新型コロナウイルス対策では、「三密回避」や「マスク、手洗い、うがい」に代表されるように、とにかくウイルスを体内に取り込まないことが重視されている。それでも、連日報道される感染者の多さを見るにつけ、極小の病原体を防ぐことの難しさがよくわかる。
免疫力があれば重症化しにくい
ワクチン普及はまだ先の今、注目したいアプローチが、免疫力を改善させること―そう説くのは、順天堂大学医学部の小林弘幸教授だ。小林教授によれば、免疫力改善のキーワードは「肺を鍛える」。肺が健康であれば、飛沫を吸い込んで肺までウイルスが到達しても「重症化のリスクは極めて低い」そうだ。そのメカニズムについては、小林教授の著書『最高の体調を引き出す超肺活』(アスコム)に詳しい。
本書で語られる肺と免疫の関係は複雑で詳細は割愛するが、ざっくりと言えば肺の表面(肺胞)には、肺胞マクロファージという免疫細胞がひしめいており、これがウイルスを無力化する役割を担っている。しかし、肺が問題を抱えていると、免疫システムも機能不全に陥り、ウイルスはそこから体内に入り込んで感染してしまう。
高齢者が重症化しやすいのは、こうした肺の機能が加齢とともに衰えているから、というのが一因としてある。そもそも肺の老化は20代から始まっているそうで、「風邪がなかなか治らなかったり、咳や痰が続いていたり、階段を上がるくらいで息切れしてしまう人は、肺が弱っている可能性があります」と、小林教授は警鐘を鳴らす。
もう一つの問題は、多くの人は、呼吸筋の柔軟性が失われているという点。肺自体には膨らんだりしぼんだりする能力はなく、呼吸筋と総称されるさまざまな筋肉によって、肺は動いている。呼吸筋の柔軟性が高ければ、肺の中に空気をたくさん入れることができる。つまり、深い呼吸になるが、そうでなければ浅く速い呼吸になってしまう。その呼吸では、自律神経のバランスが崩れ、血流も悪くなり、総体的な免疫力が下がってしまうという。
短期間で肺を強くするトレーニング
こうした問題を解決するために、小林教授が考案したのが「肺活トレーニング」だ。トレーニングといっても、額に汗を流すようなきつい鍛錬ではぜんぜんなくて、かなりユルめの身体運動をするだけ。本書では11種類のトレーニングが掲載されていて、各々1~3セットを毎日行う。ここでは、最初の2つのトレーニングを紹介しよう。
■胸郭のトレーニング
先に進む前に、トレーニング実施時の呼吸について。吸うときは鼻からで、リラックスして3~4秒かけて吸う。吐くときは口からゆっくりと。こちらは6~8秒かける。口から息を吸わないように注意。小林教授は、ウイルスの感染リスクが高まるなど「口呼吸はデメリットだらけ」と断じるほどだ。ふだんの呼吸でも、口呼吸は避けるようにしておこう。
では、胸郭のトレーニングから。これには、肩甲骨と胸郭を広げ、胸郭全体のストレッチになる効果があるという。
1. 足を肩幅に開き、まっすぐに立つ。
2. 両手を頭上に伸ばして、手首を固定するように交差させる。
3. 鼻から息を吸いながら、腕を上へと伸ばす。
1. 上の状態から、手首を交差させたまま、口からゆっくりと息を吐きながら体を右方向にゆっくりと倒す。
2. 鼻からも息を吸いながら1の姿勢に戻す。
3. 左も同様にする。左右5回ずつ行う。
■肩甲骨のトレーニング
次のトレーニングは、肩甲骨周辺の筋肉を伸ばすのがねらい。肋間筋が広がり、胸郭の動きがスムーズになる。
1. 足を肩幅に開き、まっすぐに立つ(座ったままでも可)。
2. 背筋を伸ばし、鼻から息を吸いながら手のひらを外側に向けた状態で両腕を開く(肘は90度に曲げる)。
1. 上の状態から、口からゆっくりと息を吐きながら、親指を外側にして手の甲が合わさるように前腕を体の前で合わせる。以上のサイクルを10回繰り返す。
肺活トレーニングを実践した人のなかには、(肺活量に基づく)肺年齢が91歳だったのが、ほんの2週間で48歳へと劇的な変化を遂げた、実年齢52歳の男性もいる。やさしく習慣化しやすいので、空き時間を生かして始めてみてはいかがだろう?
小林弘幸教授 プロフィール
順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。また、順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”でもあり、みそをはじめとした腸内環境を整える食材の紹介や、自律神経と腸を整えるストレッチの考案など、様々な形で健康な心と体の作り方を提案している。著書・メディア出演多数。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)