2021年の「医療・製薬業界」
コロナの流行はまだ終わりが見えず、ワクチン開発に対する注目度は相変わらず高い。また、バイオテクノロジーを駆使した創薬も活発化している。頭ひとつ抜け出しそうな企業を、医療ジャーナリストの村上和巳さんに訊いた。
医療ジャーナリスト 村上和巳さん
医療専門誌記者として7年従事した後、01年からフリーに。国際紛争、医療、災害などの分野で執筆活動をしている。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会理事。
投資家は日本の製薬業界を見くびっている
日本の製薬最大手・武田薬品工業は19年1月にアイルランドの製薬大手・シャイアーを6・2兆円という日本史上最大額で買収したため、有利子負債が4兆円に達しています。それが巨額だとして批判され、株価も下がっているようですが、武田の本来の実力からすれば低すぎる不当な評価だと思います。
具体的には、血友病や免疫不全症などの希少疾患や慢性疾患の治療に用いられる「血漿分画製剤(けっしょうぶんかくせいざい)」では世界のトップ3に食い込み、中でも免疫グロブリン製剤については新型コロナに対応した製品の開発にも取り組んでいます。このジャンルはジェネリックも出にくいので、利益を確保しやすい。
自社開発の製品以外でも〝稼ぐ力〟を持っています。モデルナ社の新型コロナワクチンが日本でも承認される見込みですが、日本での販路がない同社が販売提携先に選んだのも武田です。堅実に成功を収めており、負債の償却はややスケジュールより遅れていますが、この点が解消されれば右肩上がりで業績を伸ばす可能性は十分にあります。
東大医科学研究所と提携して、コロナワクチンを開発しているのが第一三共です。現在、ファイザー社やモデルナ社と同じタイプの「mRNAワクチン」を開発中で、この3月から臨床試験が始まっています。
コロナワクチン開発で日本の製薬メーカーは遅れをとっていますが、これは技術的問題もさることながら、日本は感染者数が欧米よりはるかに少なく、臨床試験を実施しにくいことも大きく影響しています。欧米ではワクチン争奪戦が始まり確保がままならなくなっているので、今後登場する国産ワクチンの需要は高いでしょう。
売上高世界一の製薬企業・ロシュの傘下にある中外製薬にも注目しています。同社は最近では遺伝性疾患治療の抗体医薬品を、親会社であるロシュを通じて世界で販売している。このように主従関係が逆転することはかなり珍しい。〝世界一の製薬企業が一目置く技術力〟というわけです。
製薬メーカーの中でも、ユニークな事業を展開しているのが大日本住友製薬でしょう。すでに実用化したスマホ用のパーキンソン病サポートアプリ『リハビリ日記』で、患者のリハビリやウオーキング、服薬記録をサポートしています。現在は糖尿病の管理指導用アプリも開発中。製薬メーカーが薬だけに頼らない病気の管理方法を開発しているわけで、今後どのような展開があるか楽しみです。
POINT CHECK
● 他社に負けない「新薬」を開発できる技術があるか
● 他社協力などによる稼ぐ力があるか
● 他社と異なる分野にチャレンジしているか
村上さんが注⽬する企業はコチラ!
武田薬品工業(東証1部4502)
日本最大の製薬企業で、売上高では世界9位にランクされる(2020年3月期)。がんや消化器系疾患、中枢神経疾患、希少疾患の4つを重点領域とし、血漿分画製剤およびワクチンの開発も活発化している(写真は代表取締役社長CEOのクリストフ・ウェバー氏)。
第一三共(東証1部4568)
三共と第一製薬が2005年9月に経営統合して誕生した製薬大手。日本市場の医療用医薬品売上高では、3年連続首位。循環器系疾患と感染症の製薬を得意としている。がん治療薬を中心とした創薬事業をコア事業と位置づける。
大日本住友製薬(東証1部4506)
神経系薬や合成抗菌剤分野を得意とする。20年8月にデジタル治療を手がけるベンチャーのSave Medicalと糖尿病管理指導用アプリの共同開発契約を締結するなど、アプリ開発に積極的(画像はパーキンソン病サポートアプリ『リハビリ日誌』のホームページ)。
取材・文/清水典之