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ノルウェーの野生酵母KVEIKにクラフトビール業界が注目する理由

2021.06.10

KVEIK(クヴェイク)はクラフトビール界では近年、注目されている酵母だ。KVEIKを使って醸造しているブリュワーにその理由と魅力を聞いた。

発酵温度が高いのに雑味が出ない画期的な酵母

ビールの原材料は麦芽、ホップ、酵母の3つ。このどれが欠けてもビールにならない。ところで、麦芽やホップの種類についてはメーカーから製品の特徴として解説されることがあるが、酵母の種類についてはほとんど情報提供されることはない。それだけにビール愛好者にとって酵母は気になる存在であるが、酵母の味がわかるわけでもなく、「このビールは酵母が違うようだね」などという話題はまず出てこない。

それが最近、KVEIKとかKVEIK IPAと表記したビールを見かけるようになった。KVEIKとはノルウェーの野生酵母の名前。2~3年前、クラフトブルワリーの本場アメリカのブリュワーが注目して使い始め、日本でも新進のブリュワーが使い始めている。

注目された一番の特徴は、35~36℃という高温で発酵すること。ふつうラガービールに使う酵母は10℃くらい、エールに使う酵母は20℃くらいで発酵する。それぞれの発酵には2週間から20日、5日から1週間くらいかかる。高温であるほど発酵は早く進むが、KVEIKを使うとそれが2~3日で終わるという。

2019年にKVEIK IPAを醸造している醸造歴8年の畑翔麻さん(Repubrew・静岡県沼津市)に話を聞いた。

「ふつうの酵母は高温発酵させると、あまりよくない香りが出てしまいますが、KVEIKはそれが出ないという点で画期的です。発酵期間は短く、ふつうなら5日かかるところ、KVEIKは2日で終わります。

KVEIKの中にもいろいろな種類がありますが、ウチで使ったKVEIKはアルコールの代謝物であるアセトアルデヒドやアセト乳酸などをほとんど出ないので、熟成期間も短くて済みます。通常、エールで20~30日寝かせますが、KVEIKで発酵させると2~3日で済みます。実際、5日で出荷できる状態まで仕上がりました」

20日~1か月かかっていた製造期間が5日に短縮されるとなれば、タンクの回転数が格段にアップする。醸造設備の小さいクラフトブルワリーにとって、これは大きなメリットだ。

「麦汁を20℃まで熱交換器で下げていたところ、35℃まで下げればいいので電気代や水道代の節約になり、環境にとってもいいですよね」

小さなブルワリーほどメリットを感じる酵母ではないだろうか。実際、アメリカのブリュワーがKVEIKを使ういちばんの理由はタンクの回転数を上げ、醸造コストを下げることだと聞く。

大手にとってはどうか。大手ビール会社が使用酵母の種類を公開することはほとんどない。キリンビールに聞くと、「KVEIKを使った商品はなく、今後も使う予定はない」という回答だった。

フルーティな香りを引き立てる効果

コスト面だけでなく、畑さんがKVEIKに感じるおもしろさは素材の風味がクリアに出せることにある。

「ビールにとってイヤな香りを出さない一方、いい香りも出しません。酵母由来の香りがないので、麦芽やホップの素材のフレーバーをジャマしない。モルトやホップのフレーバーを全面に出したいビールには使いやすい酵母です」

このKVEIKの特徴が活かして畑さんが今年つくったのが、ベリー系やグレープフルーツを使ったハードセルツァーだ。「フルーティなフレーバーを引き立たせるためにKVEIKはピッタリでした」

Repubrewのベリー類のフルーティなフレーバーの「ハードセルツァーフルーツブレンド トリプルベリーミックス」。柑橘系「レモンアンドグレープフルーツ」もあり。

一方、KVEIKが発する香りに注目するブリュワーもいる。RISE&WIN Brewing Co.(徳島県上勝町)のブリュワー引田佑介さんは、「発酵したときに出るトロピカルな香気成分がいい」とKVEIKを使う理由を説明する。2年前、サワー系のエールにもKVEIKを使用したことがある。フルーティな香りが引き立つという。

KVEIKを使用したRISE&WIN Brewing Co.「KIKK IPA 2020」はDJアーティストのKen・Ishiiとのコラボ。ホップにソラチエースを使ったNEIPA。すでに完売。

滋賀県の二兎醸造は「スッキリしたシトラスの風味を引き立たせる」ためにKVEIKを使い、「シティガールズクヴェイクIPA」を造った。「柑橘系の風味を出しやすく、発酵温度帯が広くて扱いやすい酵母」という評価をしており、今後も使っていく予定だと言う。

シトラスの香りが引き立つ二兎醸造の「シティガールズクヴェイクIPA」。

どんどん変異していくハウス酵母にも期待

クラフトブルワリーのブリュワーは新しい味を求めて日々、醸造法を研究、新しいビールを試作している。東京・奥多摩のVERTEREは昨年「Decora」など数種類にKVEIKを使ってみた。「それぞれ味がガラッと変わっておもしろい」と話すブリュワーの辻野木景さん。

VERTEREの「Decora」もフルーティ。KVEIKを使ったビールはときどき仕込まれ、リリースされている。

「ホップと同じように酵母も組み合わせたり、酵母とホップの組み合わせを変えたりしていろいろ試すのですが、KVEIKはいろんな温度で発酵するし、発酵する温度帯で風味は変わってくる。その幅広いという意味では、かなり面白い酵母だと興味深いですね。これからも使ってみようと思います」

ビール界に新しい息吹を吹き込んだアメリカンIPAを牽引したのは個性あふれるホップだった。IPAブーム以降、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアなど世界各地で新しいホップ品種が開発され栽培されている。それと同じように酵母も日々研究され新しい品種が培養され、試されているという。

KVEIKはノルウェーの野生酵母である。KVEIKに限らず、どんな酵母も元をたどればどこかの土地に無数に浮遊していた菌だ。その中の、麦汁をおいしいビールにしてくれる菌が、いわゆるビール酵母として大事に培養されている。酵母は糖を与えれば増殖する。最初は酵母屋から酵母を買うが、その後は自家培養するブルワリーもある。酵母は菌だからどんどん変異するそうだ。

「酵母も菌ですから使っているうちに変異して世代が変わります。このイースト(酵母)の4代目がいいとか(笑)、個性が出てくる。いつかブルワリーならではのハウス酵母ができたら面白いですね」

もともとそこに棲みついている菌。ブリュワーが買ってきて育てて変異を繰り返し、そのブルワリーにしかいない菌。それこそが、そのブルワリーでしか醸造できないビールを生み出す酵母になる。酵母を自家培養するクラフトブルワリーのビールにも注目だ。

取材・文/佐藤恵菜

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