
台湾ストリートフード
最近、「ルーローハン」という言葉をよく目にします。「ロールパン」じゃありません、ルーローハン。漢字で書けば魯肉飯。細かく切った豚の皮付きバラ肉(絶対、皮付きじゃなきゃダメなんだそうです)をスパイスとともに炒め、さらに、水・醤油・オイスターソースなどを加えてゆっくり煮込み、白米の上に汁ごとかけた、台湾のストリートでも最もポピュラーなファストフードです。ちなみに現地では、味つけ卵とか、同じ煮汁で煮込んだ豆腐とかをトッピングするのが普通だそうです。
魯肉飯の他にも、豚を蒸し鶏(本場は七面鳥の肉)に替え、炒めた葱をのせたアッサリ塩味の鶏肉飯(ジーローハン)とか、顔くらいの大きさがある鶏肉を薄い衣で揚げた炸鶏排(ザージーパイ)とか、熱した豆乳に酢を加えて軟らかく固めた(豆乳は酢を加えると固まる性質があります)ヘルシーな朝食鹹豆漿(シェントウジャン)など、今東京では、台湾のストリートフードがホットなブームです。
何しろ、気取らず手軽に食べられて、腹持ちがよく、しかも料金は格安(台湾の屋台じゃ、魯肉飯は1杯80円くらいだそうです)。おまけにテイクアウトやデリバリーにもうってつけ、というのですから、コロナ禍で注目されるのもむべなるかな。「鶏肉飯」「炸鶏排」「鹹豆漿」など、漢字が読めただけでツウな感じがするのも、人気の理由かもしれません。
東京では、1955年に開業した渋谷の『麗郷』、上野の『新東洋』を先駆けとして、1980年代に、新橋『香味』、渋谷『台南担仔麺』、下北沢『新台北』などの台湾小皿料理の店が次々にオープンし、台湾料理ブームが起こりました。ココナツミルクで食べる白いタピオカが入ってきたのも、このブームの時でした。
時が下って、2010年代、往復1万円以下のLCCが台北〜東京間に就航すると、アラサー・アラフォー女子の間で、台湾旅行がブームに。日帰り弾丸ツアーを強行する剛の女子もたくさんおりました。
さらに、格安海外旅行の強力なライバルだった韓国は、2017年に文在寅政権が誕生してから日韓関係が急速に険悪になり、もうひとつのライバル香港も2019年から民主化運動が激化し、どちらも行きにくくなってしまったため、台湾の独り勝ち状態に。エイビーロードが毎年実施してきた海外旅行の渡航先調査では、台湾は2019年まで5年連続1位。エクスペディアが行なった「グルメを目的として行ったことがある海外旅行先」調査でも、台湾は、3位・香港、2位・韓国を抑えて1位。コロナ禍さえなければ、今頃空前の台湾ブームが起こっていたはずなんです。
一昨年、爆発的なブームとなったタピオカミルクティーは台湾発祥のドリンクですが、日本では韓国経由で知った女子高生が真っ先に飛びついたので、台湾通の大人女子たちはパスしていました。が、タピオカブームに便乗して、本格的な台湾フードの店がドッと増えたのも事実。そして昨年、ブームが過ぎ去ると、現地を知る大人女子たちが腰を上げ、JKは知らないだろうけど本物の台湾はこっちよ、と言わんばかりに「魯肉飯」や「鹹豆漿」の店に通い始めたのです。
台湾ストリートフードの代表的メニュー
近年オープンした主な台湾ストリートフード店
別表に掲げた東京の新世代の台湾料理店は、前掲の旧世代の台湾料理店と違って、店内に赤提灯を下げてことさらに昔の台湾感を演出したりせず、21世紀の台湾をリアルに表現したモダンな内装の店ばかり。また、現地のストリートフードの店は一店一品の専門店が多いのですが、これらの店もまた、一店一品の専門店が多いのが特徴。ほとんどの店が、客は大人の女性ばかり。台湾大人女子の数とパワーを見せつけられます。
先行して流行した魯肉飯や炸鶏排に遅れ、今年1月、浅草に、台北の排骨(パイコー)専門店『林家排骨』の日本初上陸店がオープンしました。排骨とは、タレに漬け込んだ豚の骨付きアバラ肉を薄い衣でカリッと揚げた台湾式カツ。これを白い米に載せた排骨飯は、台湾では最もポピュラーなお弁当だそうで、こちらも、テイクアウト・デリバリーにはうってつけ。
また、台湾通に言わせると「炸鶏排」は、インスタ映え狙いの観光客向けフードで、現地の人が実際によく食べているのは、衣で揚げた一口サイズのスパイシーな鶏肉と、エリンギやヤングコーンなどの野菜の素揚げを、小さな紙袋に一緒に入れて売っている鹽酥雞(イエンスージー)だそうで、こちらはまだ日本では知られていませんが、今年2月に白山にオープンした『鶯嵝荘(オルソー)』で食べることができます。
炸鶏排・排骨・鹽酥雞は、左のマンガに描いたとおり、揚げる時の衣はみんな、小麦粉ではなく、タピオカの原料のキャッサバ粉(独特の食感があって、おいしいんです)。
つまり、タピオカブームを当て込んでキャッサバ芋を大量に買い付けてしまった商社にとって、これらの揚げものは絶好の使い道。その意味でも、タピオカ店がつぶれるのと入れ替わりに、これらの専門店はまだまだ増えていくに違いありません。
台湾に興味をお持ちの向きは、コロナ禍で海外旅行ができない中、せめて、白山の『鶯嵝荘』か神保町の『台湾豆乳大王』(どちらも台湾に行き慣れた女子の間でつとに評価の高い店です)に行って、今今の台湾感に浸ってみてはいかがでしょうか。
『鶯嵝荘(オルソー)』は、2019年3月に江戸川橋にオープンした台湾屋台料理店『フジコミュニケーション』の支店。地下鉄都営三田線・白山駅A3出口近くの路地裏の2階建て一軒家。内装は今どきの本場の食堂風で、こちらのほうが内装は女子向け。料理は、QRコードをスキャンし、スマホで注文するシステムで、排骨飯、魯肉飯、鹽酥雞など、基本的なものは何でもあり。旨いです。◆東京都文京区白山5-32-13 ◆電話 03・5615・9969
【秘訣】魯肉飯(ルーローハン)、鹹豆漿(シェントウジャン)、
炸鶏排(ザージーパイ)、次に来るのは鹽酥雞(イエンスージー)!
取材・文/ホイチョイ・プロダクションズ