2020年秋。横須賀の名サウナ『サウナトーホー』が44年の歴史に幕を下ろした。オーナー・織茂明彦氏がサウナ跡で思い返すこととは?
※こちらの記事は小学館から絶賛発売中のサウナムック「Saunner+」から一部抜粋して掲載しています。ぜひ合わせてご覧ください。
今は火の消えたサウナ室にて──やめて8か月たつけどそれから初めてここに来ました
『トーホー』を閉めてから今日で8か月たちましたけど、実はお店の跡に来るのは今日が初めてなんですよ。
この店の上の階にある事務所には、不動産の仕事で毎日来ているんですけど、あんまり思い出に浸るのは好きじゃないんです。楽しくないでしょ? とかいいながら、さっき何か懐かしくなって、風呂場で写真撮っちゃいましたけどね。
『トーホー』を閉めたのは2020年の9月10日。
コロナ禍で最初の緊急事態宣言があって、その時はしかたないと思ってたんですけど、6月になってお店を再開しても、それまでと比べると3割減。7月になって回復するかと思ったら、ますます減って4割減。
8月最初に〝閉店〟の文字が頭に浮かび、1週間たっても考えが変わらなかったらやめようと心に決めて、1週間後の8月10日。お客様と従業員に閉店を発表しました。
言い方悪いですけど、繁華街のサウナは酔っぱらいを寝かせてお金を頂いているような部分もあるんです。
それが今では周りの飲み屋さんも20時になったら店を閉めちゃうでしょ。結果論ですけど、この店を閉めて正解でした。
オーナー 織茂明彦さん
大学卒業と同時に、氏の父が開業した『サウナトーホー』を任され、名店へと育て上げる。サウナ閉店後の現在も神奈川県サウナ協会の会長を務めている。
こっから奥が増築部分でね、手前より安いタイルを使ってんの
関東型サウナとは!?サウナ室高温戦争が勃発
本当に今はサウナを閉めて、やけにスッキリした気分ですね~。
閉店発表直後と閉店前10日間は、まぁ、多くのお客さんに来ていただいて、それは感謝してますよ。それ以外は現実を見せつけられたこともありましたけどね。
そもそも、コロナ前から売り上げは落ちてましてね。昔はこのサウナも飲み屋街のド真ん中にあったんですが、飲み屋街が20年くらいかけて、少しずつまるで潮が引くよう小さくなっちゃった。
いつかはこの日が来るかもと思っていたのかもしれませんね。
1976年に父がこの店を始めた当時は、マッサージ中心の、いわゆる〝関東型〟っていうサウナ。その時は全くの赤字でね。
でも24時間営業の〝お客さんが泊まれる店〟に改装したら、売り上げ急に伸びて生まれ変わりました。さっき言った〝酔っぱらいを寝かせてお金をいただく〟ってことですね。
サウナの温度を下げた時もありましたね。関東の人は熱いのを我慢するのが好きだから、サウナ同士で高温戦争になっちゃったんですよ。そしたら、熱すぎるからってサウナ入らない人が出てきたんです。
そんな時に横浜の『スカイスパ』さんが音頭取って70℃台までズドンと下げて、ウチは80℃台に下げた。
怒るお客さんもいたんですけど、「横浜は70℃ですから」っていうと、横須賀の人は、横須賀より都会の横浜がやってるんだからしょうがないかって、納得したりね。
最初に入れ墨のある方の入場をお断りにしたのは、関東ではウチが最初だったと思うんですけど、それでお客様がノビノビと過ごせるから喜ばれたのですよね。
今後、サウナ業界全体として真剣に考える必要があるのはジェンダーレスですね。お客様を性的な視線から守れなくなる危惧もあります。デリケートな対応が必要となりますね。
サウナが今ブームだとしても、やはり〝ブーム〟では困る。〝習慣〟にならないと。スーパー銭湯は習慣になっているように思いますけど、繁華街のサウナが、その域に達するか? 自分たちで〝ブーム〟といっているのが気になりますが、〝元〟サウナ経営者として、習慣になるよう心から祈ってます。
サウナやっててつらかったこと?それは売り上げだけですよ!!
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取材・文/カーツさとう