ビジネスシーンや本のタイトルなどで、『虎の巻』という言葉を耳にすることがあります。普段の会話で使用されることは少ないですが、正しい意味を知っておいて損はありません。『虎の巻』の意味や正しい使い方だけでなく、類義語も紹介します。
「虎の巻」とは
『虎の巻』を正しく使うためには、言葉の意味と由来をきちんと知ることが大切です。誤った使い方をしないように、まずは言葉の全体像を確認しましょう。
言葉の意味
『虎の巻』には、『兵法や芸道などの秘伝を記した書』という意味があります。これが転じて、教科書に出ている問題の解答などが書いてある『特定分野の参考書』という意味がある慣用句として使用されます。
元々は門外不出の秘伝書を表す言葉でしたが、現代では勉強の参考書や社内での情報源といった意味合いで使用されるケースもあります。
由来は中国の書物「六韜(りくとう)」
『虎の巻』の由来は、中国の書物である『六韜(りくとう)』という兵法書です。六韜は周の武王が功臣の『呂尚(りょしょう)』に指南された内容をまとめたものだと言い伝えられています。中でも『虎韜(ことう)』には、兵法の中でも平野での戦略について書かれており、その内容は後世で兵法の奥義として認識されています。
この『虎韜の巻』が省略されて、奥義が記載されている秘伝の書を『虎の巻』と呼ぶようになったといわれています。
六韜は動物の名前で巻を分類しており、それぞれ動物の習性をもとに名前が割り振られています。虎は勢いがあり、人間すらも恐れない動物ということで、『虎韜の巻』には戦いや緊急時に必要な情報が集約されています。
源義経の戦術の学び
『虎の巻』は、源義経によって広まったという説もあります。源義経は『虎韜の巻』を読み、平氏との戦いである『治承・寿永の乱』で勝利しました。この戦いがきっかけで、日本でも『虎の巻』が秘伝書を表現する言葉として広く知られるようになったようです。
源義経が『虎韜の巻』を手に入れたきっかけにも複数の逸話があり、『六韜三略』を秘蔵していた陰陽師である『鬼一法眼(きいちほうげん)』から盗んだという説や、逆に鬼一法眼から伝授されたという説があります。
また、源義経と契りを交わしていた鬼一法眼の娘が、六韜三略を盗み出して源義経に渡し、それを1字も余さず覚えてしまったという説も有力です。
使い方と例文
それでは、『虎の巻』を正しく使えるように、使い方や例文についても確認しておきましょう。
「虎の巻」の使い方
『虎の巻』は、『解答・解説集』『マニュアル本』『参考書』を表現する言葉として使われます。特定の分野について詳しく記述されていることが前提で、解けない問題や理解できない内容を克服する場合や、すでに習得している分野の理解をさらに深める場合などに読むものを指します。
『虎の巻』を読めば問題の解答がすぐに分かるので、現代では勉強に使える書物を指すことが多いでしょう。また、何度も読み返せることから、入門書や手引書という意味でも使われることがあります。
「虎の巻」の例文
『虎の巻』は、参考書などのタイトルとしても使われる機会が多いですが、日常会話でも使うことがきます。具体的には以下のように用いられます。
- 友人が作成した虎の巻のおかげで、下位の成績から脱出できた
- 本日中に、新入社員用の虎の巻を作成してください
- 授業では分からなかったが、家に帰って虎の巻を読んだら簡単に問題を解くことができた
- 今回の定期テストは虎の巻でしっかりと重要ポイントを復習しよう
- 彼が試合で使っている技は独自に編み出したものなので、多くの人が彼の虎の巻を欲しがっている
「虎の巻」の類義語
『虎の巻』には似たような意味を持つ類義語があります。意味を知って、正しく使い分けましょう。
「あんちょこ」
『あんちょこ』とは『安直(あんちょく)』の音が変化した言葉で、教科書に問題の解答や解説をプラスした、手軽な参考書という意味になります。『虎の巻』の中でも、教科書の勉強に関する内容に限定して使用される言葉です。『アンチョコ』とカタカナで書く場合もあります。
- 宿題が終わらないので、あんちょこを購入して全て丸写しした
- 問題が解けない僕のために、友人が自力であんちょこを作成してくれた
- 数学が苦手なのであんちょこに頼って解答していたが、結局内容は理解できていなかった
「ガイドブック」や「読本」も
『ガイドブック』は、ある事柄の紹介や解説を目的とした書籍などを指し、特に観光地やイベントを案内する目的で使用される場面が多い言葉です。
また、『読本(とくほん)』とは学校で読み方を教えるために使った国語の教科書を指しますが、広義では読みやすいように書かれた入門書や解説書という意味があります。
どちらも虎の巻と同じ意味合いで使用されることもありますが、虎の巻のほうが『これさえあれば大丈夫』といった安心感が備わっている言葉といえるでしょう。ガイドブック・読本は『一つの対象・テーマにおける取り扱い説明書』といったニュアンスが含まれるケースが多いといえます。
構成/編集部