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中国の歴史書『史記』に由来する故事成語の一つ、「春秋に富む」。日常生活で耳にする機会はあまり多くないが、正しい意味や使い方を覚えておくとビジネスシーンでも活用できる便利な言葉だ。
本記事では「春秋に富む」の正しい意味と使い方を解説する。類語や対義語を併せて知ると、いっそう理解が深まるはずだ。
「春秋に富む」の読み方と意味
まず、「春秋に富む」の意味や語源、正しい使い方を解説する。実はこの言葉、本来とは真逆の意味で理解されているケースも少なくない。特にビジネスシーンで誤った使い方をしないよう、正しい意味をしっかり理解しておこう。
「春秋に富む」の読み方と意味は?
「春秋に富む」は、「しゅんじゅうにとむ」と読む。
「年齢が若くてまだ将来が長いこと」「有望であること」を意味する故事成語だ。
ここで使われる「春秋」は季節の春や秋の意味ではなく、「歳月」や「年齢」を意味する。まれに「経験が豊富であること」や「高齢であること」の例えとして使用されているケースも見受けられるが、これはまったく逆の意味を表しており誤用となるため注意が必要だ。
ここでの「春秋」は過ぎ去った時間ではなく、未来の時間を指している。「春秋に富む」はまだたくさんの時間が残されている、将来有望な若者を表す言葉であることを理解しておこう。
「春秋に富む」は中国の故事が由来
冒頭で触れた通り、「春秋に富む」は紀元前中国の歴史書『史記(しき)』に由来する言葉。
『史記 齊悼惠王世家』には「皇帝春秋富 (皇帝、春秋富む)」という記述がある。
秦王朝の始皇帝が亡くなった後、新たに即位した二世皇帝について大臣は「皇帝は年齢が若く、将来がある。(若いうちに)政治に携わり失敗をして、権威に傷をつけるのは良くない」と意見を述べたという。この「皇帝春秋富」という一節が「春秋に富む」の語源となっている。
「春秋に富む」の使い方と例文
先述したように、「春秋に富む」は将来有望な若者に対して使う言葉。ビジネスシーンにおいては、新入社員や優秀な若手社員などを指す時に使いやすい。実際に「春秋に富む」を使った例文をいくつか紹介しよう。
【例文】
・「春秋に富んだ若者の活躍を見ていると、未来は明るいと思える」
・「春秋に富んだ君なら、今からどんなことにでもチャレンジできるよ」
・「このプロジェクトは、春秋に富む若手社員にもぜひ積極的に参加してもらいたいものだ」
・「春秋に富むとはいえ、一日一日を大切に、精進していかなければ」
「春秋に富む」の類語
次に、「春秋に富む」の類語を見ていこう。将来が期待できる人の例えとして使える言葉は多く存在するが、ここでは2つの言葉を紹介する。場面に応じてこれらを上手く使い分けてほしい。
「春秋に富む」の類語その1:春秋鼎に盛んなり(しゅんじゅうまさにさかんなり)
「春秋鼎に盛んなり(しゅんじゅうまさにさかんなり)」は「働き盛りの壮年」を意味する慣用句。「壮年」とは「心身ともに成熟した、働き盛りの年代」を表す熟語だ。狭くは30~40代を指すが、場合によっては50~60代を指すこともあり、年代の区分に明確な定義は存在しない。
春秋に富むと比較すると、「春秋鼎に盛んなり」はある程度経験を積み、すでに現在活躍している人というニュアンスがある。どちらの言葉もこれからが期待されるような人を表すポジティブな意味があるため、誉め言葉として使用できる。
「春秋に富む」の類語その2:新進気鋭(しんしんきえい)
「新進気鋭(しんしんきえい)」は「新たにその分野に現れた有能な人材」「意気込みがあり将来有望な新人」を表す四字熟語。新進は「新たに加わること」、気鋭は「意気込みが盛んで鋭いこと」を表す。
この言葉は、例えば「新進気鋭のアーティスト」のように、芸術や学問などの分野において有望な若者を称賛する時に用いられることが多い。注意したいのは、「新進気鋭」はあくまで相手や、その場にいない第三者のことを指す時に使う言葉である点。自分のことを「新進気鋭」というのは自惚れになってしまうため注意しよう。
「春秋に富む」の対義語
最後に「春秋に富む」とは反対の意味を持つ対義語を紹介する。同じ「春秋」という熟語を含んだ言葉でも、その後に続く言葉によって意味合いが変わってくるため、それらの違いをしっかりと覚えておきたい。
「春秋に富む」の対義語その1:春秋高し(しゅんじゅうたかし)
春秋に富むがまだ将来が長い若者を指すのに対して、「春秋高し(しゅんじゅうたかし)」には「歳月を経て、高齢である」という意味がある。
春秋に富むと「春秋高し」はよく似ている言葉であることから混同されることも多いが、意味は真逆なので注意が必要だ。二つの言葉をセットで覚えて、間違った使い方をしないように気を付けよう。
「春秋に富む」の対義語その2:春秋を経る(しゅんじゅうをへる)
同じく「春秋」という言葉を含む表現に、「春秋を経る」がある。
「長い年月を経て今に至る」という意味の慣用句だ。長い年月が過ぎることを表す時の表現としては「歳月を経る」という言葉が一般的だが、「歳月」という言葉を「春秋」に置き換えると、季節が幾度も巡る様子が目に浮かぶような、奥行きのある表現となる。手紙を書く時などにも使いやすい言葉だ。
「春秋に富む」のように故事成語が由来となっている言葉は多い。ビジネスシーンでは意外に見聞きすることも多いため、知っておくと役に立つだろう。興味のある人は以下の記事もチェックしてみてはいかがだろうか。
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文/oki