサウナがありましたからね。
『東京温泉』も、大阪の『ニュージャパン』も最初はそうでしたが、サウナを導入する以前から、スチームバスとマッサージを組み合わせた〝スチームバスセンター〟と呼ばれる娯楽施設でね。スチームバスといっても、今の広いスチームバスではなく、ひとり用のいわゆる〝箱蒸し〟ってヤツ。
そういう施設の下地がもともとあって、そこがサウナを導入していったというのも、当時の急激なサウナブームの要因のひとつだったんでしょうな。
ただそのほとんどが男性専用施設。男は外に出て、女は家を守るという、今だと問題になるような、そういう時代だったんですな。
その当時は娯楽といっても、映画と雀荘ね。それとパチンコ。パチンコ屋さんの2階にサウナを作るのも多かったですけど、まぁ映画以外はほとんど男性向けの娯楽ですよ。
そんな男の娯楽の中でもサウナは贅沢な娯楽として発展していった。
実はサウナが日本にできた初期、ロウリュができるサウナもいくつかあったんです。『スカンジナビアクラブ』もサウナ室が2つあって、温度低めの小さなサウナ室ではロウリュができた。でも酔っぱらいのお客がザバーッと水かけてヤケドするなんていうことが時々あって、危険だっていうんでやめさせちゃったんだ。
水風呂の温度は、私がいたサウナメーカーの中山産業……今のメトスですが、そこに営業店から、「何℃にすればいいんだ?」なんて質問がくるんですよ。それでお客さんにアンケートを取ると「20℃じゃヌルい、15℃じゃ冷たい」ってことになって、それでだいたい17℃くらいが主流になったんです。
今も若い人にサウナが流行ってきていますが、これをブームで終わらせず、何とか根づかせていってほしいですなぁ。
東京温泉/銀座6丁目に作られた。浴場以外に食堂、ビリヤート場なども完備していて、当時は〝豪華すぎる〟といわれた施設。
昭和46年5月1日に全国サウナ浴場協会が発行した『サウナジャーナル』第2号。〝サウナ新設急ピッチ 昨年を上廻る予想〟という見出しから、サウナブームがまだまだ加速中であったことが伺える。(資料提供・日本サウナ・スパ協会)
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取材・文/カーツさとう