■連載/阿部純子のトレンド探検隊
エイジングシートを家庭用にコンパクトに設計した「発酵力 オイシート」
産学連携事業から生まれた日本初の熟成製造技術を使った「エイジングシート」は、ミートエポックから2017年に発売され、レストランやメーカーで熟成食材製造用シートとして使用されている。
4月よりエイジングシートを一般消費者向けにコンパクト化した「発酵力 オイシート」が、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」にて発売を開始した。
肉や魚は25日ほどでほぼ腐敗し、冷凍すると解凍後は味が落ちてしまうが、「発酵力 オイシート」を食材に巻くことで、5日目でも変色や臭みといった酸化、劣化が軽減され、さらに熟成することで旨味がアップする。
「発酵力 オイシート」は業務用の「エイジングシート」のおよそ8分の1サイズの33cm ×20cm。スーパーで購入した肉や魚切り身などに巻くことで、手軽に熟成することができ、腐敗を抑えながら、いつもの素材を高級食材のようにグレードアップしてくれる。
「食材を購入したらすぐにオイシートを巻いてラップで包み冷蔵庫で保管するだけ。5日間で旨味が向上するので、固まり肉は軽く塩コショウをして焼くだけでおいしく、刺身用で保存すれば刺身として食べることができる。特に相性が良いのは脂がある牛や豚の肩ロース、バラ肉、サーモン。
ブロック状であれば300g程度まで巻けて、小さいものはシートをカットして使用できる。魚は切り身や刺身ではサクの状態に巻くと効果的。生魚を焼いたものとは違った食感が味わえて、5日間というショートエイジングで変化を楽しんでもらえる」(ミートエポック代表取締役社長 跡部美樹雄氏)
製造技術はミートエポックと明治大学が共同で特許を取得しており、安全かつ迅速に発酵熟成肉を製造できる日本初の技術として、業務用「エイジングシート」を販売してきた。
エイジングシートは、肉の熟成に利用できる人体に無害な菌を純粋に培養し、回収した胞子を滅菌した布に付着させている。付着した熟成に必要な菌が短時間で増殖することで熟成を促すだけでなく、酸化速度抑制効果によって食品の変色や腐敗を遅らせることができ、通常熟成日数の3 分1以下となる 20~30日の短期間で 安定的に発酵熟成肉を製造できる。
「今までのエイジングシートは大きな食材に適するものだったが、今回は一般向けにサイズを小型化し、付着させる菌の胞子の量も調整している。オイシートの特徴は食材の旨味が増すと共に、エイジングシートで認められている食材から発する不快臭の発生を抑制する効果もある。
オイシートに用いられているのは発酵菌であるヘリコスチラムの接合菌。エイジングシートで使っていた菌の近縁種になる。このカビは海外でのドライエイジングに用いられており、一般の人でも比較的扱いやすく、安全性についても問題ないことは知られている。5℃で生育するのが特長で、肉や魚に増殖していく中で臭いが消えたり、分解酵素を出したりする。
食材の大きさが業務用と異なるため、一般向けは一度で食べきる量を想定したコンセプトで作っており、エイジング期間も5日間と短くしている」(ミートエポック取締役、明治大学農学部教授 村上周一郎氏)
使い方は簡単。スーパーなどで購入した肉、魚をシートに巻いて、乾燥や他の菌の付着を防ぐため上からラップで包み、そのまま冷蔵庫で5日間保存するだけ。すでに傷んでしまった食材が元に戻るというものではないので、購入した食材はすぐにシートを巻くようにすること。シートに付着している菌が約2か月活動するため、オイシートの使用期限は製造より2か月となっている。
シートの材質はさらしで、1枚のサイズは33 cm×20 cm。「発酵力 オイシート」5 枚入りは単品4000円。オイシート5 枚にサーモン、豚ロース、アンガス牛などをセットにしたリターンもある。クラウドファンディングが不成立の場合でも商品は届ける。商品発送は8月以降の予定。
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肉や魚のまとめ買いしたときは冷凍保存をするが、ミートエポックでは「冷凍するよりオイシートを巻いておいた方がおいしく保存できるということが常識となるように、より多くの方々に利用いただきたい」と話す。
1週間以内で食べるなら、オイシートで巻いた方が、旨味がアップするということだったので、サンプルをいただいて豚ロース肉に巻いてみた。見た目、触感は普通のさらし。巻いてラップに包むだけなので、冷凍用に小分けするよりも手短にできる。
5日後、恐る恐る開けてみたが、肉の色も香りも5日前と全く変わりない。ドリップも抜けていたためか生臭みもほとんどしなかった。塩コショウしてポークソテーにしたが、旨味と共に、熟成肉独特の香りが5日間のショートエイジングでも感じられて、いつものお肉とは違った味わいだった。
刺身で作ると生臭みがなくなるのがよりわかるとのことで、旨味が増した刺身というのも食べてみたい。現在の対象素材は肉、魚だが、野菜は研究段階とのこと。生鮮素材全般に対象が広がれば、傷んだ食材を廃棄することが減り、食品ロスの問題解決にも寄与する。1週間のサイクルでまとめ買いをする家庭ならば、オイシートは有効活用できるのではないだろうか。
クラウドファンディングのプロジェクトで得られる資金を元手にオートメーション化に向けた機器の開発を考えているそうで、今後は量販店での販売やサブスクリプション販売も検討しているとのこと。大量に製造ができれば価格が下がることも期待でき、将来的にはジッパー付き保存袋のような感覚で買えるようになればありがたい。
文/阿部純子