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会話や読書をしていて「人の噂も七十五日」という言葉に触れ、その意味を的確に理解できていないと気付く人もいます。よく耳目にすることわざでも、しっかりと把握していない言葉はあるものです。意味や使い方、類義語について解説しましょう。
慣用句「人の噂も七十五日」の読み方や意味とは
そもそも『噂』とは、ある出来事に対して、本当のことかどうか分からないことでも、当事者がいない所で興味本位で話題にすることです。その噂が『七十五日』とするこのことわざには、どのような意味があるのでしょうか。
「人の噂は長く続かない」という意味のことわざ
『人の噂も七十五日』は噂話などで一時盛り上がっても、人は忘れっぽいものだから放っておけばよいという教訓として使用されます。
うそも真実も入り交じり、陰で面白おかしくはやしたれられると、当の本人は気にせずにはいられないでしょう。しかし、感情的になって『噂は真実ではない』と反論すると、さらに興味を掻き立ててしまいかねません。
この言葉は風評などは短期間で忘れ去られるもので、黙って辛抱していれば状況はよくなることを間接的に伝えています。
なぜ「七十五日」なのか
人が噂を忘れる期間として、『七十五日』が使われているのはなぜでしょうか。その由来にはいくつかありますが、季節と関係しているという説が有力です。
現代の日本では、1年を通して春夏秋冬という四つの季節があります。しかし、かつての日本には、初夏の梅雨時期を一つの季節ととらえ、合計五つの季節があるととらえていたようです。
1年間である365日を五つに分けると、73日です。ここから、キリのよい75日を一つの季節と考えられていました。
季節が変われば、生活様式や人の意識にも変化が生まれます。そして、『噂など、自分にとっては嫌な話題でも、季節が変われば人は簡単に忘れる』という意味合いで75日が使われるようになったとされています。
「人の噂も七十五日」はどう使う?
『陰口や悪口などの噂話は長続きしない』という意味のこの言葉は、日常生活のどのようなシーンで活用できるのでしょうか。
適した場面での使い方や例文について紹介します。
「人の噂も七十五日」の使い方
思わぬことをきっかけに、自分についての話題がさまざまな所でされてしまうケースがあります。ねたみやひがみが原因である場合は、噂の内容も脚色され、広がるスピードも速いものです。
その当事者を慰めるために、『気にせずに過ごしていればいつか収まる』という意味合いで他社に声をかけるときなどに使用できます。
人の失敗などを取り上げて、必要以上に笑いものにしようという人も、残念ながらゼロではありません。そんなとき、知人の気持ちをケアする場合の言葉としても適しています。
「人の噂も七十五日」の例文
『人の噂も七十五日』の具体的な使い方を見ていきましょう。以下、例文を紹介します。
- 人の噂も七十五日というし、気にせずいつも通り過ごしていれば大丈夫だよ
- 君は仕事でミスして落ち込んでいるようだけど、人の噂も七十五日、ささいなミスなど周囲もすぐに忘れるさ
他にもある「七十五日」を使った言葉
『初物七十五日』は、初茄子や初鰹といった初物を食べると、寿命が75日延びるという意味のことわざです。太宰治の作品『新釈諸国噺』にも、次のような一文があります。
「初生(はつなり)の茄子一つは二文、二つは三文と近在の百姓が売りに来れば、初物食って七十五日の永生きと皆々三文出して二つ買うのを~」
『七十五日は金(かね)の手洗い』は、嫁や婿などに入ったときは、しばらくは金で作った手洗いを使わせてもらえるほど歓迎されるという意味です。
「人の噂も七十五日」の類語(類義語)・言い換え表現
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(出典) unsplash.com
『人の噂も七十五日』と同じような場面で使える言葉は他にもあります。状況に応じて適切な使い分けができるよう、類義語を二つ紹介します。
「世の取り沙汰も七十五日」
『よのとりざたも』と読むこのことわざは、人の噂も七十五日とほぼ同じ意味を持っています。
『沙汰』という言葉には、善悪の区別をつけることや人の口伝えで広がる行為や評判といった意味があります。そして『取り沙汰』となると、噂話として囁かれる内容を指します。
使われる言葉の内容から『人が取り沙汰する面白おかしい話など、すぐに忘れられる』という意味として使われることわざです。
「善きも悪しきも七十五日」
『よきもあしきも』と読むことわざも、類義語の一つです。『よいことも、反対に悪いことであっても、その話題は簡単に忘れられてしまう』ということを表しています。
人の噂も75日には、『悪評をこそこそといいふらす』というネガティブな側面が際立つものの、対して『善きも悪しきも七十五日』では、人に関する話題全般を指している点にわずかに違いが感じられます。すぐに評判が収まるという点では同じような場面で使いやすい表現といえるでしょう。
「人の噂も七十五日」の対義語
「人の噂も七十五日」は、噂や悪評が時とともに薄れていく様子を表していますが、世の中には悪い行いが長く記憶されてしまうことを強調する言葉もあります。
ここでは、取り返しのつかない失敗や過ちがどのように長く人々の印象に残るのかを示す、対照的な三つのことわざを見ていきます。
「覆水盆に返らず」
「覆水盆に返らず」とは、一度こぼれた水が盆に戻らないように、取り返しのつかない過ちや失敗は元には戻せないという意味を持つことわざです。
たとえば、人間関係で一度深刻なトラブルを起こしてしまうと、失った信頼を取り戻すのは容易ではありません。こうした取り返しのつかない状況を表現するために用いられる言葉であり、過ちを繰り返さないための戒めとしても広く知られています。
特にビジネスシーンでは、大切な取引先との関係を損なうことが大きな損失につながるため、一度こぼしてしまった「水」の重みを意識しながら慎重に行動することが求められます。
「悪事千里を走る」
「悪事千里を走る」とは、悪い行いや不名誉な噂は瞬く間に広まり、多くの人の耳に入ってしまうということわざです。
ちょっとしたミスでも悪い評判となると驚くほどの速さで伝わり、当人のイメージを大きく損ねかねません。一方で、良い行いや功績はそこまで広まらないという現実も含意しています。
現代のネット社会では、SNSなどで情報が拡散されるスピードがさらに加速しており、一度広がった悪評を覆すのは至難の業です。
ビジネスマンにとっては、日常の言動や行いに注意を払い、自分の評判を守る意識がより一層重要になっています。
「百日の説法屁一つ」
「百日の説法屁一つ」とは、長い時間をかけて築き上げてきた信用や努力が、ほんの些細なミスや言動によって一瞬にして台無しになることを端的に表した言葉です。
たとえば、地道に築いてきた実績を、軽率な一言や軽い失敗で失ってしまう状況を想像するとわかりやすいでしょう。
特に現代では、SNSなどを通じて情報が瞬時に拡散されるため、一度の失態が取り返しのつかない被害をもたらす場合もあります。
こうしたリスクを念頭に置き、日常のコミュニケーションや行動に常に細心の注意を払うことが、信頼や評価を守るための大切なポイントになってきます。
構成/編集部