夫婦一緒の時間がここ一年余りで増えたけれど、互いに適度な距離や関係を模索しているという夫婦もあるかもしれない。しかしそれは夫婦関係を見直すチャンスでもある。
オレンジページがコロナ禍の最中に実施した夫婦関係に関する調査では、料理を分担している夫婦は94.5%が「夫婦仲がよい」と回答した。
今回は、この料理シェアについて探るべく、心理学に詳しい精神科医や夫婦関係の専門家に意見とアドバイスをもらった。夫婦関係を向上させたい人は必見だ。
料理を分担している夫婦は94.5%が「夫婦仲がよい」
オレンジページが2020年8月に20歳以上の既婚女性1,608人に対して実施した「夫婦の料理シェア」に関するアンケート調査の結果によると、夫婦の料理シェア率は20代が最も多く、60.3%、次いで30代の40.5%、そして40代の31.2%、50代の28.3%と年代が上がるにつれて減る傾向がみられた。
そして全年代に対して、夫婦仲が良いか尋ねたところ、「夫婦で分担している」509人については94.5%が「はい」と回答した。「妻だけ」と応えた1,069人は84.9%となった。
10%近く、料理シェアをしている夫婦のほうが夫婦仲が良いことがわかった。
【出典】オレンジページくらし予報「夫婦の料理シェア、若い世代ほど当たり前にコロナ禍で、「ランチのワンオペ」問題が妻の負担に!料理をシェアしている夫婦は「仲が良い」94.5%」
精神科医が説く料理シェアで夫婦仲がアップする秘訣
同調査の結果、料理を分担している夫婦は、夫婦仲が良い傾向が大きく出ていた。家事シェアの中でも、料理をシェアすることは、心理的・精神的に特別な効果があるのか。精神科医のゆうきゆう氏は、次のように話す。
【取材協力】
ゆうき ゆう氏
精神科医・マンガ原作者。ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニックグループ総院長。東京大学医学部医学科を卒業。医師業のかたわらマンガ原作者としても活躍。主なマンガ原作に 「マンガで分かる心療内科」(少年画報社)などがある。
ゆうメンタルクリニック:https://yuik.net/
ゆうスキンクリニック:https://yubt.net/
「パートナーと一つの作業を分業・分担することは信頼関係構築にとって良しとされています。またデートや接待などでも重要視されるように、大切な人と料理を食べるという行為自体も、他者との距離を縮めるイベントです。そんな料理を作ることは、他の家事よりもパートナーとのつながりをより強く感じられる作業なのかもしれません。
アルフレッド・アドラーという心理学者が唱えた『共同体感覚』を例にしますと、共同体感覚は、『自己受容・他者信頼・他者貢献・所属感』の4つで構成されています。中でも『他者貢献(私はこの共同体の役に立っているという感覚)』と『所属感(私はこの共同体の一員だ)という感覚』が料理を分業する過程で得られやすいのだと思います。
共同体感覚とは家庭、地域、職場などの共同体の中で『人とつながっている』という感覚のことを指します。人はこの『他者とつながっている』感覚を感じられる時に、幸福だと感じるとされています」
●より仲良くなるには?
夫婦で料理シェアを行う場合、より絆を深めるにはどのような工夫をすればよいだろうか。
「最近、よく話題に上るので耳にしたことのある人は多いと思いますが、『ポジティブ心理学』というものがあります。ポジティブ心理学では、ポジティブ感情を生み出す要素があり、価値のある目標を追求する生き方が幸せな生き方であると考えられています。一般的に『感謝の気持ちを大切にする』『自分の強みを発揮させる』『ネガティブな思想を否定しない』『楽観主義の思想を持つ』の4つを意識するとより良い夫婦関係を得られるかもしれません。
これを料理に当てはめると、夫婦が互いに『自分の苦手な洗い物を率先して行ってくれてありがとう(感謝の気持ち)』『盛り付けは得意だから私に任せてほしい(強みの発揮)』『料理が焦げてしまってがっかりする気持ちは良くわかる(ネガティブな思想を否定しない)』『ちょっと失敗しても結果美味しくなったから良しとしよう(楽観主義)』となどになるでしょうか。こうした気持ちを持って料理の作業をシェアするとより良い関係が築けることでしょう」
夫婦問題コンサルタントのアドバイス
そして、夫婦関係の専門家の見解とアドバイスも気になるところ。夫婦問題コンサルタントで、FPでもある寺門美和子氏に意見とアドバイスをもらった。
料理シェアをする夫婦は仲が良い傾向があることについて、どのような見解を持つだろうか。
【取材協力】
寺門美和子氏
『お金と暮らしと夫婦問題の専門家』。Miwa Harmonic Office代表「離婚してもしなくても幸せになる」をモットーに、FP×夫婦問題コンサルタントとして、様々なリテラシーを使い、多様化の時代背景にある複雑な問題を解決している。
https://miwako.biz/
「『共同作業』をするということは、単純に『楽しい』ものです。夫婦で同じ目的を持つことで、会話も増えてさらに密着度も高まるもの。共感を得られる頻度が多いことで、夫婦関係の温度が同じになり『一体感』が生まれます。ですから、結果『仲が良い』カップルが多いのもうなずけます。
しかし、共同作業の中でも、スポーツや文化活動を一緒にしている夫婦の中には、いつしか競争意識が芽生えてしまい、関係が悪化する場合もあります。その理由は『勝ち負け』や『優劣』をつけてしまったり、コミュティ仲間への評価や距離感で意見が異なり『喧嘩や嫉妬』が起こったり、意外とやっかいなのです。その点『料理の分担』であれば、メリットが多いと思います。なぜなら、料理の分担には次の要素があるからです」
・食材仕入れのコミュニケーション
季節や天候により変化する食材について、会話で共有できることで、仲間意識が芽生える。
・同じ調理器具を使う共感
同じ鍋やコンロなどの調理器具を使うことによる共感。そして「ミキサーが欲しいね」など過不足も共感することで、新しい共通の目的ができる。
・お腹が満たされる幸福感
生理的に幸せを感じられる満腹感。「同じ釜の飯を食う」は昔から親しさを増すツール。
「このように共有することが多いので、同志としての絆が深まり、結果『夫婦仲がよい』ということにつながるのでしょう」
●より仲良くなるには?
夫婦で料理シェアを行う場合、より絆を深めるにはどのような工夫をすればよいだろうか。
「スポーツの場合もそうですが、熟年カップルの中には、料理を競ってしまう方もいます。例えば定年後『そば打ち教室』に通い、夫が妻に『俺のほうが上手い』などと言ってしまい、妻がしらけてしまうといったことです。このようなことを避けるためには、次の3つを意識するとよいでしょう」
1.小さなことでも褒め、失敗は笑い飛ばす
「男性側が料理に不慣れだった場合、プライドが高いので失敗は許されません。万が一失敗しても、女性側は『すごいよ、初めてなのに』とか『私もよく失敗するんだよね』など、明るく笑い飛ばしてあげましょう。そして、上手く言ったら『上手~!』『美味しい』と満面の笑顔で褒めます」
2.「ありがとう」を言葉で表す
「毎日のことになると、お互いにやってもらうのが当たり前になり『ありがとう』の言葉を忘れてしまうもの。毎回必ず『ありがとう!』と伝えることで、相手にやる気が湧き、喜びにつながります」
3.些細なことでも話す
「例えば、予定していた食材がなかったときも『今日はレタスが売り切れてたから、サニーレタスにするわ』、『スーパーのレイアウトが変っていたよ』など、些細なことを話すこと。ちょっとしたことですが、生活が豊かになるのです」
「これらのように、べーシックなことを積み重なることで、夫婦仲にうるおいが生まれ、料理の分担もより楽しくなるでしょう」
コロナ禍で夫婦が顔を突き合わせる機会も時間も増えた今、料理シェアで絆を深めてみるのもよいのではないだろうか。その際、今回挙がったポイントを踏まえることで、より夫婦仲をランクアップさせることができるはず。ぜひ実践してみよう。
取材・文/石原亜香利