コロナ禍ダメージが大きい若者たちSNSや倍速視聴で時間にもコスパを求める?
■コロナ禍ダメージが大きい若者たち学生の7割がオフィシャルな時間が減ったと回答
コロナ禍により、仕事や家事、勉強をするオフィシャルな時間が減ったかと聞くと、約半数(46.6%)が減ったと答えた。10代70.5%、20代46.0%、学生67.0%の若い世代やリモートワークする人59.6%がより強く感じているようだ[図13]。
一方、「何もしない時間が増えた」と答える人は33.7%となり、約3人に1人が時間の使い方を持て余していることがわかる。
特に、学生では半数以上(55.7%)が「何もしない時間が増えた」と感じていることから[図14]、これからどうすればいいのか、今どう過ごせばいいのか、時間の使い方がわからずぼうぜん自失となっている様子がうかがえる。
人生の中で最も楽しく濃密な時間を謳歌(おうか)する世代だけに、非常に酷な環境に直面していることがうかがえる。それ故か、10代62.0%、20代51.0%、学生60.1%が「コロナ禍後、もっと世の中と関わる時間を増やしたい」と望んでいるようだ[図15]。
■スピードアップ視聴が学生のスタンダード?学校のオンライン講義は半数がスピードアップ視聴で受講中
若い世代に多いスピードアップ視聴。スマホなどで動画を見るときは学生の32.7%が、録画した番組を見るときは23.2%が倍速で視聴している。学校のオンライン講義は51.2%と半数がスピードアップ視聴している[図16]。
2021年のウィズコロナ生活を表現する言葉、昨年に続いて1位「粛々」、アフターコロナは「のびのび」に
■ウィズコロナ生活は今年も「粛々」と。アフターコロナ生活は「のびのび」に
最近3カ月のウィズコロナ生活と、コロナ収束後のアフターコロ ナ生活を表現する時間にまつわる言葉を選んでもらった。ウィズコロナ生活は、昨年も今年も1位「粛々」(20年19.1% 21 年17.3% -1.8ポイント)、2位「だらだら」(20年15.3% 21年13.8% -1.5ポイント)だが、スコアはやや下がっている。
逆に「ばたばた」(20年10.3% 21年13.0% +2.8ポイント)や「せかせか」(20 年6.8% 21年10.2%+3.3ポイント) のスコアが高くなっている。
息を潜める自粛生活から、動きだしたいという気持ちが表れているようだ[図17-1]。 コロナ収束後は、昨年同様「のびのび」(25.7%)がトップで、「のんびり」(14.4%)、「てきぱき」(13.4%)の順になった。
昨年は「のびのび」(20.5%)に次いで、「てきぱき」(13.3%)「ばたばた」(13.1%)の慌ただしい言葉が選ばれている[図17-2]。 今年の方があわてずゆっくり、という意識が強いのかもしれない。
■ウィズコロナ生活、先が見えずに「ぼうっと」しちゃうことも…、早く「ほっと」して「わくわく」したい
次に、コロナ収束後のアフターコロナ生活の心情を表現する言葉を選んでもらった。コロナ収束後は、昨年同様「ほっと」(24.8%)がトップだが、「わくわく」(23.8%)が2位に浮上し、1位とのスコア差もわずかとなった[図18]。
ほっとしながらも、何をしようかわくわくする前向きな気分がより強く感じられる。
■コロナが収束したら、「友人と外食」「配偶者と旅行」を堪能したい!
コロナが収束したら、誰と何をしたいか聞いた。外食は「友人」(55.6%)や「配偶者」(39.5%)や「子ども」(31.8%)、 旅行は「配偶者」(40.2%)や「友人」(32.6%)、映画は「友人」(24.0%)や「配偶者」(21.8%)だけでなく「1人で」(18.7%) 見たい人もいた。
遊園地は「友人」(28.9%)や「配偶者」(25.6%)や「子ども」(23.3%)。スポーツは「友人」(20.8%)と一緒か 「1人で」(20.4%)、コンサートは「友人」(24.8%)と楽しみたい、という結果になった[図19]。
<セイコー時間白書グローバル編>〜アメリカ・中国の調査から見える、日本と海外で異なる時間意識〜
今回は海外との時間意識の違いを見るべく、アメリカ(ニューヨーク在住の10代~60代男女120人)と中国(上海在住の10代~60代男女120人)でも調査を行った。日本での調査結果(全国の10代~60代男女1,200人)と比較する。
■9割が時間に追われていると感じる中国人時間に追われる感覚も8割以上が「強まった」と回答
まず、時間に追われている感覚について聞くと、日本は61.8%が「追われている」のに対し、アメリカ69.2%、中国90.8%となった[図20-1]。
その感覚は以前と比べてどう変化したかと聞くと、時間に追われている感覚が「強くなった」のは日本44.2%、アメリカ52.5%に対し、中国は85.8%と一層高くなっている[図20-2]。中国人は日頃から時間に追われる感覚が強く、さらに加速化しているようだ。
■2020年は3倍弱で過ぎ去ったと感じるアメリカ人中国人の体感速度の約2倍という結果に
例年の時間の速度を1倍速とした時、2020年の体感速度はどれくらいか聞いた。日本は2.03倍、アメリカ2.92倍、中国1.49倍という結果になった。
新鮮な体験が少ない時間は、振り返った際、あっという間に過ぎ去ったように感じられるといわれているが、国ごとにその感覚の違いが見える結果となった。
同様に2021年のこれまでの体感速度は、日本2.03倍と中国1.68倍は2020年と同程度の回答となったが、2021年のアメリカは3.39倍と2020年以上の猛スピートに感じているようだ[図21]。
■時間の使い方にもお国柄?目安時間を計算して行動する日本人、効率を重視するアメリカ人と中国人
時間に関する行動17項目を挙げ、当てはまるものを選んでもらった結果、日本は「物事を始める前におおよその目安時間を計算して行動」(68.3%)がトップだが、アメリカ(83.3%)と中国(95.8%)は「なにごとも効率的に進められるよう工夫」がトップとなった[図22]。
「時間を短縮するためにタクシーを利用する」は日本9.6%に対しアメリカ36.7%、中国63.3%、「朝活する」は日本28.0%に対し、アメリカ59.2%、中国85.8%と実践する人が多くなっている[図22]。
日米差が大きいのは「やることがない時間が出来るとつい不安」日本30.8%<アメリカ67.5%(36.7ポイント差)、日中差は「せわしなくさまざまなことに追われることは楽しい」日本25.5%<中国86.7%(61.2ポイント差)だった。1日24時間、時間の長さは世界共通だが、その使い方は国により大きく異なるようだ。
■時価比較オフタイムの価値が高い日本人、オンタイムを重視する中国人、どちらも同じアメリカ人
次に、オンタイムとオフタイムの自分の1時間の価値(=時[図23]オンタイム・オフタイムの時価(図5再掲)価)を値付けしてもらった。
日本は前述図5の通り、オンタイム4,253円、オフタイム12,992円だったが、アメリカはオンタイム8,590円(78.98ドル)、オフタイム8,561円(78.71ドル)、中国はオンタイム2,319円(136.55元)、オフタイム1,751円(103.15元)となった。
日本はオン・オフの差が大きくオフタイムが断然高いのに対し、アメリカはほぼ同じで、中国はオンタイムの方が価値が高いと値付けされている[図23]。
そこで、大切にしている時間を選んでもらうと、日本は「睡眠・休憩の時間」(76.6%)、「趣味・遊びの時間」(75.7%)、 「ひとりで過ごす時間」(73.5%)とプライベートな時間が上位に挙げられた。
アメリカも同様にプライベートな時間が大 切な時間の上位に挙げられているが、「睡眠・休憩の時間」(88.3%)よりも「趣味・遊びの時間」(89.2%)の方が上位で、 よりアクティブにプライベートな時間を楽しみたいという意向が感じられる。
一方中国は、「仕事・家事・勉強をする時間」 (96.7%)のオンタイムがトップとなった。オフタイムよりオンタイムの時価が高い中国、納得の結果といえる[図24]。
■時間の効率や合理化をより推進したい中国適度に推進したいアメリカ、よりあいまいな日本
時間の使い方に対する意見を聞いた[図25]。
①時間を効率的に使うことに関しては、3カ国とも「意識する」が多く、中国では76.7%が意識すると答えている。
②普段忙しい人が休む時に時間を贅沢(ぜいたく)に使うと表現することは、「共感する」が多くなっているが、中国は共感するも共感しないもどちらも3カ国で最多である。
③無駄な時間を排除して効率性、生産性向上、時間を管理することを重要視する傾向も、3カ国とも「共感する」が高く中国では67.5%と最多。
④時間の合理化は「進めたい」が3カ国とも多いものの、日本は42.8%と半数以下で、中国は66.7%と7割が合理化推進派であるようだ。[図25]
■時間の使い方の自己採点中国78.4点アメリカ64.5点日本58.8点
時間をうまく使いこなしている度合いを100点満点として、自分の時間の[図26]時間の使い方の自己採点使い方を自己採点してもらった。その結果、日本は平均58.5点、アメリカは64.5点、中国は78.4点となった[図26]。
そこで、時間の使い方についての価値観を聞いてみた。すると、日本のスコアはアメリカや中国に比べて総じて低い結果となり、2国に比べて時間への関心がやや低いようだ[図27]。
内容を見ると、日本(55.6%)もアメリカ(84.2%)も中国(88.3%)も「自分で使い方を決められる時間の増加を歓迎」がトップだが、日本(51.3%)と中国は(81.7%)は「自由な時間を得ることは、自分で負う責任が強くなる」が2位で、自由は責任感の下に獲得できるという考え方が強いようだ。
ちなみに、自由の国アメリカでは最下位(60.8%)だった。日本と中国はスコアこそ違えど順位は同じで、時間に対する自己評価には差があるものの、捉え方は似ているようだ
■コロナ禍による生活変化、日本人は半数が考えているが、アメリカ人7割、中国人8割とより真剣に
では、コロナ禍による生活変化について考えたかどうか聞くと、日本は前述図2の通り、半数程度が考えたと答えたが、アメリカでは7割超、中国では8割以上が考えたと答えている[図28]。
ウイルスの抑え込みやワクチン接種の進み具合など、各国の新型コロナとの関わり方の違いが、意識の差にもつながっているのかもしれない。
■コロナが収束したら、ウィズパートナー!
コロナが収束したら誰と何をしたいか、日本は前述図19の通り「友人と外食」(55.6%)、「配偶者と旅行」(40.2%)が上位に挙げらたが、アメリカは「配偶者と旅行」59.2%、「配偶者と外食」52.5%が高く、中国も「配偶者と旅行」70.0%、「配偶者と外食」50.0%が高くなっている[図29]。
最後に、今回の調査結果をもとにした、心理的なアプローチによる「時間学」を提唱している千葉大学の一川誠先生の解説を紹介していく。
■コロナ禍で時間の体感速度が逆行 長くゆっくり感じるはずの学生の体感速度が最速に
今回の調査では、若い世代へのコロナ禍の影響の大きさが浮き彫りになっています。2020年の体感速度は平均2.03倍と誰もが例年より速いと感じていますが、特に学生は2.57倍と非常に速く過ぎたと感じています。
「感じられる量は参照される物理量の対数に比例して変化する」という知覚の一般的特性(フェヒナーの法則)は時間の感覚にも当てはまり、年を重ねるごとに時間経過は速く感じるようになります。
しかし、今回の調査では、若い人ほど速いという逆行する結果となっています。こうした傾向があることは学生と接していても感じていましたが、予想以上に大きな影響を受けていたことがわかり、驚いています。
入学式も授業もサークル活動もコンパも、期待とは懸け離れた現実で、振り返るとぼんやりとした1年。思い出に残ることが極端に少ない時間を過ごすと、そのときは長いと感じても、振り返るとあっという間に感じがちです。
本来は時間の経過が速く感じる上の世代よりも学生の世代の方が大きな影響を受けたのは、この世代が本来体験すべきことの多くが失われてしまったから、と考えられます。
■何もできない今しか経験できないことが、「豊かな時間」と「ポジティブな人格形成」につながる
これからもウィズコロナ生活は続きますが、今の環境下でも「豊かな時間」を過ごす方法があります。特別な体験をしたという記憶は自己評価を高め、ポジティブな人格形成につながります。
それが今回のコロナ禍というつらい経験だったとしても、その中で思い出すことがあれば、その後の自分の人格や生活につながっているとポジティブに捉えられ、豊かな時間と感じられるのです。
例えば、海外の美術館のライブビューイングに参加したり、当大学でも開催されているような、オンラインサークルで友達と一緒に活動したり、今だから体験できる、今しか体験できないようなことをやってみることが有効だと思います。今の時代、手軽に参加できる環境も道具も調っているので、コロナという禍を生かしてチャレンジすることが、アフターコロナにも役に立つ有意義な時間となると思います。
■リモートワークでのメリハリ付かない問題は、「時間」「空間」「気持ち」を区切る自分サイズのマイルールで改善を
昨年の調査で、時間のメリハリが付けにくいリモートワーカーという課題が浮かび上がりました。今回も解決されてはいないものの、改善の傾向が見られます。おそらくは、リモートワーク生活も1年が過ぎ、働き方のペースができてきた人が多いのではないでしょうか。
家の中で仕事をする場所が確保できたとか、○○したら休憩するとか、空間や時間を分けるマイルールが定まってくると、メリハリが付けやすくなります。仕事するときはこの机!と決めてみるのも有効です。時間、空間、気持ちの区切りを心掛けてみてください。
■コロナ禍で経験した「多様な時間の使い方」「能動的な働き方」を社会のナレッジとして生かしたい
コロナが収束した後、私たちの生活はコロナ前にただ戻るのではなく、コロナ禍で得た知識や経験、事例やノウハウ、スキルなどをナレッジとして生かし、有効活用できる社会になるといいですね。
今回の調査で、家族や趣味などのプライベートな時間は今後も維持したい時間となっていますが、コロナ禍で多様な働き方、多様な時間の使い方を経験したことで、趣味や家族の時間も仕事と両立できるという実感を持った方が多いのではないでしょうか。
コロナ収束後は、仕事と家庭の両立が、特別なことではなくなっていそうですね。コロナ環境下で働く中、工夫すれば時間内で仕事ができるというような、能動的な仕事の仕方を学習された方も多いことでしょう。
経験から養われたコツやノウハウ、それを生かすためのツールやリズムなど、コロナ禍で構築されたさまざまな成功事例は、コロナ収束後も社会で共有され、役立つようになると思います。
コロナ禍で、私たちは時間の長さは一定だけれども、使い方は無数にあるという時間の多様性に気付くことができました。社会に多様性が求められるように、時間の使い方も多様化するのが自然の流れです。
コロナ禍で気付いた時間の使い方が、社会の資産として共有され、一人一人や、みんなに、社会全体に役立つことを願います。
一川誠(いちかわ・まこと)先生千葉大学大学院人文科学研究院教授
専門は実験心理学。実験的手法により人間が体験する時間や空間の特性、知覚、認知、感性の研究に従事。現在は、視覚や聴覚に対して与えられた時空間情報の知覚認知処理の特性の検討を行っている。「大人の時間はなぜ短いのか」(集英社新書)、「時計の時間、心の時間-退屈な時間はナゼ長くなるのか?」(教育評論社)など著書多数。
<調査概要>
・本編調査
実施時期:2021年4月28日(水)~5月10日(月)
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国の10代~60代の男女1,200人
(男女各600人各年代別に男女各100人ずつ10代は15歳以上)
・グローバル調査
実施時期:2021年5月13日(木)~5月21日(金)
調査手法:インターネット調査
調査対象:アメリカ…ニューヨーク在住の10代~60代男女120人
中国…上海在住の10代~60代男女120人
(ともに男女各60人各年代別に男女各10人ずつ10代は15歳以上)
※構成比(%)は小数点第2位以下を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合がある。また、金額は小数点第1位以下を四捨五入している。
出典元:セイコーホールディングス株式会社
構成/こじへい
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