『群像』『新潮』『すばる』『トリッパー』『文學界』『文藝』『三田文學』『早稲田文学』。以上が日本における主だった純文学系文芸誌なのですが、近年飛ぶ鳥落とす勢いにあるのが河出書房新社から季刊で発行されている『文藝』です。「天皇・平成・文学」「韓国・フェミニズム・日本」「中国・SF・革命」といった攻めた特集が話題になり、文芸誌としては異例の売り上げを記録。第56回文藝賞を授賞してデビューさせた遠野遥と宇佐見りんが、それぞれ第163回、第164回の芥川賞をとってしまうという快挙も達成しています。
今回紹介する『覚醒するシスターフッド』は、発売即増刷された『文藝2020年秋季号』の特集に掲載された短篇に、書き下ろし&訳し下ろし作品を加えて単行本化したものです。「シスターフッド」とは、1960年代のウーマンリブ運動の中から生まれ、女性同士が問題や課題を前に理念を共有し共闘する関係──と説明すると、「じゃあ、関係ない」とそっぽを向いてしまう男性がいるかもしれませんが、そうではないことを理解するためにも、このアンソロジーを読んでほしいんです。
悩み、傷つき、怯え……変わろうとする男たち
例えば、大前粟生の『なあ、ブラザー』。大前さんには、男というだけで加害者なのではないかと悩み、そのやさしさゆえに自身も残酷な世界に傷ついているにもかかわらず、誰かを傷つけてしまうのではないかという予感に打ち震えている19歳男子を主人公にした『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』という短篇があるのですが、『なあ、ブラザー』にもまた男としての加害性に怯え、女性とばかり仲良くする男子が登場します。
別に女の子になりたいわけではないし彼女もいるんだけど、ウイッグをかぶったりマニキュアを塗ったりする。メンタルがおじさんじゃなくて、おばさんになりたいと願う。酔っ払った時や寝言でミソジニーが出たらどうしようと思う。でも、そういう悩みや怯えも女性から見れば「あんたが男だからなんでは」とあしらわれる可能性があることを自覚している。そのうえで、なお〈なあ、ブラザー。俺たちはシスターといっしょにどう怒ることができる?〉と考えることをやめようとはしない。
もう昭和のおじさんのようには無神経に男を振る舞うことが許されない時代にあって、男性はいかに生きるべきなのか。しんどいと思いますが、大前作品に登場する男子のような思考停止しない姿勢は、シスターフッドの輪をつなぐ手にブラザーの手が重なる可能性を示唆していると、わたしは思います。で、そんなシスターとブラザーの手がつながる瞬間を描いて清々しいのがヘレン・オイェイェミの『ケンブリッジ大学地味子団』。続けて読むのをオススメします。
シスターフッドとは謳っていますが、世代間断絶がもたらす絶望を描いたマーガレット・アトウッドの『老いぼれを燃やせ』のような作品も入っていて、収録10作品のテーマや読み心地は様々です。物語を通じてボーイズラブとシスターフッドの対立の歴史を変えていけるかも。そんな可能性に賭けた1冊なのです。
『覚醒するシフターフッド』
著/サラ・カリー 柚木麻子 ヘレン・オイェイェミ 藤野可織 文珍 大前粟生 こだま
キム・ソンジョン 桐野夏生 マーガレット・アトウッド
河出書房新社 2420円
豊崎由美
男女間、人種間、世代間、様々な対立と非・理解の光景が広がっています。理解と和解への道は険しいのでしょうが、小説はそのための有効な道しるべになる力があると信じます。
コロナ後の世界に備えておく【編集部イチオシの3冊】
『ブレンディッド・ラーニング~新リモート時代の人材育成学~』
著/小仁 聡 フローラル出版 1980円
■ これからの企業が求める人材とは?
オンラインとオフラインのメリットを組み合わせた、これからの人材育成法を提案する1冊。人事部必読なだけでなく、コロナ以降、企業がどのように変わっていくのかも書かれており、就活生もぜひ読んでおきたい。
『コロナ後のエアライン』
著/鳥海高太朗 宝島社 1650円
■ 決して対岸の火事ではない
いまだ終わりが見えない新型コロナウイルス感染症。「ANA」と「JAL」で8000億円の赤字という航空会社に焦点を絞り、その被害の大きさを語る。が、今後の航空会社への提言もあり、読者自身のビジネスに活用してみてほしい。
『人と仕事が動きだす!WEB会議とメールの技術』
著/齋藤 孝 主婦の友社 1485円
■ こんなに簡単に〝できる人〟になれる!?
リモートワークが増えるだろう今後。Web会議やメールでのやりとりで差をつけるためのノウハウ集。話のキーワードを3つに、話し言葉を書き言葉になど、簡単に実践可能なものが多く、さっそく実行してみたい。
文/編集部