連載/石川真禧照のラグジュアリーカーワールド
英国のロータスは、1952年にコーリン・チャップマンという優れた技術者であり、優秀なビジネスマンであった人物が創業したブランドだ。当初は、大衆車をベースにしたレーシングカーを造っていたが、同時に組み立てキットでも造れる「セブン(7)」を発売し、会社を軌道に乗せた。以来、フォーミュラ1のマシンを次々開発し、世界チャンピオンに何度も輝き、名声を手に入れた。市販車の世界でもフォードと手を組んだり、独自のスポーツカーを生産し、存在感を示してきた。
近年のロータスは「エリーゼ」を1995年に発売し、ブリティッシュ・ライトウエイト・スポーツを復活させた。この「エリーゼ」の成功から「エキシージ」「エヴォーラ」など、次々とライトウエイトのバリエーションを拡大していった。しかし、次世代を見据えたスポーツカー造りに専念することを決意し、2021年1月にこの3台の生産中止を発表した。今回、名車と言われるこの3台の最終試乗の機会を得ることがてきたので紹介したい。
ロータス「エリーゼ スプリント220」
現行の「エリーゼ」は、1995年に登場し、世界中のライトウエイト・スポーツカーの概念を一新させたモデル。以来、世界の厳しい法規制をクリアしながら、2021年まで生産を継続してきた。そのボディーは全長3.8m、全幅1.72m、全高1.1m、ホイールベース2.3m。全長は、国産車ならスズキ「ソリオ」か「クロスビー」ぐらいだろう。ホイールベースは軽自動車より10cm以上短い。全幅を除けば、かなりコンパクトだ。
このコンパクトボディーの真ん中に、直列4気筒,1.8Lのスーパーチャージャーエンジンを搭載。パワーは車名の「220」が示すように220PS、このほか「CUP250GPエディション」があるが、こちらはサーキットにも使える装備の250PSエンジン搭載モデルだ。ミッションは、全モデル6速MT。しかもこのシフトレバーは、センターコンソールにシフトゲートからムキ出しというレーシーな設計となっている。
スパルタンなのはシフトレバーだけではない。ルーフを閉めた状態の「エリーゼ」に乗り込むにはスリムで柔軟な身体が要求される。全高1.1m、ドアはサイドシムが高い。ということは乗降する面積が狭いということ。体を折り曲げるようにして運転席にすべり込んでみたが、一度バケットシートに収まってしまえば、しっかりと体を支えてくれる印象がある。低いポジションではあるが、フロントフェンダーは左右ともよく見える。斜め後方もリアウインドウを通して確認できるので、運転はしやすいはずだ。
ドアはガッシリと閉まり、ドアシルが高いのでシートはボディーにしっかり囲まれているという感覚になる。クラッチペダルは左足の前方にあるが、反発力はかなり強めだ。それを押しこんでシフトを1速に入れると、カチッとしたシフトフィーリングを体感できた。手首の動きで2、3速へとシフトできる。エンジンスタートは、コラムのイグニッションキーをひねってから、スタートボタンを押す、というロータス独特の方式だ。
ドライビングモードはノーマル/スポーツ/トラクションコントロールオフの3モードが用意されている。目の前のメーターは8000回転のエンジン回転計と300km/hの速度計がメイン。エンジン回転計は7000回転からレッドゾーンに入る。
1速にシフトし、クラッチを慎重につなぐ。1速5000回転まで引っ張って、2、3速へとシフトすると法定速度をオーバーしてしまう。一方、6速60km/hは1300回転。ここからアクセルを踏み込んでも加速する。900kgを切る軽い車重が生きているのだ。
「エリーゼ」が楽しいのは、高速道路のクルージングよりもワインディング。高速道路では硬めのサスと短いホイールベースでどうしても落ち着きに欠ける動きが出る。ワインディングでは重めの操舵力を保ちながらの走りが特徴だ。戻す力も小さく、ハンドルを切ったらそのままコーナーをクリアしていく動きは「エリーゼ」ならではの魅力といえる。
エンジン後方には、高さ50cmと浅めだが、トランクスペースも備わっている。ヘルメットは収納できる広さというところがロータスのスポーツカーらしい。現行モデルは、CUP「250GPエディション」「スプリント220」「スポーツ220Ⅱ」に加えて、「スポーツ240」がファイナルエディションとして加わっている。ロータス3兄弟の末っ子は、今でも世界でトップクラスのハンドリングを楽しめるライトウエイト・スポーツカーでもあるのだ。
■関連情報
http://www.lotus-cars.jp/our-cars/current-range/lotus-elise-range.html
文/石川真禧照 撮影/萩原文博 動動画/吉田海夕