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二酸化炭素から酸素を作ることに成功!NASAの火星探査機パーシビアランスに搭載された「MOXIE」とは?

2021.05.03

2021年4月20日、アメリカ航空宇宙局NASAは、火星で二酸化炭素から酸素を作ることに成功したと報じた。 

もう少し詳しく説明しよう。2021年2月18日に火星に無事着陸した世界的に大ニュースとなったNASAの火星探査機パーシビアランスだが、このパーシビアランスには、MOXIEという装置が搭載されている。このMOXIEという装置において、火星の大気の二酸化炭素から酸素を作る実験が行われ、無事成功したのだ。

ちなみに、MOXIEは、The Mars Oxygen In-Situ Resource Utilization Experiment。このニュースはあまり日本では大々的に報じられないのが残念だが、この魅力的なニュースについて少し深掘りしてみたい。

NASA火星探査機パーシビアランスに搭載されたMOXIE
(出典:NASA

二酸化炭素から酸素を作るパーシビアランスに搭載されたMOXIEとは?

繰り返すが、MOXIEは、NASAの火星探査機パーシビアランスに搭載された二酸化炭素から酸素を生成する装置。The Mars Oxygen In-Situ Resource Utilization Experiment。装置名の日本語訳がないが、英単語では、元気、精力という意味があるようだ。

MOXIEは、火星探査機パーシビアランスの中央右側に設置されている。MOXIEは、金メッキされたコンポーネントで、大きさは23.9 x 23.9 x 30.9cm、質量は17.1kg、消費電力300W。火星の大気から二酸化炭素酸素を生成することをミッションとしている。実際にどれくらいの酸素を生成できるかというと、約1時間に最大で10gの酸素を生成できるという。NASA火星探査機パーシビアランスに搭載されたMOXIEの搭載位置
(出典:NASA

実際にMOXIEの原理を分かりやすく説明した動画を観てみたところ、火星の大気をまずMOXIEへと流入させる。その際、フィルターによってダストなどを除去している。フィルターを通過後、チャンバー内で圧縮、加熱された二酸化炭素は、COとO2に分離される。そして、加熱、低電圧が印加されたセラミックメンブレン(膜)で酸素を収集するというものだ。

火星探査機パーシビアランスに搭載されたMOXIEの原理を説明した動画はこちら

実際に火星の大気で二酸化炭素から酸素が生成できた結果も報告されている。このグラフによると約5g程度の酸素の生成に成功している。たった5gと思う読者も多いかもしれないが、宇宙飛行士が約10分間呼吸することができるに等しい酸素の量だという。

MOXIEで実際に火星で二酸化炭素から生成された酸素。約5gの酸素生成に成功している
(出典:MIT Haystack Observatory)

NASAは、なぜ火星で二酸化炭素から酸素を作る実験をしたのか?

では、なぜ、火星で二酸化炭素から酸素を作る実験をしたのだろうか。その理由は、人類は火星を目指しているから。この理由に尽きる。つまり、火星移住だ。これはいつ実現できるかはわからないが、人類は、この目標に向けて様々な技術開発を手掛けている。

例えば、イーロンマスク。SpaceXのイーロンマスクは2030年よりも前に火星に人類は着陸することになる、と明言している。この実現までには多くの課題がありそうだ。しかし、そのような課題に果敢にチャレンジする先駆者としての彼に敬意を表したい。

この火星移住までの課題について少し話してみると、例えば、地球から出発して火星へ到着するまでの時間があるだろう。実は到着までに約260日間かかると言われている。260日もの間、宇宙船という限定された閉鎖空間にいることによる人間の心理面での課題、そして260日間、人が生きることができるための食料、水、酸素などの物資が確保だ。搭乗する人数が多ければ多いほどこの物資はその分必要になるし、その分、大きなロケットなどの輸送機と宇宙船が必要となってくる。代替法として、人工冬眠という技術も可能性としては挙げられるが、現在研究中だ。

そして、火星に到着した際、人類が生活するためにも、酸素や水などが必要となってくる。火星の大気の約96%は二酸化炭素であり、酸素はたった0.13%しかない。であれば、火星に大量にある二酸化炭素を人類にとって有効活用すれば良い、そう考えたのだ。もちろん、火星の居住施設の建設、各種インフラの整備などなどのその他の課題だってあるだろう。

もう一つ理由がある。それは、火星探査機のためだ。火星探査機以外にも、火星でのモビリティー全般にもいえるだろう。酸素を活用できれば、推進剤、エネルギー源として活用できるのだ。

地球上でも、二酸化炭素から酸素や資源を作る技術開発が盛ん!

実は、火星のような宇宙の分野だけが二酸化炭素に関する研究を盛んに実施しているわけではない。地球上でも盛んだ。というのも、先日、2021年4月22日、菅総理が2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、2013年度に比べて46%削減することを目指すと表明したことは記憶に新しいだろう。

このような温室効果ガス削減のために、地球上では、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスを削減する動きが盛んだ。カーボンニュートラル、カーボンオフセット、CCUS(Carbon Capture Utilization Storage)、カーボンリサイクル、P2G(power to Gas)、P2C(Power to Chemicals)、などなどの用語を多く耳にすると思う。二酸化炭素を削減という意味合いに加えて、二酸化炭素を再利用する意味合いもある。

その技術を少し紹介しよう。例えば、人工光合成。二酸化炭素から価値のある化学品や燃料を製造することができる技術の一種だ。この分野で有名なのが東芝だろう。CO2電解技術というもので、燃料の原料となるCOを生成することに成功している。また、東芝は人工光合成技術を活用したCO2資源化技術の開発で、令和2年度気候変動アクション環境大臣表彰を受賞している。また、2021年4月21日、豊田中央研究所は、太陽光エネルギーを利用して二酸化炭素と水のみから有用な物質を合成する人工光合成を太陽電池セルで実現したと報じている。

他にも、スマートシティ企画や早稲田大学小野田教授などが運営する一般社団法人C2Xという事業体の活動も興味深い。C2X(Carbon to X)における革新的な技術を様々な企業とコラボレーションすることにより事業化を目指している。

これら技術は、もちろん地球の温暖化対策に向けてとても重要だ。そして宇宙でもこの技術は有効だろう。現在、宇宙での二酸化炭素の技術といえば、国際宇宙ステーション内での二酸化炭素を除去するための技術は活用されている。今後は、二酸化炭素の再利用という点で、月や火星、宇宙ホテル、スペースコロニーなどにおいて、宇宙で人が居住する空間には絶対に有効となる技術であることは間違いない。

東芝の人工光合成技術を活用したCO2資源化技術の開発
(出典:東芝)

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。現在は各メディアの情報発信に力を入れている。

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