「アライ」とは仲間や同盟を意味する英単語「Ally」が語源で、一般的にLGBTQ+への理解者・支援者を指す。
P&Gジャパン合同会社では、LGBTQ+の「アライ(理解者・支援者)」の輪を広げる「アライ育成研修」を開発し、社外への無償提供を開始する。
その開発に当たり、日本における「アライ」の実態を探るべくこのほど、15歳~69歳の5,000人を対象に全国調査を実施。調査設計は、多様なジェンダーやセクシュアリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さん協力のもと行われている。主な調査結果は以下の通り。
日本における「アライ」の実態
P&Gの「アライ」の考え方は、障がいや人種など様々なマイノリティに対する理解者・支援者においても、同様に「アライ」と定義しているが、本調査では、LGBTQ+に対する「アライ」の現状について調べた。
■日本の人口構成比5,000人の性のあり方に関する認識9.7%が「LGBTQ+」を自覚
まず、15歳~69歳の5,000人に、自身の性自認・性的指向を聞いた。すると、生まれた時の性別と現在の自分の認識している性別が同一で、恋愛や性的な関心の対象が異性のストレート層※が90.3%、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング、クィア、アロマンティック・アセクシュアルなどのLGBTQ+層が9.7%だった。
今回の調査は人口構成比に合わせて5,000人を対象としているが、年代別に見ると、LGBTQ+の割合は10代19.2%、20代14.6%と若い世代が多くなっている[図1]。
■LGBTQ+を理解・支援する「アライ」、言葉の認知率は7%と低いものの、半数以上が「考えに共感」、10代は8割が共感
全員に「アライ」という言葉を知っているかと聞くと、「詳しく知っている」1.8%、「聞いたことがある程度」5.9%と、認知率はわずか7.7%だった[図2]。
まだまだ知られていないことから、アライがLGBTQ+を支援し差別や偏見をなくそうと働き掛ける人のことと説明し、その上でアライの考え方をどう思うか聞くと、半数が「共感する」(53.8%)と回答。10代79.9%、20代62.7%と若い世代の賛同率が高くなっている[図3]。アライという考えは社会から受け入れられそうだ。
■しかし、「アライ」として具体的に行動できているのは2割。「アライ」の考えに共感する人でも3割にとどまる
アライとしての行動には、「性的指向や性自認に関する嫌がらせを止める」「周囲にLGBTQ+に関する理解を広める」「性の多様性に関する自身のLGBTQ+知識を深める」などの行動がある。
これらの行動がとれているか確認すると、約2割程度(20.7%)しか行動できていないことがわかった。アライに共感すると答えた人でも、3割(30.9%)しか行動できていない[図4]。
日本における「アライ」の実態
■アライとして行動しないのは、LGBTQ+やアライに関する知識不足が原因?
アライとしての行動をしないと答えた2,651人にその理由を聞くと、「身近にLGBTQ+の人がいない」(35.2%)、「自分に何ができるかわからない」(32.5%)が行動しない2大要因となっている。
アライ共感層では「身近にLGBTQ+の人がいない」43.8%、「自分に何ができるかわからない」40.3%と、2大要因を理由に挙げる人がより多くなっている[図5]。
本調査では、9.8%の方がLGBTQ+であると回答しているが、アライに共感する方でも4割以上は「身近にLGBTQ+の人がいない」と回答している。LGBTQ+やアライに関する知識や情報の不足が、アライとしての行動を阻害しているのかもしれない。
■アライ育成研修は、LGBTQ+支援だけでなく、「さまざまな社会課題にも役立つ」とアライ共感者の76%、10代の78%が賛同
そこで、全員にアライのことを具体的に学べる場や研修プログラムがあったら参加したいかと聞くと、4人に1人が「参加してみたい」(25.3%)と関心を示した。アライ共感層では42.4%と関心度がさらに高くなっている[図6]。
さらに、アライについて学ぶことが、人種差別、子どもの貧困、障がい者差別などの社会課題にも役立つと思うかと聞くと、半数が「役立つと思う」(50.7%)と答え、アライ共感層では76.3%と約8割近くが賛同している。年代別に見ると、将来を担う10代では78.2%と8割が賛同している[図7]。
アライについて学ぶことは、LGBTQ+の支援はもとより、さまざまな社会課題の解決にも役立つ、意義あるプログラムと受け止められているようだ。
「LGBTQ+」に関する日本の実態
■回答者の4割強が、身近にLGBTQ+層が「いない」と回答
ストレート層4,514人に身近にLGBTQ+の人がいるかどうか聞くと、「いる」8.6%、「いない」41.7%、「わからない」49.8%だった[図8]。
今回の調査では9.7%がLGBTQ+だったが(前述図1)、そのほかの調査でも、日本の人口の1割程度がLGBTQ+といわれている。このことを知っているかと聞くと、「知っている(詳しく知っている+聞いたことがある計)」と答えたのは2割足らず(21.7%)で、全体の約8割(78.3%)は「知らなかった」と答えている[図9]。
人口の1割、つまり10人に1人がLGBTQ+。「いない」のではなく「見えていない」ことによって、自身の言動が当事者を傷つけてしまうことにもつながる可能性がある。
■「LGBT」については知っていても、「Q」「+」は言葉さえ知らない
ストレート層にLGBTQ+という言葉の認知について聞くと、「LGBT」の認知率は78.3%と高いものの、「LGBTQ+」は13.2%と低くなる。年代別に見ると、若い世代の認知が高く、上の世代になるほど低い傾向が見られる[図10-1]。
LGBTQ+のいずれかを知っていると答えた3,544人に、それぞれの意味について3段階(詳しく理解している/なんとなく理解している/理解していない)で聞くと、「Q(クエスチョニング/クィア)」を詳しく知っていると答えたのは3.9%、「+(LGBTQで区分できないさまざまな性のあり方)」は2.7%と、理解している人はごくわずかだった[図10-2]。
■「知っているつもり」は危険?LGBTQ+層の悩みを理解しているつもりでも、実はギャップが…
ストレート層のうち、LGBTQ+層の悩みを知っていると答えた1,331人(29.5%)に悩みの内容を聞くと、「男女分けされている場所の使用」「結婚・パートナーシップ」「カミングアウト」が挙げられた。一方、LGBTQ+層本人が答えた自身の悩みは「差別や偏見」「LGBTQ+当事者は周りにいないと思われている」「結婚・パートナーシップ」の順となり、両者の意識にギャップが生じている[図11]。
上記のようにLGBTQ+に関して存在も言葉もあまり知られていないことから、悩みについても想像でしかないことがうかがえる。
「LGBTQ+」に関する日本の実態
■LGBTQ+について、まだまだ話題にしにくい風潮あり
全員を対象に、LGBTQ+について話題にしにくい風潮があるかと聞いた。すると、3人に1人が「話題にしにくい風潮がある」(33.2%)と答え[図12]、17.7%がLGBTQ+に関して自らの考えを明らかにすることに「不安を感じる」と答えている[図13]。
一方、LGBTQ+に関して周りの人と話すことがあるかと聞くと、「話すことがある」のは全体では9.5%しかいなかった[図14]。
これらの結果を当事者、非当事者層で分けて見てみると、話題にしにくい風潮についてはストレート層(32.9%)もLGBTQ+層(35.8%)もほぼ同じように感じているが、自らの考えを明らかにすることについては、LGBTQ+層の約4人に1人の方が「不安」(24.9%)を感じている。一方、LGBTQ+について周りの人と話題にするのは、ストレート層では8.0%と、LGBTQ+層(23.7%)の3分の1しかいなかった。
■LGBTQ+について話題にしにくい風潮は、「知らない」「わからない」知識の欠如が原因か?
上記図12の「LGBTQ+について話題にしにくい風潮」について探ってみた。話題にしにくいと感じている1,658人のアライの考え方への共感は64.5%と平均(図3参照53.8%)より10ポイント以上も高く、アライマインドの高さがうかがえる[図15-1]。
アライに共感しながらも行動していないと答えた人に理由を聞くと、「自分に何ができるかわからない」(48.0%平均+7.7pt)「身近にLGBTQ+の人がいない」(47.2%平均+3.4pt)、といずれも平均より高く、身近にLGBTQ+の人がおらず自分に何ができるか「わからないから」行動できていないようで[図15-2]、それ故、自らの考えを明らかにすることに対して、平均(17.7%)の2倍以上の41.1%が不安を感じている[図15-3]。
しかし、本来アライマインドが高いだけに、アライについて正しく知る研修プログラムへの参加意向は33.1%と平均(25.3%)より高くなってる[図15-4]。アライについて学ぶプログラムは、話題にしにくい風潮の是正にも役立ちそうだ。
LGBTQ+層の意識
今回の調査ではLGBTQ+層は9.7%、486人だった。486人を対象に調査を行った。
■LGBTQ+層の2人に1人は生きづらさを感じている、若年層ほど多い傾向に
自分らしく生きられない、自分らしい生活ができないと感じた経験を聞くと、LGBTQ+層の約半数が「自分らしく生きられない」(44.9%)と答えた。年代別に見ると、10代では65.7%が生きづらさを感じているが、おおよそ年代とともにその割合は少なくなっている[図16]。
生きづらさを感じることを聞くと、「らしさを求められる」「性別で制服が決められている」「LGBTQ+は悪みたいな風潮」「自分にうそをついているようでつらい」など、下記のような意見が寄せられた。
Q.あなたらしく生きていく、あなたらしく生活していくことの妨げになっている困りごとは?
・先生や親に「男の子らしさ」を求められる。また、社会の風潮的に「こうでないといけない」という自分らしさを妨げている風潮がある(10代男性、バイセクシュアル)
・学校の制服が性別で決められていること、髪型が性別で決められていること。親から彼氏いないの?とか聞かれたりすること。過去にLGBT関連のことに触れてきてない友達とかいると、理解してくれるか不安になる(10代Xジェンダー、レズビアン)
・「男らしくない」「女らしくない」「君らしくない」というような、「らしさ」を求める言葉がとても苦手です。例えば男だからスカートは、はかないとか、女だからピンクを身につけろ、など。もしそれが日本の伝統になっているのならそれは違うと思います。その人の事を深く知っていようが知るまいが、その人
のしたいようにすればいい。周りが口出すようなことじゃない。人が人を好きになることに悪いことは全くない。そういった面においては、日本はとても生きづらい国だと思います(10代女性、バイセクシュアル)
・美容室に行って長かった髪をベリーショートに切りたいと伝えると「女性にその髪型は…」と言われた時は、自分を否定されたような気持ちになった。また、学校に登校しても似合わないと言われ、陰口を言われたりした時はつらかった(10代女性、+)
・学校の制服などで自分が着たい制服を着ることはできるが、着た時に自分がLGBTであるとはっきり示しているように見えづらい。式典などではちゃんとした制服を着るような校則があり、追加で買っているのにちゃんとした制服ではないと思われているようで不快感を覚えた(10代Xジェンダー、+)
・私はアロマンティックであると自認しているが、まだ世の中にアロマンティックという言葉や意味が広まっていなくて全く理解されない。普通に「恋人はいるか」「結婚はしないのか」というような話題が出るが、そのたびに自分は異常なのかと少し苦しい気持ちになる(20代女性、アロマンティック・アセクシュアル)
・自分は恋愛や出産に興味がないのに、職場やプライベートで結婚や出産の話題をされること(20代女性、アロマンティック・アセクシュアル)
・異性と結婚し子供を産むのがいいことであり、同性と付き合うことやLGBTQ+は悪みたいな風潮がまだ残っている(30代男性、ゲイ)
・現在の職場はオープンな環境でカミングアウトしやすい場だと感じるが、私みたいにオープンにしたいと思わない人もいる。現在の職場ではオープンな環境であるが故に、簡単に聞いてくる人も少なくない。オープンにしたくない人にとっては苦しいと感じる(30代男性、ゲイ)
・LGBTQ+の当事者だが、正直誰に相談すればいいかわからないし、理解してくれる人がいなそうなので、いまだにクローズにしている。いまだに気持ち悪いと思っている人が大勢いる(30代男性、バイセクシュアル)
・自分が同性愛者であることを周りに伝えるタイミングが難しく、自分にうそを付いて生きている感じが非常に重くのし掛かって、苦しい時があります(40代Xジェンダー、ゲイ)
・自分の本当の気持ちを隠して生きなければいけないこと。話したことで、相手を悩ませると思うと、言うべきではないと思ってしまう。自分の好きなもの、好きなことを素直に好きといえない、受け入れてもらえないと思う(40代男性、ゲイ)
・自分自身が性的マイノリティーなので、同性・異性を問わず理解し合える友人が出来ないことを寂しく思っている(40代Xジェンダー、+)
LGBTQ+層の意識
■カミングアウト率は2割、50代以降は9割以上がカミングアウト未経験
自身がLGBTQ+であることを周囲に伝えるカミングアウトの経験について聞いた。すると、「複数人にしたことがある」16.9%、「一人だけにしたことがある」5.3%となり、2割(22.2%)がカミングアウトをしている。
年代別に見ると、10代は43.3%と多く、また、20代から40代は一定数がカミングアウトしているが、50代(7.1%)・60代(2.7%)では1割以下と少なくなっている[図17]。
■LGBTQ+層が生きづらいと感じるのは、10代は「学校」、20代以降は「職場」がトップ
LGBTQ+層に自分らしく生きるのに苦労を感じる人間関係やコミュニティはどこか、と聞いた結果が[図18]だ。
10代は「学校」(61.2%)が最も多く、次いで「家族」(40.3%)、「ストレートの友人」(25.4%)の順となった。一方、20代~60代になると「職場」で苦労を感じる割合がトップで、働き盛りの30代では実に6割(57.1%)が「職場」で苦労を感じている。
LGBTQ+層の有職者294人で見ると、45.2%とほぼ半数が「職場」と答えた[図19-1]。また、自分らしく生きていくことに関して困っていることを聞くと、「職場の制度に関すること」(19.7%)がトップに挙げられ、「差別や偏見に関すること」(15.3%)以上に切実な問題となっている。
また、「LGBTQ+は周りにはいないと思われていること」(11.2%)も、LGBTQ+層にとって働きづらい職場と感じる一つの要因となっている[図19-2]。
LGBTQ+層の意識
■職場でのアライの存在はわずか3.6%
LGBTQ+層にとって最も生きづらいコミュニティである職場で、LGBTQ+層を支援するアライの存在はどうなっているのだろうか。
ストレート層も含む有職者3,223人に職場にアライがいるかと聞くと、「いる」と答えたのはわずか3.6%だった[図20]。もし職場にアライがいたら、職場での生きづらさが改善されるかもしれない。アライを育成することが、職場全体の環境改善につながり、ひいてはLGBTQ+に関する差別や偏見のない社会の実現につながると考えられそうだ。
これからの社会に望むこと
■多様性、公平性、包括性が認められる社会の実現を!
LGBTQ+に関してこれからどのような社会になってほしいか、具体的に挙げてもらった。すると、「LGBTQ+についてもっと学べる」「まずは知ること」「性別で役割が決まらない社会」「ジェンダーフリーが当たり前」「同性婚を認める」など、さまざまな意見が寄せられた。多様性を受け入れ、性のあり方にかかわらず平等に、誰もがありのままの自分で生きられる、そんな社会の実現が望まれているようだ。
Q.LGBTQ+についてどんな社会になってほしいですか?
・周りに差別するような人がいたら、自分が注意できるような人になりたいと思います(10代男性、ストレート)
・その人らしく生きられるような社会(10代女性、ストレート)
・LGBTQ+についてもっと勉強ができる場やコミニュティーをつくり、理解を深め、共存できる社会になってほしい(20代男性、ストレート)
・自分以外という存在に優しくなってほしい。さまざまな人がいることを理解し、手を差し伸べていける社会が理想(20代女性、ストレート)
・性別でその人の役割が決まらない世の中になってほしい。男らしくとか女らしくという言葉をなくしたい(30代女性、ストレート)
・LGBTQ+に限らず、多様性を受け入れる社会であってほしい(50代男性、ストレート)
・特別視しない社会、自信を持って「それが私の個性」として表現できるやさしい社会になってほしいと思います(50代女性、ストレート)
・マスコミ等でわざとらしく取り上げ過ぎず、他の人権教育と同じように、知性的に対応する社会になると思う(60代女性、ストレート)
・人は一人一人皆違うのだという前提でいること、多数派が正しいと思い込まないこと(60代女性、ストレート)
・性的少数者という名前だけが独り歩きするのではなく、いて当たり前の存在であってほしいと思う(10代女性、クエスチョニング)
・誰もが自分の性で生きていけるような社会になるといい。性別に関係なく働ける会社や公共施設が必要(20代女性、レズビアン)
・無知であることが一番怖いことだと思うので、自分や自分の大切な人たちを傷つけずに済むように、まず「知る」ことから始められたらいいなと思います(20代女性、バイセクシュアル)
・ジェンダーフリーが当たり前になってほしい。日本特有の固定観念が時代に合わせてなくなっていけば良いと思う(30代女性、+)
・同性婚が認められて、財産分与や病院の手術の同意書等の署名にも寛容であってほしいです。住居を契約するに当たって、同性カップルでも家族として認めてほしい(40代女性、レズビアン)
・小学校等の学校教育からさまざまな性について学ぶ環境を取り入れるようにしてほしい(40代女性、トランスジェンダー)
・性別で分けられる場所に入りやすい社会(50代男性、バイセクシュアル)
・個人が別の個人を好きになること、性別にかかわりなく社会がそれを受け入れる社会になればいいと思う(50代男性、ゲイ)
一般社団法人fair代表理事松岡宗嗣さんに聞く、「身近にいる実感と、積極的な行動」
「多くの人が『LGBT』という言葉は知りつつも、自分の周りに性的マイノリティはいないと思っている現状。そして、当事者の多くが誰にもカミングアウトしておらず、自分らしく生きられないと感じている」これは今回だけでなく、類似する調査でも見られる傾向です。まだまだ”実感”として性的マイノリティの存在を身近に感じられている人は少なく、当事者もカミングアウトしづらい現状があります。
そのため、当事者が直面する困りごとと、非当事者が想像する困りごとの間にギャップが生じている点も一定の納得性があります。メディアが性的マイノリティの「困りごと」を報じる際に、男女分けされた設備や制度の利用、同性婚にまつわるニュースなど”わかりやすい”イシューが取り上げられ、知識として定着しているというのも理由の一つでしょう。もちろん、いずれも実際に直面する困難ではありますが、より基本的な性的マイノリティの当事者が感じている困りごとやニーズが捉えられていないとも言えるでしょう。
性の多様性について「特に若い世代での理解が広がってきた」とよく言われます。確かに今回の調査でも、アライへの共感度をはじめ、多くの項目で若い世代ほどポジティブな回答が目立っています。
一方で、10代でも「自分の周りに(性的マイノリティ)はいない」と思っている人が約9割。当事者層も約8割が誰にもカミングアウトしたことがないと回答しています。さらに「自分らしく生きられない」と答えた割合は、10代が最も高く約7割という点も注目すべきでしょう。当事者自身も、性の多様性に関する知識を得られるようになり、自身のアイデンティティを認識できるようになった一方で、社会に根強く残る差別や偏見にぶつかってしまい、より困難が顕在化していると言えるのかもしれません。
20代以上の当事者が生きづらさを感じる場所は、どの年代でも「職場」がトップであるという点についても、深刻な差別から、加害者側も”悪気がない”ような日常のSOGIハラスメントまで、さまざまな困難の実情がうかがえます。パワハラ防止法が2020年6月から施行され(中小企業は2022年4月より義務化)、SOGIハラやアウティングも防止対策が義務付けられましたが、今回の調査では「この法律を受けて働きやすくなったか」という問いに約8割が「どちらとも言えない、働きやすくなっていない」と回答しており、まだまだ浸透していない現状が伺えます。
一方で、今回の調査のメインである「アライ」にフォーカスした点を見ると、希望の兆しも見えてきます。「アライ」という言葉の認知度は低いですが、共感度は半数以上と高く、10代では8割にのぼる点は良い傾向と言えるのではないでしょうか。
ただ、自身がアライに共感していても、実際に行動には踏み出せていないという人が7割という点は残念に思います。やはり性的マイノリティが声を上げることは非常に勇気が必要であり、リスクを伴うこともあります。”少数”である当事者の声だけでは社会は変わらないため、アライの積極的な行動が重要です。
「職場にアライがいるか」という質問でも、「いる」と答えた人はたった3.6%と非常に低い現状。例えば、当事者が職場でハラスメントを受けた際、当事者自身が注意をしたり指摘することはなかなか難しいですが、アライの立場だからこそ、注意を促したり、他のマジョリティの立場の人々を説得しやすいという場面もあると思います。
ただし、「アライ」という考え方にも留意すべきポイントがあります。アライは「当事者/非当事者」、または「かわいそうなマイノリティ/助ける人」という極端な二項対立の考えを強化する側面があるため、本来、性のあり方は多様であり、はっきりと分け切れない点などにも注意が必要です。
アライを自覚しつつ行動していない理由のトップが「身近に当事者がいないから」でした。ここからもわかる通り、今後はアライという考え方に共感する人々が、より”実感”として自分の周囲に性的マイノリティがいることを自覚し、イメージとしての当事者の困りごとのみならず、実際に当事者の声を丁寧に聞き、自身の立場を生かして、積極的に自分の職場や学校をはじめ、社会をより良い方向へと変えていくための行動が求められると言えるのではないでしょうか。
■松岡宗嗣氏・一般社団法人fair代表理事
政策や法制度を中心としたLGBTに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、HuffPostや現代ビジネス、Forbes、Yahoo!ニュース、文春オンライン等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)
<調査概要>
実施時期:2021年4/21(水)~4/26(月)
調査手法:インターネット調査
調査対象:15歳~69歳、人口構成比に合わせて5,000人
※構成比(%)は小数第2位以下を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合がある。
出典元:P&Gジャパン合同会社
構成/こじへい