渋谷にショッピングや遊びで訪れたとき、「もしも、今大地震が発生したら…」と考えたことはあるだろうか。道はがれきでふさがれ、電車も止まり、避難所の場所も分からず右往左往する――。そうした状況に陥ったとき、的確な行動ができるよう、日頃から頭の片隅に「もしも、そういう状況に陥ったらどうしよう」を置いておこうと呼びかけるプロジェクトがスタートした。
それはこくみん共済 coop、一般財団法人渋谷区観光協会、一般社団法人渋谷未来デザインの3団体による防災、減災の普及啓発活動「もしもプロジェクト渋谷(MOSHIMO PROJECT SHIBUYA)」。今回は本プロジェクトの展示やカンファレンスで公開された企業が行っている防災の取り組みを紹介する。
「もしもプロジェクト渋谷」とは
もしも首都直下地震が起きたらどうなるか。多くの交通機関がストップし。帰宅困難者は約500万人、避難生活者は約300万人に上り、食糧も不足するという被害予測があるという。予期せぬ災害の発生によって75%もの人が思考停止に陥り、適切な行動ができなくなるといわれている。
災害が多発している現代、必然ともいえる「もしも」に備えれば未来は大きく変わるはず。「もしもプロジェクト渋谷」は、多様な人が集う渋谷を舞台に、一人ひとりが「もしも」の日のために何ができるかを考え備えることで、レジリエントな街づくりをめざす取り組みだ。
そもそも、こくみん共済はなぜ防災に力を入れるのか。
「我々は火災共済として家の保証を提供しているため、そうした共済に加入し、もしもに備えていただくのは大事ですが、それよりももしもの被害を防いだり、もしもの被害が発生しても速やかに生活再建をしていただくことが、豊かな生活には大事ではないかと考えました」(こくみん共済担当者)
今年は東日本から10年、熊本から5年の節目の年になること、そして近い将来、首都直下型地震も叫ばれている状況を受け、防災減災の普及活動を始めた。
今回、地震に力を入れたのはなぜか。
「各地域によって、気にすべき災害は変わります。渋谷であれば地震災害がまずは大事だろうということで、今回は地震を取り上げています。九州であれば台風など、色んな災害がありますので、その土地に応じて普及活動を行っていこうと考えています」(こくみん共済担当者)
今回、コロナ禍による緊急事態宣言を受けて、「もしも展」という展示の一般公開の中止を余儀なくされた。もしも展の中身は、もしもプロジェクトのウェブサイト上で公開しており、SNSでも情報配信していくという。
もしもプロジェクト渋谷の3つのコンテンツ~企業の防災への取り組み
もしもプロジェクト渋谷は、次の3つのコンテンツを通して実施された。その中から、各企業の防災への社内外の取り組みを見ていこう。
1.渋谷駅周辺によるポスタージャックプロジェクト
渋谷駅周辺のポスター・ビルボードなどにメッセージを掲出。その場所における災害の備えなどが分かる。
「渋谷の街であれば、みなさん駅に向かって逃げられると思います。しかしビルから出ていくことによって、押し合いへし合いになって危なくなるかもしれません。そもそも渋谷の避難場所は、青山学院大学や代々木公園なので、駅から逆方向なのです。そういった情報もきちんと伝わることによって、怪我を防げたりすると考えています」(こくみん共済担当者)
2.もしも展
センター街「n_space」にて、防災・減災をテーマにした展示「もしも展」を実施。クローズドでメディア関係者のみ参加可能とした。
LOGOSの展示品。「エマージェンシーシート」や「シェイク洗濯袋」、「携帯浄水器」など、被災時にも役立つアウトドアグッズが紹介された。
「協賛企業各社、リソースを集めていただきました。LOGOSさんのキャンプ用具は防災減災に活かされるんだなとわかりました。吉野家さんは、日常、みなさまが口にされているものを防災食として提供されていました。Zoffさんは予備のメガネを提案。私自身、メガネユーザーとして確かに予備の眼鏡の必要性は改めて感じます。
すべてが日常の延長線上に災害はあるということが分かります。各社さんが知恵を出し合っています」(こくみん共済担当者)
Zoffはもしものときにメガネがないと困るとし、予備のメガネを防災ポーチや持ち出し袋に常備しておくと安心と提案。展示は「軽くてタフ」が特徴の「Zoff SMART」だ。
吉野家は「缶詰牛丼」を展示。温めずにそのまま食べられる。賞味期限は3年。お米は栄養価の高い玄米「金のいぶき」を使用。牛丼のほか、豚丼、豚生姜焼丼、焼塩さば丼など全6種類を用意し、飽きがこないようにする配慮もされている。
岩手日報社は「支え愛」袋と題して防災グッズがセットになった防災袋を展示。これは東日本大震災で被災した人々の声から生まれた岩手ならではのグッズが結集したもの。震災から10年の節目に販売された。
3.もしもカンファレンス
「もしもカンファレンス」としてトークセッションのオンライン配信も行われた。さまざまな視点をもったゲストにより、どうすれば防災・減災が「自分ごと化」するかをテーマに、クリエイティビティに溢れた仕掛けを一緒に考える企画。
カンファレンスの模様は、もしもプロジェクト渋谷公式 YouTube チャンネルにて無料配信されている。トークセッションは「マイノリティデザイン」「もしもプロジェクトの未来」「復興」「企業の取り組み」の4テーマで行われた。
もしもカンファレンスのうち、4つめの「企業の取り組み」をテーマとした回では、株式会社 arca代表の辻愛沙子氏、DE Inc. Co-CEOの牧野圭太氏を司会役とし、ヤフー株式会社 SR推進統括本部 社会貢献ユニット 災害チーム 安田健志氏とこくみん共済 coop〈全労済〉本部 ブランド戦略部 ブランドコミュニケーション課 一入恭子氏によって、防災への取り組みが紹介された。
ヤフー安田氏は、ヤフーの災害に対する取り組みとして発災前、発災後両方からさまざまなサービスを提供していると述べ、Yahoo!基金やYahoo!ボランティア、民間企業と市民団体(CSO)が連携し、日本国内において災害支援を行うための仕組み「SEMA(シーマ)」などについて解説。そもそも、なぜヤフーはこれほどまでに防災に力を入れるのかという質問に対し、安田氏は、創業当時の初代社長、井上氏の「テレビを見ていて助かったのに、インターネットを見ていて助からなかった人を作っていかん」という言葉に基づいていると明かした。また安田氏自身、会社の費用負担にて「防災士」の資格を取得し、災害関連の業務に役立てていると述べた。
こくみん共済の一入氏は、こくみん共済 coop<全労災>は戦後復興間もない1954年に大阪で火災共済事業からはじまったことを紹介。そこには「誰もが入れる保障があれば、安心して働ける」「みんなが力を合わせれば、実現できる」という想いが根底にあった。
現在は、もしもの安心として「共済」を提供すると同時に、「事前」の日常の備えとして防災・減災の取り組みなどと、「事後」のサポートにも力を入れていると述べた。それは、もしものときのサポートだけでは人々は救えないという考え方に基づくという。
企業の防災減災への取り組みに対して、本プロジェクトはどのような位置付けとなるか。こくみん共済担当者は次のように話す。
「日頃はお隣の会社さんと仲良く話をする機会というのは、なかなかありません。本来は企業同士が集まって、地域社会のために何ができるのかの話し合いの場があれば、もっとより良いと考えています。本プロジェクトがそのきっかけになればと思っています」(こくみん共済担当者)
もしもWEEKは2021年5月1日から14日まで。渋谷の街に訪れた際には、きっと黄色のポスターを目にすることだろう。ふと立ち止まって、“もしものとき”を思いめぐらせてみる良い機会となるだろう。代々木公園の方向を確認するのを忘れずに。
【参考】
もしもプロジェクト渋谷
https://moshimo-project.jp/contents/rx9opc8dw1
取材・文/石原亜香利