慢性副鼻腔炎は脳の活動に影響を与える?
慢性副鼻腔炎の患者は鼻づまりや頭痛だけでなく、集中力の低下を感じたり、うつ症状を経験することがある。
その理由は明らかでないが、新たな研究から、慢性副鼻腔炎が脳活動の変化を引き起こす可能性が浮かび上がった。
研究の詳細は、「JAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery」に4月8日掲載された。
論文の筆頭著者である米ワシントン大学のAria Jafari氏は、慢性副鼻腔炎を「非常に一般的な病気で、米国人の11%以上が影響を受けている」と解説。
また、「感染症あるいはアレルギー反応によって炎症を起こした副鼻腔の組織が、時間の経過とともに厚く変化していく。集中力や思考力の低下によって、生活の質(QOL)が損なわれている患者も少なくない」とのことだ。
そこで同氏らは、慢性副鼻腔炎患者の脳に何らかの変化が見られるか否かを検討した。
研究の手法は、同大学や米ミネソタ大学が中心となり行っている医療プロジェクト(Human Connectome Project;HCP)のデータを利用した症例対照研究。
HCPでは1,206人分の人口統計学的データと、画像検査結果を含む臨床データを登録・公開しており、研究目的での利用が可能。
今回の研究では、HCPのデータから、中等度~重度の慢性副鼻腔炎の症状を有する22人(22~35歳)を抽出。年齢、性別を一致させた健康な対照群と比較した。
まず、認知機能テストの結果を検討したところ、患者群と対照群との間に有意差は認められなかった。
しかし、機能的MRI(fMRI)による画像検査データを詳細に分析した結果、慢性副鼻腔炎患者では、実行機能を担う中心的な部位である前頭-頭頂ネットワークの機能低下が確認された。
Jafari氏によると、前頭-頭頂ネットワークは「複数の脳領域の活動を調整し、脳のバランスを維持する上で大切な部分」だという。
そして、「慢性副鼻腔炎の影響を受けていると思われる領域は、うつ病や統合失調症などの精神疾患の影響を受ける脳領域と重なっている。慢性副鼻腔炎の治療に当たる臨床医にとって、この知見の重要性は小さくないと考えられる」と述べている。
さらにJafari氏は、「慢性副鼻腔炎が脳機能に影響を及ぼす可能性を認識することで、この疾患の治療対象は古典的な症状のみの患者にとどまらずに大きく広がるだろう。将来的には、脳機能障害に焦点を当てた治療介入によって、患者のQOLを最大化することができるかもしれない」と期待を示している。
ただし、今回の研究は予備的なもので、両者の因果関係を示すものではなく、かつ多くの疑問が存在する。
例えば、慢性副鼻腔炎の患者が精神疾患を好発する可能性はあるのだろうか。Jafari氏はこの点を「すぐにでも研究に取り掛かり、明らかにしたいトピックである」と語っている。
この研究に関与していない、米ロングアイランド・アレルギー喘息ケアなどの医療機関でディレクターとして勤務するStanley Goldstein氏は、「われわれは、頭痛をはじめ脳に関連すると思われる症状を訴える慢性副鼻腔炎の患者を数多く診てきている。頭の中で何かが起こっている可能性は考えられる。局所的な炎症が、何らかのかたちで脳に影響を及ぼしているのかもしれない。しかし、それ以上のことは全く不明だ」と語っている。(HealthDay News 2021年4月21日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jamaotolaryngology/article-abstract/2778439?resultClick=1
Press Release
https://newsroom.uw.edu/news/chronic-sinus-inflammation-appears-alter-brain-activity
構成/DIME編集部