4月23日に発売され、うかうかしていると納期ははるか先(コロナ禍と世界的半導体不足もあって)・・・というぐらいの初期受注で実証された根強い人気ぶりを示しているのが、国産コンパクトクロスオーバーSUVのパイオニアの1台、初代が大ヒット作となった2代目となる、新型ホンダ・ヴェゼルである。これまで屋内での写真は露出していたものの、今回は屋外での初対面。青空の下で見る新型ヴェゼルは、シンプルなエクステリアデザインでありながら、欧州プレミアムSUVに負けない存在感、スタイリッシュさを発散していた。
先代同様、フィット(現行型)をベースに開発された新型ヴェゼルは、ホンダ独創のセンタータンクレイアウトを踏襲。ボディサイズは全長4330(4295)×全幅1790(1770)×全高1590(1605)mm、ホイールベース2610 (2610) mm。(カッコ内は先代モデル)。つまり、全長で35mm、全幅で20mm大きくなり、しかし全高は15mm低くなっている(スタイリッシュさの根源でもある)。パワートレーンは1・5Lエンジンに2つのモーターを加えた、今ではおなじみのe:HEV、つまりハイブリッドモデルがメイン(1・5Lのガソリンモデルも1グレード用意される)。
駆動方式はFFおよびAWDを揃えるが、注目はAWD。クロスオーバータイプのSUVのハイブリッドモデルでは、リヤモーターだけで後輪を駆動するモデルがほとんどだが、新型ヴェゼルのリアルタイムAWDはなんと、センタータンクレイアウトの恩恵もあって、後席フラットフロアの実現と同時に、後輪にプロペラシャフトを介して大トルクをダイレクトにつなぐ構造を新採用。その結果、140km/hまで対応するAWD性能が飛躍的に向上したことは言うまでもない。なお、最低地上高は先代の2WD185mm、AWD170mmから、新型は2WD185-195mm、AWD170-180mmとなった。新型の最低地上高に2種類の数値があるのは、16/18インチのタイヤサイズのうち、後者が18インチタイヤ装着車であり、最低地上高にさらなる余裕がもたらされているのもポイントとなる。最小回転半径5・3~5・5mは先代(16/17インチタイヤ)と変わらない。
インテリアも新鮮だ。横一直線基調のインパネから続く、横方向へと乗員を包み込むようなすっきりとしたデザイン、手抜きなしの質感の高さ、心地よいシートの座り心地に加え、全方向の視界の良さによって、運転席に着座した瞬間から、安心感、居心地の良さとともに、運転のしやすさを実感できるはずである。シートファブリックのセンスの良さもユーザーの満足度を高めてくれるに違いない。
前後席の頭上のほとんどの面積がガラス張りとなるパノラマルーフ装着車なら、まるでオープンカーのような室内の明るさ、解放感が味わえ、特に前席では正面を見ていても、空が視界に入る爽快なドライブが楽しめるのだからゴキゲンだ。
後席の広さも圧巻である。身長172cmの筆者のドライビングポジション背後に着座すると、頭上に約100mmは先代より全高が低まったぶん、狭まってはいるものの、膝周り空間にはなんと先代+35mm、CR-Vの後席膝周り空間同等の約290mm!!ものスペースが確保されている。 AWDの後輪駆動用プロペラシャフトが床下を通っているにもかかわらず、フロアはほぼフラットたから、足元は広々。ゆったりと寛げる空間となっている。もちろん後席エアコン吹き出し口も備わり、季節を問わず快適なドライブが後席でも約束されるというわけだ。
新型ヴェゼルは時代の先端を行くコネクテッドカーとしての機能も充実。その先進性にも見るべきものがある。タブレットそのものの9インチ大型ホンダコネクトデイスプレー(PLaYグレードに標準装備。他グレードはメーカーオプション/ETC機器とセットで22万円/税込み)による新世代コネクテッド技術は、画面内のアプリをタブレットのように並べ替えることが可能なほか、スマホをクルマのキーとして利用できるホンダ・デジタルキー、オンライン自動地図更新サービス(月/550円。通信料ホンダ持ち)、スマホでエアコンやドアのアンロックの遠隔操作などが行うことができるリモート操作機能(スマホが通信できるエリア)、ソフトバンク回線による車内Wi-Fi(1GB330円~5GB1650円/月/繰り越し最大4カ月可能。新車から1年間は1GB無料/税込み)、前席頭上にあるボタンひとつでオペレーターが対応する緊急サポートセンター機能、ホンダ・アプリセンター、ALSOK駆けつけサービスなどが利用できるのだ。
SUV、クロスオーバーSUVはアウトドアでも大活躍してくれるクルマだが、となるとアウトドア用の荷物の積載性も重要になる。新型ヴェゼルは、なるほど、ラゲッジスペースの使い勝手も大きく向上していて、まず報告できるのは、開口部の段差がなくなった点がポイントだ。先代は開口部に約50mmの段差があり、重い荷物の出し入れはちょっとやっかいだった。新型は、フロア高そのものは先代より40mmほど高まっているものの(約690mm/SUVの平均値以下)、荷物の出し入れのしやすさはグッと良くなったと言えるだろう。
しかも、後席はホンダ車ならではのチップアップ&ダイブダウン機能を採用しているため、ダイブダウンアレンジによって身長172cmの筆者が真っすぐに横になれる、車中泊も可能なフラットスペース(ベッドスペース?)にアレンジできるのだから、密を避けたアウトドアを楽しみ尽くしたいユーザーにもうってつけなのである。
ところで、新型ヴェゼルには、全グレードに最新の先進運転支援機能=ホンダセンシングが標準装備されるが、筆者が密かにほくそ笑み、思わず「やったね、ホンダ」と叫んでしまったのが、カタログなど、どこにも説明されていない、電子パーキングブレーキ周りの新機能だった。ホンダの電子パーキングブレーキは、アクセルペダルを踏むことで解除は自動で、しかしクルマから下りる際、電子パーキングブレーキをかけるには、依然として手動(スイッチ操作)で面倒なのはともかく、電子パーキングブレーキあってのオートブレーキホールド機能は、なんとホンダ車初のメモリー機能付きになったのである。
オートブレーキホールド機能とは、これまで一部のホンダ車に付いていた、信号待ちや渋滞の停車時、スーパーマーケットの料金所などで、ブレーキペダルを踏まなくても停止保持してくれる超便利な機能。しかし、ホンダのオートブレーキホールド機能は、スイッチONで作動するものの、エンジンを切るとメモリーされずOFFになってしまい(最新のピュアEV、ホンダeでもそう)、エンジンOFF後も機能が維持されるクルマを常用している筆者としては、個人的に使いにくさを感じていたのである。が、新型ヴェゼルは、ついに(ホンダとして)エンジンを切った後もオートブレーキホールド機能が維持され、スイッチをONにしておけばいつでも作動。右足の頻繁なブレーキペダル操作による疲労が劇的に低減される(靴底の減りも低減!?)ことになったのだ(祝)。
残念なのは、ライバルの1台となるトヨタC-HRにオプション、e:HEVのオデッセイやステップワゴンにも用意されているAC100V/1500Wコンセントの装備がないこと。ヴェゼルはアウトドアでも大活躍するオールラウンダーなクルマだけに、ぜひとも追加装備してほしいところである。
さて、新型ヴェゼルは走行性能についても飛躍的に向上しているのは確実だろう。欧州仕様の足回りを奢った先代RSを除く標準モデルの骨太すぎる操縦感覚、硬目の乗り心地は大きく改善されているはずだが、現時点では試乗する機会を与えられていないため、新型の劇的進化が期待できる走りのインプレッションについては、改めて報告させていただきたい。
ホンダ・ヴェゼル
https://www.honda.co.jp/VEZEL/
文/青山尚暉
モータージャーナリスト。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動車専門誌の編集を経て、現在、モータージャーナリスト、愛犬との快適安心なカーライフを提案するドッグライフプロデューサーのふたつの肩書を持つ。小学館PETomorrowでも「わんこと行くクルマ旅」を連載中。最新刊に「愛犬と乗るクルマ」がある。