書店の倒産が急減、2020年度は過去最少を更新
「活字離れ」をはじめ紙書籍の需要減を背景に苦戦を強いられてきた書店業界が、ここにきて持ち直しの動きを見せている。帝国データバンクの調査では、2020年度の書店の倒産は12件にとどまった。昨年の24件を大幅に下回って3年ぶりの減少となったほか、これまで最も少なかった17年度の16件を4件下回り、過去最少を更新したことが分かった。
書店業界はこれまで、若年層を中心に本を読まない「活字(書籍)離れ」に加え、インターネット書店の台頭、電子書籍などデジタル化が脅威となって売り上げの減少を強いられ、中小書店を中心に倒産が増加傾向にあった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大による巣ごもりの追い風を受け、自己啓発や参考書などの教養本から、自宅で楽しめるエンターテイメントツールとしてマンガなどコミックの需要が急増した。
なかでも、昨年10月に劇場版が公開された「鬼滅の刃」が爆発的ヒットとなったことに加え、最近では人気が高まっている「呪術廻戦」といったヒットタイトルにも支えられた。「人気コミックに引っ張られて客数が増えた」など、書店によってはコミックの売上が前年から1割以上増加したケースもみられ、経営に持ち直しの動きもみられている。
「鬼滅」クラスのメガヒットが、20年度の書店経営を下支えした(写真=都内書店)
書籍の売り上げ、過去最長10カ月連続の増加に 自宅の娯楽変化も一因、読書が“動画視聴”と並ぶ
コミックの店頭売り上げは18カ月連続で増加、 「鬼滅の刃」などの大ヒットも寄与した
出版取次大手の日本出版販売がまとめた調査によると、取引書店の3月店頭売り上げは前年比96.6%にとどまった。学習参考書などが好調だった昨年同時期の反動から前年を下回ったものの、2月までに集計以来初めてとなる10カ月連続での前年超えを記録。「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」などが好調なコミックは、3月時点で18カ月連続での前年超えとなるなど、依然として書籍需要はコミックを中心として高水準で推移している。出版科学研究所の調査でも、紙と電子を合わせたコミック市場の推定販売金額が6126億円に達し、25年ぶりに過去最高を更新している。
背景には、コロナ禍で生活様式が大きく変化するなか、在宅時のエンターテイメントにおける選択肢の一つとして、コミックを含めた読書への回帰・定着が鮮明となった点が挙げられる。エンターテイメント業界向けにマーケティングデータ分析などのサービスを提供するGEM Partnersが、新型コロナの流行・自粛前後で増えた自宅でのエンターテイメントについて約4000人に調査を行ったところ、本・マンガなどの読書は全体の1割超が「コロナ後に増えた」または「初めてした」と回答した。Netflixをはじめ、月額定額制のネット配信サービスなどを利用する動画視聴の割合と並ぶなど、ここに来て書籍に触れるケースが増えている様子がうかがえた。書籍離れから読者の減少が続いた書店業界にとっては、読書市場の底上げに期待が持てる明るいニュースと言えよう。
ただ、こうした恩恵を受けたのは駐車場を備えた郊外型のロードサイド店舗や地域密着型書店など中小書店に限られる。オフィス街や鉄道ターミナル駅、緊急事態宣言の度重なる発出で休業や時短要請対象となった百貨店や大型ショッピングセンターなど、複合商業施設を商圏の中心とした書店では集客が伸び悩む。とりわけ、都心部に大規模な旗艦店舗を有する大型店ではその傾向が強まった。書店からも「地域により昨年比で異なるが、特に都内店舗の回復が厳しい」といった声もあり、立地や客層によって業況は二極化する傾向もみられる。
書籍需要は回復も、電子書籍・ネット書店に客足流出 書店の魅力訴求で客足の維持・拡大がカギ
書籍全体では微増のなか、 電子書籍やオンライン書店への客足が伸びる
今後の書店業界は、今春からスタートした総額表示への一本化に伴い、消費者の値上げ感による新本買い控えなど販売への懸念がされる。また、「”鬼滅”以降もヒット作が出るかが不安」(都内書店)など、20年度の書店売り上げを支えてきた「鬼滅クラスのメガヒット」が今後も出てくるかが、書店の経営を大きく左右する一つのカギとなるだろう。ただ、新型コロナの感染収束が見通せないなかで消費者の外出自粛が続いており、自宅での娯楽として読書の見直しや需要の底上げにつながることが期待される。
そのため、書店の今後はオンライン販売や電子書籍の普及による「紙離れ」など、コロナ禍を境に進んだ書籍そのものの変化にどう向き合うかが、重要なテーマの一つとなる。総務省が行った各調査によれば、電子書籍への支出額(12カ月移動平均値)は21年1月時点で約150円となり、過去5年間で4倍に急増した。インターネットを経由したオンライン書店などでの書籍購入額も400円を超え、過去5年で2倍の水準に増加している。両者とも2019年度以降は書籍全体の需要低迷から伸び悩みもみられたものの、人との接触を避けることができるネット経由での購買や、スマホやタブレットで購読する傾向がここにきて急激に強まっている。
こうしたリアル書店からネットへの販売シフトは、特にオンライン販売網を強化してきた大手書店にとっては恩恵が大きく、販売増に繋がることが見込まれる。しかし、自前でのネット販売チャネルを持たず、店頭販売を主軸としてきた地域の中小書店では対照的に、戻りつつある需要を取り込めないまま置き去りとなる可能性も残る。コロナ禍で「紙書籍」の魅力を再認識する動きが広まるなか、戻りつつある客足やニーズをどのように維持・拡大するか、各書店の動向が注目される。
構成/ino.