筋トレの停滞期はすぐにやってくる
コロナ禍以来、YouTubeで筋トレチャンネルを開設するパーソナルトレーナーが実に増えた。あわせて、ステイホーム&リモートワークという生活変化に伴い、自宅でYouTubeを見ながら筋トレデビューを果たすビジネスパーソンも多い。
こうした筋トレビギナーがたいがい経験することだが、始めて間もないうちは筋肉が増えていくのを如実に実感できる。
「オレ、すぐに細マッチョになれんじゃね」と嬉しくなるのも束の間、やがて停滞期が訪れる。別の筋トレYouTuberのチャンネルに切り替えても向上せず、筋トレ自体をやめてしまうのが、コロナ禍1年を過ぎてのあるあるかも。
覚えておくべき8つの鉄則
こんな停滞と挫折を防ぐには、「人体やトレーニングにおける正しい知識が必要」と説くのは、「バズーカ岡田」でメディアでもおなじみの、岡田隆氏(日本体育大学体育学部准教授)だ。
ボディビルダーとして完成した体つきながら、自身「停滞期に何度も直面した」という岡田氏。それを克服するために必須の「正しい知識」として8つの鉄則を、著書の『世界一細かすぎる筋トレ図鑑』(小学館)に挙げている。
ここで鉄則の全部は紹介できないが、以下その一端に触れてみよう。
トレーニング種別の利点を活かせ!
以前、自重筋トレがちょっとしたブームになり、ウェイトやマシンの不要論まで出た。一方、岡田氏のスタンスは、何かを排除してしまうという極端なものではない。というよりむしろ、それぞれのメリット・デメリットを把握し、利点は活かすという考え方だ。
例えば、自重トレーニング。場所を選ばずにできる、自然なサイズ感の筋肉がバランスよくつくといったメリットがある。デメリットとしては、自分の体重分の負荷しかかけられない、回数をこなさなければオールアウトしない点を挙げる。同様にマシン、バーベル、ダンベルのいずれも複数のメリットとデメリットがある。また、自重のプッシュアップとバーベルを使うベンチプレスは、動作は互いに似ているが筋肉に与える刺激は異なり、一概にどちらが優れているとはいえないなど、単純な比較ができない点にも注意したい。
メリットだけ、あるいはデメリットだけを見て、採用・不採用を決めてしまうのではなく、自分の目標・弱点も考慮してバランスよく取り入れるのが吉ということになろう。
場所を選ばずできる自重には体重分の負荷しかかけられないデメリットが
オールアウトで追い込むべし!
特にビギナーは、「何レップで何セットやればいいのか?」という回数面にこだわりがちだが、岡田氏によれば、そこはポイントではないという。
トレーニングによる筋肥大は、重いウェイトでダメージを受けた筋肉が修復するプロセスで起こるというのはご存知と思う。それをふまえて、岡田氏が強調するのが「オーアウト」。つまり、「もうこれ以上は無理」という限界まで、追い込むことだ。
岡田氏は、こう述べる。
「よく、10回×3セットでトレーニングを行っている人がいます。10回でオールアウトしているなら問題ないのですが、13回挙げられるのに10回で止めてしまうことはおすすめしません。これは何セット目であっても同じこと。回数やセット数よりも、限界まで行うことを重視しましょう」
めっちゃ軽いダンベルを何百回も上げ下げして「オレ、すげぇ」と自己満足にひたるのは、昨日をもって引退しておいたほうがよさそうだ。しかし、重量を減らして回数をこなすのは「化学的刺激」といって、それはそれで意味がある。特にコントラクト種目(筋肉の最大収縮時に最大負荷がかかる種目)においては、低重量・高回数が有効とのこと。
では、さっそく、本書の最初に載っているショルダープレス(腕立てver.)をやってみよか。オールアウトできたら、次へ読み進めよう。
準備姿勢:足幅は骨盤幅より2.5~3倍広めに、手幅は肩幅の2~2.5倍広めで、両手両足を床につける。腰を高めに。
フィニッシュ:頭を床スレスレに突っ込む。上体の角度は床に対して斜めになる。
効率的なメニューを考えるべし!
バリバリのボディビルダーと違い、大半のビジネスパーソンには、週6回もトレーニングに割ける時間や気力がないのがふつう。そこで、効率的にトレーニングのメニューを組むことが重要となる。
考え方として岡田氏がアドバイスするのが「分割法」。これは、「筋肉を大きなブロックに分解し、鍛える日を分ける」というもの。
「1週間で3日しかできない場合は、『胸・肩(全部)・上腕三頭筋』『背中・肩(中部・後部)・上腕二頭筋』『脚』に分割すると、補助筋をまとめて鍛えられます。鍛えたい部位に優先順位をつけて分割し、1日のプログラムを作成することもおすすめ。最も鍛えたい部位は、最低でも1回、なるべく2回、多くて3回まわるようにしましょう」
もう1つの秘訣は、一つの部位を限界まで追い込みオールアウトさせること。最低でも3日は休まないとできないくらいが目安だという。また、トレーニングメニューを作成するにあたっては、「毎回フリーウェイトを行う」といったルール(固定観念)にとらわれる必要はないそうだ。
本書は「世界一細かすぎる」と謳うだけあって、180を超えるトレーニング法とコツがカラー写真入りで掲載されている。むろん全部を実践する必要はなく、自宅で自重とダンベルだけで行いたいという人にも充分なボリューム。ビギナーから中級者以上まで、本書1冊あれば十分といえそうだ。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)