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レクサス初の電気自動車の実力は?コンパクトSUV「UX300e」に乗ってわかった○と×

2021.05.16

連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ

 レクサス初、そしてトヨタ初となる本格的なEV(電気自動車)がレクサス「UX300e」だ。車名の通り、「UX300e」のベースとなっているのはコンパクトSUVの「UX200」と「UX250h」。2.0ℓ、4気筒エンジンもしくは2.0ℓ、4気筒エンジン+モーターのハイブリッドのパワートレインを、最高出力150kW最大トルク300Nmのモーターに置き換えて、前輪を駆動する。

 駆動用バッテリーの総電力量は54.4kWh。満充電からの航続可能距離は367km。街中で使うコミューター以上の距離が確保されている。先行する日産「リーフ」や「Honda e」、今年になって発表されたマツダ「EX-30 EV」 などと共通して、モーターは1基。「Honda e」だけはリアモーターで後輪駆動のRR方式だが、「UX300e」を含むそれ以外は前輪駆動のFF方式となっている。

 航続距離を左右するバッテリー容量だが、「UX300e」は前述の通り54.4kWh。日産「リーフ」が大と小があり、62kWhと40kWh。「Honda e」と「MX-30 EV」 が同じで35.5kWh。つまり「UX300e」はそこそこ大きな容量のバッテリーを積み、ベース車両通りに前輪を駆動する日本製のEVということになる。

 ジャガー「I-PACE」やアウディ「e-tron」、ポルシェ「タイカン」、テスラの各モデルは、いずれも前後に1基ずつを配置する2モーター構成だ。2021年中に発表が予定されている日産の新型EV「アリア」も2モーターと伝えられている。

機械として優れているか? ★★★★ 4.0(★5つが満点)

 ボディーが中型から大型で、航続距離も長く、性能も高いEVではモーターを2基搭載し、4輪を駆動するのがスタンダードになっている。それに対して、「UX300e」のような小型でガソリン版から発展したEVの多くが1モーターとなっている。メインスイッチのボタンを押してONにして、シフトレバーを「D」に入れ、走り出すところまではガソリン版の「UX300」と全く変わらない。

 しかし、走り出しは全然違う。当たりまえすぎるかもしれないが、静かで、滑らかに加速していくフィーリングは、ガソリン版とは全く違う。ちょっと踏んだだけで、音もなくスーッと加速していく。この感じは「UX300e」独自のものではなくて、EV特有のものだ。「UX300e」では、そのEVの長所をさらに生かすべく、様々な工夫が施されている。

 実例を挙げると、床下のバッテリーに遮音壁としての機能を持たせたほか、アコースティックガラスをフロントドアに採用するなど、EVの場合、パワートレインがほぼ無音であるがゆえに、目立って聞こえてきてしまう風切り音や小石や砂などが巻き上げて、ボディーの床下に当たる音なども遮断しようとしている。実にキメの細かい、レクサスらしい心配りによるクルマ造りだと思う。

 加えて、バッテリーパックを井桁形状の鋼鉄製アンダーフレーム上に搭載することで、路面からの衝撃を軽減しようとしたり、フロアと面で固定することでキャビン全体の剛性を向上させようとシャシーの根本的な部分の手当ても抜かりない。

 同様のことは、より大型のジャガー「I-PACE」やアウディ「e-tron」でも行なわれているが、レクサス「UX300e」のようなコンパクトなEVであっても上質な運転感覚と乗員全員の快適性を実現しようというレクサスの設計思想が現われている。その効能は現われていて、舗装の荒れた路面や段差などを走り抜ける時に感じることができた。とてもしっかりとした骨格を持ちながら、その一方で車内に伝わってくる感触はマイルドで好ましいものだ。

 EV特有といえば、回生ブレーキである。エンジン車のエンジンブレーキに相当するようなもので「UX300e」ではハンドル裏のパドルによって、回生ブレーキの加減をプラスマイナスそれぞれ2段階ずつ切り替えることができる。切り替えてみても、違いが少ない。もっと強力な回生ブレーキを備えているEVのほうが多いくらいで、日産「リーフ」などは登場時は「ガソリン車から乗り換える人に違和感を持たれないように」という理由で、とても弱かった。

ほぼ同時に日本で発表されたBMWのEV「i3」が、停止するまでブレーキペダルを踏まずに済むくらいのとても強力な回生ブレーキを備えているのと正反対だった。しかし、その「リーフ」も一昨年のビッグマイナーチェンジで方針を大転換し「i3」のような、ワンペダルドライブで走れるように改めてきた。

「UX300e」には走行モード切り替えも付いているので、スポーツモードを選んでみたが回生ブレーキの効き具合には違いが及んでいないように感じた。資料を確認すると、パドルで減速度を切り替えられることについて「EVの特性を最大限に活かしながら自然な操作性を実現しました」と書いてある。

 ということは、意図的に回生ブレーキを強く効かせないように設定されているのか? そうだったとしても、それは理解できる。コンサバな人にはこちらの方が「マイルドで乗りやすい」と気に入られるかもしれないからだ。

商品として魅力的か? ★★★ 3.0(★5つが満点)

 EVであることは、テールゲートの「UX300e」とボディーサイドの“ELECTRIC”というエンブレム、床下に張り出したバッテリーを見なければわからない。ドライバーインターフェースもコンサバだ。「UX300e」と変わらず、ボタンが多く、メーターパネルもデジタル表示部分の面積が大きくなく、切り替えられる範囲も狭い。もともと、ガソリン版の「UX300」がコンサバなドライバーインターフェースだったのをほとんど変えていないので、EVとなるとその保守的なところがとても目立ってしまっている。
 
 EVのインターフェイスで最も肝腎な電力量がプラスチックの針が上下するガソリン残量計を流用しているのには驚かされた。デジタルの数字でも表示されるのだが、とても小さくて見やすいとはいえない。

 また、運転支援機能の作動状況の表示が小さいのも、コンサバだ。EVでなくても、ヨーロッパ勢のこの点の進化は著しい。パーツを流用して節約することも大切だけれど、EVならではの新しい世界を体験させてくれることを期待したいところだ。

性能では数段上を行くテスラの「モデル3」は、先日大幅な値下げをして1モーターのベーシックグレード「スタンダードレンジプラス」は429万円で買える。2モーターの「ロングレンジ」は499万円だ。「UX300e」は580万円(version C)もする。試乗したversion Lは635万円だ。

 もうひとつ、「UX300e」で憶えておきたいのは、バッテリーの車内への出っ張り分が無視できない点だ。後席に座った際に、前席シートと床に隙間がないので、足を潜り込ますことができないのだ。十数cmだけ足を伸ばすことができなくなるけれども、これが大きい。ガソリン版よりも車内空間が狭くなっていることを、購入する際には確認しておいたほうが良いだろう。

 誰が乗っても手放しで褒めるに違いないのは追い越し加速の鮮やかさと上質さだろう。ある程度の速度で走っている時に、そこからさらに速度を上げるべく右足を踏み込んだ際の力強く滑らかで調和の取れた加速は、発進時のそれよりもさらに上質なものだった。

◆関連情報
https://www.mazda.co.jp/cars/mx-30evmodel/

文/金子浩久(モータージャーナリスト)

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