リモートワーク化が進んだことで、ビジネスパーソンはPCを持って移動するシーンが増えた。移動中、ふと「もうちょっと軽かったら…」などと頭をよぎることはよくあるだろう。そんな願いを叶えるモバイルノートPCが昨年10月に誕生した。その富士通の世界最軽量といわれる「634g」の数字には、あるこだわりが隠されていた。開発裏話に迫る。
世界最軽量PCが誕生
富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)は、withコロナの新しい時代のPCとして、富士通FMV 7シリーズ17機種を2020年10月に発表した。
7シリーズの機能には、FCCLの開発理念である「人を想う」が存分に反映されている。例えば、ストレスなくユーザーが使えることを考え抜かれたキーボード。満員電車の中での圧迫など、日常のあらゆるシーンでの負荷を想定した耐久性。パーツ1つ1つの軽さまで追求された、世界最軽量634g。新しい生活に合わせて空間との調和性を考え、インテリアのように洗練されたデザインのモデルもある。
なかでも、「新しい日常をジャケットを羽織るような感覚で、場所を選ばずにPCを使うことを楽しんでほしい」との思いで誕生したのが世界最軽量634gのモデルだ。634gというのは、ビジネスマンの羽織るスーツのジャケットとほぼ同じ重さだという。
重量「634g」は語呂合わせだった!?
R&Dセンター
世界最軽量「634g」というのは、一見、偶然の数字であるように見えるが、実は狙いがあった。
富士通クライアントコンピューティング株式会社のプロダクトマネジメント本部 第一開発センター 第一技術部 マネージャー 河野晃伸氏は開発の裏話を、次のように語る。
「2018年11月に販売開始した前モデルは698gで、従来から50gの軽量化を実現しました。その際、大変大きな反響をいただいたこともあり、今回のモデルの軽量化指標は最低でもマイナス50gと設定しましたが、開発側の内部指標は開発当初から634gでした。語呂合わせが好きな文化もあって、開発を行うR&Dセンターの最寄り駅がJR武蔵中原駅、通称『ムサシ』であることから、「ムサシ=634g」に決めたのです。
従来機種からマイナス64gという指標は、筐体や液晶パネル、バッテリーなどの大物部材の軽量化だけではまかなえず、基板実装部品のスタッドを円柱から三角柱に変えるなど、0.1g単位の軽量化ネタを100以上抽出して、量産間際まで試行錯誤を繰り返しながらあきらめず進めた結果、達成できた重量です」
世界最軽量634gの13.3型モバイルノートPC「LIFEBOOK UH-X/E3」
しかし、当初発表された重量目標は「638g」だった。634gまでの、あと4gはどの部分だったのか。
「最後まで苦戦したのは、SSDの放熱部材。量産開始の1週間ほど前に対策内容を見直すことで、マイナス4gの軽量化に成功しました。カタログなど拡販資料はすでに638gで作成していたため、発表直前の重量変更で、販売側には少し迷惑をかけてしまいましたが 、量産ギリギリまで設計変更ができることは、国内に工場を持っている弊社の強みと感じています」
R&Dセンター内
JR武蔵中原駅
開発者たちのこだわりを支えた武蔵中原駅は、開発者たちが愛用する駅。駅周辺の開発者がランチなどで御用達の店を2つ教えてもらった。
●「よしの寿し」(寿司屋)
ランチタイム限定のちらし寿司が絶品だそうだ。
●「居酒屋たか」(居酒屋)
日替わりのランチメニューと揚げたての天ぷらがおすすめだそうだ。
コロナ禍を受けて売れ行きに影響は?
ところで、この世界最軽量PC「LIFEBOOK UH-X/E3」は、昨年10月発売以来、売れ行きはどうなのか。マーケティング本部 商品企画統括部 マネージャー 安藤賢一氏は次のように回答する。
「コロナ禍を受けて、今年度のPC市場全体は順調に推移してきていますが、上期と比べて最近は落ち着いてきているように思えます。ただ、例年下期は新生活需要でモバイル期の需要がございますので、そういった中で、2018年11月に発売した698gモデルよりも今回の634gモデルは発売後の売れ行きは良く、新しいUHシリーズ全体でも出だし好調で多くのお客様から好評をいただいています」
その「634」という数字へのこだわりの背景には、まさかの語呂合わせが潜んでいた。そう思うと、軽さを感じながらも、思わず開発者たちに親しみが湧いてくるのは不思議なものだ。
取材・文/石原亜香利