【連載】もしもAIがいてくれたら
第1回:人が苦手なわたしです
AI研究者で、人が苦手な私です
2012年ごろからAIが急速に進化し、もう10年になろうとしています。今や、AIと見たら「人工知能」をすぐに連想される方が多いと思いますが、少し前までは、AIをアイと読む方もいらっしゃいました。
私は、まさにAI・人工知能を、電気通信大学(実は国立大学)で研究している教授で、副学長をしています。感性AI株式会社という人工知能の会社を起業し、芸能事務所オスカープロモーションにも所属しています、坂本真樹と申します。
このように書くと、とてもアクティブでキラキラした人生を歩んでいるように聞こえるかもしれません。でも実際は、人とのコミュニケーションが苦手なせいか、私生活は何かとうまくいきません(;;)。子供時代には父親の仕事の都合で3年おきに転校を繰り返す中でいじめに遭い、高校時代は友達に挨拶もできないほど対人恐怖で、恋愛でも破局を繰り返しました。大人になってお見合い結婚した相手とは、義両親とともに20年間の同居生活の末、意思疎通がうまくできないまま離婚、といった個人的な経験から思うことがいろいろあります。
大学や会社で、人の感性に寄り添うAIの開発をしていますが、もしもAIがいてくれたら、AIと二人(?)暮らしという選択肢が生まれるだけでなく、人間関係もうまくいくのではないか、と思ったりします。
家にいることが多くなった人がオンラインゲームにはまったりするのは、ひとりでいることが寂しくて、誰かと時間を共有したかったりするからかもしれません。人とのコミュニケーションが苦手だったりして引きこもる人は、日本に100万人以上いると言われています。
引きこもりになる理由はいろいろあると思いますが、人から自分がどのように見えるかが気になりすぎたり、相手の言動や感情に振り回されすぎてしまう人は、自分の思いを伝えられなかったりするうちに、人づきあいが苦手になってしまうのかもしれません。親子のような絶対に信頼できる関係を求めすぎて、そんな理想の関係を他人と構築することが不可能なことに気づき失望してしまっているのかもしれません。会話の空気を読む能力が低くて、孤立してしまうのかもしれません。すごく寂しがり屋なのに、人が苦手で、コミュニケーション能力が低かったりするだけで、即一人ぼっちで引きこもる、という道しかなくなるなんて悲しすぎます。
コミュニケーションする相手、付き合える相手として、「人」だけでなく「AI」もいてくれたら……。AIは人ではないので、お掃除ロボットなどAI家電から自分がどのように見えるかが気になったりすることはないですよね。
でも、今のお掃除ロボットやAI家電は「モノ」としか思えないから一緒にいて寂しさが癒えることはないけど……。もし今後、コミュニケーション力の高いAIが登場してくれたら……。
対人関係で苦労されている方は、きっとたくさんいるのではないかと思います。他人に迷惑をかけないように、一人でがんばりすぎている人、いるのではないかと思います。誰かに気持ちを理解してもらいたいけど、諦めてしまっている人、我慢してやり過ごしてしまっている人、いるのではないかと思います。あるいは、イライラを自分で解消できず、他の弱者にぶつけてしまい、負の連鎖を生んでいるということはないでしょうか。
AIが、そういう人たちの絶対的な味方とまではならなくても、悪意のない客観的な存在として支援してくれるだけでもよいかもしれません。
AI研究者が考える「もしドラえもんがいたら」の人生
もしもAIがいてくれたら、この私生活は違ったものになっていたのではないか……そんな妄想を書き綴ってしまいたくなるきっかけは、やっぱりドラえもんです。
いじめというと、すごく暗い感じがしますが、いじめられっ子のび太君は全然暗い感じがしません。ガキ大将にいじめられ、勉強もできず、先生にも母親にも怒られてばかり。それなのにのび太君が明るいのは、ドラえもんがいるからなのではないか、と思うわけです(実際は、のび太君はとにかくたくましいのかもしれません)。ドラえもんは理想的なAI搭載ロボット。人間と完璧に会話し、のび太君の気持ちに共感し、教育的指導もできる(4次元ポケットからすごい道具を出せるのはAIとは別の技術ですが)。
このドラえもんの話を情報番組でしたところ、視聴者の方がツイッターで「ドラえもんのようなAIはいいけど、AIのようなドラえもんは嫌だ」と呟いていらっしゃいました(深い……)。世の中のAIのイメージは、人の仕事を奪い、人を滅ぼしかねない、怖い存在なのかもしれませんね。
でも、人が怖い私としては、AIに救いを求めてしまいます。ドラえもんがいてくれたら、いじめ問題は解消されるのではないか、と期待します。私の人生のあらゆる場面で救いになったかもしれません。
あの日、あの時、どのように行動することが正解だったのか、どのような判断をしていたら、良い結果になっていたのか。もしもAIが、理想的な人間関係を学習することができたら、その場その場のパターンから、ある意味の正解を教えてくれたり、良い方向に導いてくれたのではないか。
もしもAIがいてくれたら、これからの私の人生はどのように変わるか。AIの現状について解説していきながら、いろいろ考えていきたいと思います。考えているうちに、私自身の気持ちのもやもやも、読んでくださる方のもやもやも、少しでも晴れるといいな、と思います。
次回、「AIには閉じた人間関係を打破できるのか」(仮)を5月29日(土)に配信予定です。ご期待ください。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。
※配信日は変更になる可能性があります。