プレミアムな価値に囲まれて過ごす幸福
スカイラインというクルマは日本人にとって、特別な響きを持った存在である。1957年4月に初代モデルが誕生して以来64年、モータースポーツでの活躍だけでなく、ファッションも含めた文化の中心で、つねに一流のスポーツセダンとして走り続けてきた。当然、日産の最新テクノロジーを優先的に搭載される象徴的なクルマでもあり、スカイラインを見ることは、日産車の近未来を知ることにもつながる。事実、日産の最新運転支援システムである「プロパイロット2.0」が、初めて搭載されたのも、このスカイラインである。
そんな事実を反芻しながら、ステアリングにあるスイッチを2アクションするだけで作動するプロパイロット2.0の運転支援で、ストレスの少ない快適な高速走行が続いていた。制限速度で走行中、トラックなどの車速の遅いクルマなどが出てくると、全体の流れも少し滞り、いわゆる流れが悪くなる。こんな時こそハンズオフ(手を離して運転)が、流れに乗った運転の助けをしてくれる。渋滞のなかで、ペダルから足を離し、ハンドルもオフ出来るのは、ストレス軽減には本当に役立つのだ。
だからと言って油断は禁物で、よそ見をしているとDMS(ドライバー監視システム)が、近赤外線カメラによってドライバーをセンシングしているため、いきなり「前を向いてください」というアラートがでる。
そして渋滞が解消されれば、あとはカメラが標識を読み取り、設定速度まで速度を回復る。前方を注視しながら、追い越し支援システムなども試しながら走っていると、高速を降りる御殿場ICはあっと言う間である。一般道では、もちろん普通にステアリングを握り、乙女峠へとワインディングを駆け上がる。目指しているのは箱根・仙石原にあるイタリアンレストラン「アルベルゴ・バンブー」だ。
オーナーがインテリアから食器までのすべてに渡って本物にこだわり、多くの素材をイタリアから取り寄せ、さらに本場の人たちの力を借りながら8年の歳月を掛けて完成させた白亜の洋館。箱根の仙石原を抜ける国道138号線から、小さな看板を頼りに小道へと進むと、深い森の中にひっそりと、優雅な佇まいの洋館が現れる。その佇まいだけでも優雅なひとときを過ごすに、相応しい場所だと言うことが分かる。実はここ、テレビやファッション誌などのロケ地として使われることも多く、我々にとっては仕事で訪れることがほとんど。食事は絶品と知りつつも、ランチを頂くのは久し振りである。
喧騒を忘れた空間で、本物に囲まれながら過ごす優雅なひととき。近郊の契約農家から届く新鮮な野菜を惜しみなく使ったパスタ料理やメインディッシュは、これだけを目的に箱根を訪れる価値があるほどである。
日本が守り、伝えていくべきもの
ゆったりとした時間を過ごした後は強羅、箱根湯本、そして小田原方面へとスカイラインのノーズを向けて山を下る。次なる目的地は現代アーティスト・杉本博司氏がプロデュースし、話題のスポットとして注目されている「小田原文化財団 江之浦測候所」だ。
国道138号は富士屋ホテルのある宮ノ下で国道1号線と合流する。小田原までの下りのルートは比較的タイトなコーナーと、注意を要する道幅がドライバーの心理に作用して速度は自然と落ちる。湯本では人混みも気になるところだが、そんな状況でも「インテリジェント・エマージェンシーブレーキ」といった衝突回避サポートなどのシステムのお陰もあり、自然なドライブフィールを味わいながら、ストレスの少ないドライブを続けることが出来たのだ。
小田原からは国道135号で、しばしのシーサイド・ドライブ。そして到着した「江之浦測候所」は眼下に相模湾をのぞむ広大な敷地に、美術鑑賞のギャラリーや茶室、庭園、施設舞台や建築物、歴史的遺物などから構成されるアートスポットである。自然と一体化するように考えられた各建築物は、現在では継承が困難になりつつある日本古来の伝統工法を再現すると同時に、未来へとその技を伝える使命があるという。リゾート地に建てられたお洒落風ギャラリーを訪問する感覚だと、少々面食らうかも知れない。一方、その重厚さの中にしばらく身を置くと、不思議な安堵感に包まれていく。
気が付くと本日の宿に向かう時間になっていた。国道135号を小田原方面に戻り、小田原厚木道路に乗って平塚を目指す。そう、名旅館やホテルがひしめく箱根をあえて離れるプランである。小田原厚木道路は片側2車線でアップダウンもそれほど多くなく、実に走りやすいルート。プロパイロット2.0を作動させ、速度制限を守りながら快適なクルージングが続く。
今夜の宿は神奈川県秦野市にある「鶴巻温泉 元湯 陣屋」だ。国道246号線にある桜坂交差点から小田急小田原線の「鶴巻温泉駅」方面に入り、少し走ると約1万坪にも及ぶ日本庭園に客棟が点在する宿に到着する。東京や神奈川から1時間程度で到着するロケーションの良さもあり、首都圏の奥座敷と言える人気の温泉地のひとつだ。そこはまさに日本の良き伝統、おもてなしの心で満たされていた。ゆったりとしつらえられた部屋で寛ぎ、老舗旅館ならではの、心のこもった和食を堪能する。そして少し落ち着いたところで、涼やかな風がながれる露天風呂にゆっくりと身を沈める。朝から続いたドライブの緊張が少しずつほぐれていく。
スカイラインに込められた日本の想い
静寂と引き締まった朝の空気の中で、ゆっくりと目覚めていく。心づくしの朝食によって身も心も開放されていくのが分かる。
「こんなに近くに、本物のリラックスを味わえる場所があったのか?」。そんな思いを抱きながら帰路に就いた。厚木まで246号線を上り、東名高速へと入った。正直に言えばもっともっと走りたい気分である。なんなら静岡辺りまでグランドツーリングでも……。さすがにそれは次の機会に取っておこうと思いとどまったが、それほどにプロパイロット2.0の走りは快適だった。
そして、なぜ今回のドライブ・プランが成立したかを考えてみた。日本の伝統を最大限に生かしながら、つねに未来へと技や想いを伝承するために努力しているところばかりであった。その姿勢こそ、スカイラインが長い歴史の中で大切にしてきた姿勢であったことを改めて感じた。
さらにある日産のエンジニアのことを思い出したのである。マレーシア出身の蔡佑文(チャイ・ユウン)氏だ。彼は今、日産のエンジニアとして開発の最前線にいる秀才の一人である。幼い頃からスカイラインのことを知っていて、憧れを抱きつつ、いつしか日産のエンジニアになることが夢になったという。そしてついに現行スカイラインのプロダクトマネージャーを務めるまでになった。現在の正確な役職は分からないが、従来の機械的なステアリングシャフトに替え、電気信号を介して前輪を操舵するという世界初の技術“ステア・バイ・ワイヤシステム”を開発したエンジニアの中心にいた立役者だ。彼が創り上げたハンドルの動きは実にスムーズであり、快適であった。もしこのシステムが開発されていなかったらプロパイロット2.0の安定感のある味わいは、もっと違ったものになっていたかも知れない。
日本が大好きで、日本の誇りに携われたことを心から喜んでいた蔡氏。彼から日本の伝統の力強さを逆に教えられたことを思い出した。同時に今回のドライブによって“日本人の底力とプライド”を改めて確認出来、充実した気分になれたのだ。
細部までこだわって作られた仙石原「アルベルゴバンブー」のエントランスにしっくりとスカイラインがハマる。
新鮮な日本の素材とイタリアの本物の食材で仕上げられるイタリアンに舌鼓。
100メートルギャラリーには、杉本博司の『海景』など7点を展示。
名月門は鎌倉にある臨済宗建長寺派の明月院の正門として室町時代に建てられた。
「光学硝子舞台と古代ローマ円形劇場写し観客席」なるアート。ガラス舞台が水面に浮いているように見せる。
日産スカイライン GT タイプSPハイブリッド
価格:6,160,000円(税込み)
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,810×1,820×1,440mm
車重:1,840kg
駆動方式:FR
トランスミッション:AT
エンジン:V型6気筒ターボ 3,498cc
最高出力:225kw(306PS)/6,800rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/5,000rpm
モーター:最高出力:50kw(68PS)
モーター:最大トルク:290Nm(29.6kgm)
問い合わせ先: 日産自動車:0120-315-232
TEXT :AQ編集部