投資は若い頃から始めたほうがいい──成功した投資家たちの多くがそう語るのはなぜだろう。経験が多くなくとも、投資を通じて社会を学び、学んだ知識で資産を増やすことを「楽しもう」とすることが資産拡大につながるからだ。新世代の投資家が語る。
タレント、プロ雀士 中田花奈さん
94年生まれ。2011年、乃木坂46の1期生としてアイドルデビュー。2020年10月にグループ卒業。共著に『「バフェットの投資術」を学んだら、生き方まで変わった話。』(PHP研究所)。
投資で社会とつながる楽しさ
17歳でアイドルになった私にとって、同世代が通ってきたアルバイトや就職活動、入社など社会に踏み出す階段を上っていくことができませんでした。
知らないことも山ほどあったし、何が知らないのかもわからなかった。だから幼い頃から父に教わってきた投資がきっかけで社会性を身につけることができたのは本当によかったです。おかげで少しは一般的な26歳にはなれたかな? と思います。
レストランだったり居酒屋だったり、普段よく行くお店でも株式投資の視点で見ると、全然違う姿が浮かび上がることがあります。気になる企業があるとお仕事の隙間時間にスマホでさっと調べてみるんです。例えば、世界的なトレンドである「SDGs(持続可能な開発目標)」を掲げる企業が最近では増えてきました。お客さんの視点だったら「ああ、この企業はいろいろと気を使っているんだな」で終わってしまっているところが、投資家の目線だと「じゃあどんな取り組みをしているのかな?」ともう一歩踏み込んで調べることができます。ちゃんとしている企業だったらひとりの利用者としてもっと好きになることもできるし、そうじゃなかったらもしかしたら嫌いになるかもしれない。どちらでも日常生活を送るうえでプラスなことだと思います。投資の可能性は資産を増やすだけじゃないんだなと実感しています。
私が今注目している業界ですか? テーマとしては再生可能エネルギーです。これからの社会に必ず必要になってくるものだから少しだけ買ってみたのですが、もう結構値上がりしてきていて、売りたくてうずうずしてしまっています(笑)。
私は、何も専門的な知識がない状態から株式投資を始めました。それでも利益を出すことができたのは、知識がないことに引け目を感じたりすることなく、今の自分にできる〝等身大の投資〟を実践するよう心がけたことに原因があるのかもしれません。
21歳の頃、私が初めて買った銘柄はよく行く飲食店を経営する企業の株でした。投資自体で儲けたいとは思わなくて自分のお金の中で余っている金額だけ投資してみて株主優待が届けばいいな、ぐらいの意識でした。
それが数千円、数万円と利益が出るたびに利確をして、そのお金でほかの銘柄を買って……と繰り返していくうちにお金が増えていく感覚を覚えて、株主優待より資産を増やすことを考えるようになりました。
振り返ると、スタートラインを間違えなかったのがよかったなと感じます。証券口座を作る時、父から「なくなってもいい金額で始めなさい」と教えてもらいました。それで何となく「株はなくなってもいいお金でやるもの」という考えが私の中に根づいたんだと思います。だから、自分が保有していない銘柄が高騰したというニュースを目にしても、「買い時を逃しちゃったなあ……」と後悔することはありません。
また、持っている銘柄の株価が急落しても「今すぐ売らなきゃ!」と狼狽えることもありませんでした。その気楽さのおかげもあって、昨年のコロナショックでもトータルでは少しプラスで乗り切ることができました(笑)。
分かる範囲でやればいい。
同世代の方や、年上でもまだ投資に積極的になれていない人には「まずは投資を楽しみましょう!」 とお伝えしたいです。買うタイミングと売るタイミングがぴったりの投資ができた時は、お金が殖えるのはそうですが、「世の中のことを少しは理解できるようになったのかな」という自己肯定感も得られて、一石二鳥ですよ。
投資を始めて5年になりますが、当初と比べて投資スタイルが少しだけ変わってきました。2年ほど前、著名な投資家ウォーレン・バフェットさんのことを勉強する機会をいただいた時に、彼の投資哲学にある「銘柄を選ぶ時には企業と心中する覚悟で投資せよ」という言葉と出会いました。私はこれまで自然と応援したい企業の株を買っていたつもりでしたが、利益が出たらすぐに売っていたし、添い遂げるほどの心はありませんでした。彼の言葉を学んで、企業と本当に向き合ってはいなかったんだなと痛感して、考えを改めるようになりました。すると自然と短期の投資は減って、中~長期の投資が増えてきました。銘柄と向き合うためには、理解しやすいほうがよかったので日本株以外にはまだまだ手が出せていません。
投資銘柄を探す時にもバフェットさんの投資ルールを参考にしています。始めたての方には少し難しい話になってしまうのですが、特に私が気にしているのは企業の「自己資本比率」と「ROE(自己資本利益率)」です。自己資本比率は業績悪化などがない企業の場合は50%を超えていること、ROEは15%以上を目安にしています。
特にROEに関しては、株主から預かったお金を使って企業がどれだけ利益を出しているのかを見極める基準値なので、株主になる以上は押さえておきたいポイントです。
銘柄選びに困った時に、まずは数字でふるいにかけると思いがけず優良企業を見つけることができるのもおもしろいですよ。
企業理念や事業計画、財務諸表など細かいところまでチェックするようになったのもこの頃からです。もともとオタク気質なせいか、ひとつのことを始めると沼にはまっちゃいやすい性格なんです。
今では優良銘柄を見つけ出すためじゃなく、単純に企業の情報を調べる作業が楽しくてたまりません(笑)。
どれだけ企業を愛せるか
わからないことがわかるようになるのが、単純に楽しくて仕方がない。バフェットさんも「投資は若いうちから始めたほうが儲かる」と言っています。投資期間が長いほうが複利の恩恵を受けられるからですが、複利は資産だけでなく「知識」にも同じことが言えると思うんです。若い頃から投資を始めることで、知識がどんどん雪だるま式で増えていく。そのおかげで、年上の方とも経済や投資が共通の話題になって思いがけず話が盛り上がっちゃうこともあります。
私事ですが、今年プロ雀士になりまして雀荘の経営にも興味があるんです。経営とか財務諸表、会計を勉強したのに加えて、投資をやってきたおかげで経営者として何が必要か考えることができるのは本当によかったなって思います。これも投資の「複利効果」かな?
〈中田花奈のおすすめ〉初心者でも使いやすい株式ツール3選
中田さんが注目するのは「バフェット銘柄」と呼ばれる長期で安心して投資ができる優良銘柄。彼女自身が実際に使っているツールを紹介。
(1)Yahoo!ファイナンス
「株価やチャートだけでなく企業情報も掲載されているので気になる企業のチェックはここから始めます! 企業の特色を見るとビジネスモデルがわかります。第1の鉄則は『理解できない事業には投資しないこと』です」
(2)みんなの株式
「企業の決算や財務状況を詳しく知りたい時に使ってます! 採算性を確認するためにはキャッシュフローの確認は欠かせません。投資キャッシュフローでも継続的に赤字になっている場合は長期投資には不安材料のひとつです」
(3)バフェット・コード
「バフェットさんも重視する『ROE 10%以上』など条件を指定して検索することができます。数字から気になる企業を探すことができるので重宝しています。検索結果が多い場合、さらに業種や市場を選択して安心して投資できる銘柄を選びましょう!」
取材・文/峯 亮佑