「卵に目鼻(色白で可愛らしい顔立ちのこと)」、「へそで茶を沸かす(ばかばかしくてまともに取り合えない様子)」など、ことわざや慣用句の中には一見して意味がわかりづらい、不思議な表現を用いているものが数多く存在する。冷淡な様子を表す「木で鼻をくくる」もそうした言葉のうちの一つだ。本記事では、この「木で鼻をくくる」について、なぜこのような表現になったのか、その由来や語源、正しい使い方について詳しく解説したい。
ことわざ「木で鼻をくくる」の意味は?
「木で鼻をくくる」は漢字で「木で鼻を括る」と表記されることもあるが、もともと「括る」ではなく違う単語が変化したものだったことはあまり知られていない。まずは言葉の成り立ちについて、きちんと理解しておこう。
冷淡な様子、無愛想な態度を表す
「木で鼻をくくる」は、相手から冷たい対応をされたり、無愛想にあしらわれたりした時に使う表現。ではなぜ、冷淡で素っ気ない態度が「木で鼻をくくる」なのだろうか。まずは、この言葉のもととなった習慣を紹介する。
昔のある習慣が由来
「たかをくくる」「腹をくくる」のように、日本には「括る」を用いた慣用表現がいくつかある。括るは「一つにまとめる、決意する、見積もる」などの意味を持つが、「木で鼻をくくる」の場合はいずれにも当てはまらない。実は、本来この言葉は「木で鼻をこくる(擦る)」が正しく、紙が貴重なものだった時代に木で鼻を擦って鼻水を拭っていた様子を指したものだった。時代の変遷とともに「こくる」が「くくる」に変化し、現在のかたちになったものと考えられている。
「木で鼻を擦る様子」が「無愛想、冷淡な態度」を指すようになった理由は「木で鼻を擦ると痛くて不機嫌な顔になるから」や、江戸時代の商家において「丁稚奉公の使用人たちに紙を使わせなかった主の理不尽な様子が基になっている」など諸説ある。
「木で鼻をくくる」の使い方や関連表現
正しい意味を理解したところで、実際に日常会話で使う際に覚えておきたい類義語や英語表現をいくつか紹介したい。ビジネスシーンで取り入れられると表現の幅がグッと広がるはず。
「木で鼻をくくる」の類語
「木で鼻をくくる」には、似た意味を持つ類語がある。それぞれの違いを理解して上手に使い分けよう。
・けんもほろろ
一方的に要求を拒否する、簡単にあしらうといった意味の「けんもほろろ」。「けん」「ほろろ」はどちらも鳥の雉(きじ)の鳴き声や羽ばたく時の音を表している。これに無愛想で冷たい様子を意味する「慳貪(けんどん)」、荒々しく叱ることを指す「剣突(けんつく)」の「けん」を掛け合わせてできた言わば言葉遊びのような慣用句だ。
「木で鼻をくくる」は冷たく無愛想な態度を表すが、「けんもほろろ」は相手を拒絶する意味合いが含まれた表現。たとえ態度は穏やかでも、こちらの希望がまったく叶えてもらえない状況などはこれに当てはまる。
・取りつく島もない
嵐の中の航海で、どこか助けになる島を探しても一向に見つからない様子を表した「取りつく島も(が)ない」も似た意味の表現。頼りになるものが何もない、事態を変えるきっかけが掴めない時などに使われる。「木で鼻をくくる」と「けんもほろろ」のどちらにも近い意味をもつ。
・歯牙にもかけない
「歯牙(しが)にもかけない」とは、歯と牙、つまり「口先で論じる必要がない」の意味から、取るに足りないものとして相手にしないことを指す。先述した2つの言葉は主に対人関係の中で使われる表現だが、「歯牙にもかけない」は世間の噂やメディアなど、人ではないものに対しても用いられる。
ちなみに、似た言葉の「鼻にもかけない」は誤用で、「鼻にも引っかけない」が正しい。こちらも「歯牙にもかけない」同様、まったく相手にしない、無視することを表した言葉だ。
英語ではどのように表現する?
英語で「木で鼻をくくる」を表す場合、「give a blunt answer」や「give a curt answer」などの表現がある。bluntは「無愛想な」、curtは「素っ気ない」を意味し、「無愛想な(素っ気ない)返事をする」と訳される。他にも、応じることを指す「respond」を用いた「respond bluntly(無愛想に対応する)」もほぼ同じ意味となる。
「木で鼻をくくる」を使った例文
「あそこのカフェの店員、いつ行っても木で鼻をくくるような態度で不愉快だ」
「今朝、隣の席の後輩に挨拶したが木で鼻をくくるような反応しかしなかった。何かあったのだろうか」
「新規プロジェクトへの協力をお願いするためにB社に行ったが、担当者に木で鼻をくくるような対応をされた」
「昨日は不機嫌だったので、ついつい木で鼻をくくるような態度を取ってしまった」
文/oki