■連載/石野純也のガチレビュー
スマートフォンの高性能化に伴い、各社のフラッグシップモデルは徐々にその値段が上がっている。ここに追い打ちをかけるかのように、2019年10月には電気通信事業法が改正され、キャリアから端末を購入する際の割引に、最大2万2000円の上限が設けられた。黎明期のころより性能が大幅に高くなり、ハイエンドモデルはPCなどのコンピューターに近づいたとは言え、以前よりハイエンドモデルを購入しづらくなっているのは事実だ。
ハイエンドモデルは高い——そんな常識を打ち破る端末が、モトローラ・モビリティ・ジャパンから発売された。それが、「moto g100」だ。〝g〟というアルファベットは同社のミドルレンジモデルを表すシリーズ名だが、moto g100は数字のケタが、既存のモデルより1つ多い。命名規則に従うと、gシリーズの中でもっとも高機能な端末ということになる。実際、チップセットにはクアルコムのSnapdragon 870を採用。gシリーズとして、初の5Gにも対応する。
ハイエンドに近い性能を備えたmoto g100だが、販売価格は5万円台後半。10万円を超えることが当たり前になりつつあった他のハイエンドモデルと比べると、破格の安さと言える。ただ、この価格で本当にハイエンドモデルに匹敵する性能を持っているのか、不安を覚える向きもあるはずだ。そこで、同モデルを実際に使い、お値段以上の性能は本当なのかを検証した。
ミドルレンジの価格とハイエンドの性能を併せ持つmoto g100をチェックした
処理能力の高さはハイエンドモデル並みで、動きはサクサク
5万円台後半というと、ミドルレンジモデル上位の価格帯に近い。いわゆる、ミドルハイと呼ばれる端末だ。一般的なミドルレンジモデルより性能は高いが、ハイエンドモデルには及ばないことが多いのが特徴で、特にゲームなどのパフォーマンスを要求されるアプリを動かす際にはハイエンドモデルとの差が出やすい。ところが、moto g100のパフォーマンスは、ハイエンドモデルそのもの。Snapdragon 888などを搭載した最新モデルには一歩及ばないが、2020年に発売されたハイエンドモデルと同等か、それ以上の性能が出ている。
CPUのスコアは最新のハイエンドモデルと比べてもそん色ない数値だ
上記の画面は、ベンチマークアプリのGeekbench 5で測定したスコア。CPU、GPUともに、Snapdragon 865を搭載した端末に近く、ミドルレンジモデルの域を超えていることがわかる。当然ながら、通常の操作はスムーズそのもの。アプリが素早く立ち上がり、動作は滑らかだ。メモリ(RAM)も8GBと十分な容量。ハイエンドモデルの一部は12GB以上のメモリを搭載しているが、差分はあまり感じられない。ミドルレンジモデルにありがちな、ごくわずかな引っかかりもなく、快適に扱える。
本体のデザインも、ハイエンドさながらの高級感がある。メタリックなフレームと、マットな背面ガラスのコンビネーションで、カラーリングにも統一感がある。背面のモトローラロゴは同系色でまとめられており、さり気なくメーカー名を主張。指紋センサーが側面の電源キーと一体になっていることで、背面にセンサーが露出していないのも評価できるポイントと言えるだろう。
側面のフレームや背面のガラスはカラーリングが統一されており、高級感を醸し出す
一方で、ディスプレイは少々ベゼルが太く、本体の厚みも他のハイエンドモデルと比べるとやや目立つ印象を受けた。これは、ディスプレイにバックライトが必要な液晶を採用していたり、5000mAhの大容量バッテリーを搭載しているためだろう。屋外での視認性が高く、電池の持ちがいいというのはメリットだが、薄さを重視しているユーザーにはネガティブに見える要素と言えるかもしれない。
有機ELを搭載した端末と比べると、ディスプレイのベゼルは少々厚めだ
ディスプレイのコントラスト比なども、有機ELを搭載した端末には及ばない。ただし、リフレッシュレートは最大90Hzまで上げることができ、スクロール時の残像感は少ない。HDR 10の表示にも対応しているため、映像のクオリティは高めだ。ディスプレイのアスペクト比は、Xperia 1シリーズなどと同じ21:9で、シネマスコープサイズで作られた映画などのコンテンツを見る際にも重宝する。
カメラは実質デュアルながら、メインカメラの画質は高い
背面のカメラはクアッドカメラで、メインの広角カメラは6400万画素。スペック的にはミドルハイの端末に搭載されているものとほぼ同じで、4つの画素を1つに束ねて感度を上げるピクセルビニング技術も利用している。そのため、標準設定で撮ると、写真のサイズは6400万画素の1/4にあたる1600万画素相当になる。ただし、クアッドカメラといっても、1つはToFレーザーオートフォーカスで、もう1つは200万画素の深度測定用カメラ。撮像可能なセンサーという意味では、実質的なデュアルカメラになる。
メインカメラで撮った写真は、解像感が高く、細部まできっちり描写されている。一方で、料理の写真は自然ではあるものの、やや色が白っぽくなりすぎているきらいがある。AIによる補正が働いた結果だが、色味のチューニングはもう少し改善が必要になりそうだ。117度の広角カメラも、画素数が1600万画素で、ディテールの破たんが少ない。カメラの写りは、ハイエンドモデルに一歩及ばないものの、かなり使い勝手はいい。ただし、望遠カメラは搭載されておらず、こうした点は価格なりのトレードオフと言える。
メインカメラで撮った写真。解像感は高いが、料理の写真はやや色が不自然
おもしろいのが、広角カメラはマクロカメラと兼用になっているところ。しかも、リングライトが搭載されており、接写時の陰を消すことができる。一般的に、スマホのマクロカメラは低画素に抑えられがちだが、広角カメラと兼用のため、1600万画素で撮ることが可能。以下の写真のように、細部がはっきりわかるぐらいまで寄って撮ることができる。
また、インカメラもデュアルカメラになっており、標準と広角を使い分けることが可能だ。そのぶん、ディスプレイには2つの穴が開いてしまい、映像表示の妨げになってしまうのは残念だが、画角を変えられるのは便利。特に役立ったのが、動画撮影時。moto g100では、前後両方のカメラを使ったデュアル撮影ができるが、この際に広角カメラの方が、顔を画角内に収めやすかった。アウトカメラを基準撮影するため、インカメラは広角で広く画角を取っておいた方がいいというわけだ。こうした機能はハイエンドモデルに近く、処理能力を生かした格好だ。
使い勝手のいいユーザーインターフェイス、5G対応も評価
使い勝手で少々気になったのは、指紋センサーの位置。先に挙げたように、moto g100の指紋センサーは電源キーと一体になっているが、側面の上部に搭載されているため、本体の下部を握っている時などに指が届きづらい。顔認証も採用されており、併用できるため、使いにくいと感じた場合は、両方を設定しておいた方がいいだろう。持ち方を変えれば指が届くが、215gと重いため、バランスを崩しやすいのが難点だ。
モトローラの方針で、OSのカスタマイズは最小限に抑えられているため、他のAndroidからの乗り換えでも、すぐに慣れることができる。ただし、自動スクロールで縦長のスクリーンショットを撮ったり、端末をひねってカメラを起動したりといった、OS標準にはない機能もさり気なく搭載されている。こうした独自機能は、「Moto」というアプリからチェックすることが可能だ。
Androidの標準に近いUIだが、モトローラ独自のカスタマイズも加えられている
5Gに対応しているのも、gシリーズとして初。対応周波数帯はSub-6のみだが、n1/n3/n5/n7/n8/n28/n38/n41/n66/n77/n78と多く、大手3キャリアは一通りカバーしている。KDDIやソフトバンクが使用する4Gから5Gに転用した周波数帯もしっかりサポートしているため、これらのキャリアで使えば、5Gのアイコンを目にする機会も増えそうだ。実際、筆者もワイモバイルのSIMカードを挿してみたが、東京・都心部では、かなり5Gでつながることが増えてきた。ただし、ドコモの4.5GHz帯(n79)には非対応。同周波数帯は、衛星との干渉がなく、エリアを広げやすいだけに、moto g100で利用できないのは残念だ。
幅広い周波数の5Gに対応。特にKDDIやソフトバンクでの使い勝手がいい
トータルで見ると、moto g100は、処理能力がハイエンド並みな一方、その他の機能はミッドハイに近い端末と言える。スマホの頭脳ともいえるチップセット“以外”の部分でコストダウンを図ったというわけだ。カメラなどにハイエンドモデル並みの性能を期待すると物足りなさを覚える可能性はあるものの、コストパフォーマンスは高い。おサイフケータイに対応していないなど、課題はあるものの、SIMフリーで高機能な端末を求めていた人にはぴったりな1台と評価できそうだ。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★
持ちやすさ ★★★
ディスプレイ性能 ★★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★★
音楽性能 ★★★★
連携&ネットワーク ★★★★
生体認証 ★★★★
決済機能 ★★★
バッテリーもち ★★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。