「そうは問屋が卸さない」は、慣用句と呼ばれる日本語表現の一つ。わかりやすく言うと、「物事がそんなにうまくいくはずがない状況」を表した言葉だ。時代劇や大河ドラマで耳にすることが多く、最近では死語のように扱われることもあるが、正しい意味や使い方を覚えておくと現代でもビジネスシーンや日常会話で活用できるはず。そこで本記事では、「そうは問屋が卸さない」の語源やさまざまな類似表現などをまとめて紹介する。
慣用句「そうは問屋が卸さない」とは?
はじめに、「そうは問屋が卸さない」の正しい意味や語源を見ていこう。昨今ではあまり馴染みのない「問屋」についても詳しく解説するのでぜひ参考にしてほしい。
「そうは問屋が卸さない」は物事がうまく運ばないことのたとえ
冒頭でも触れたように、「そうは問屋が卸さない」とは「物事がうまく運ばない。そんなに都合良くいかない」ことを表したい時に用いる慣用句。ちなみに、文化庁が平成18年と27年に行った「国語に関する世論調査」では、およそ20%の人が「そうは問屋が”許さ”ない」を使うとの結果が明らかになったが、それは本来の表現ではないので注意しよう。「そうは問屋が”卸さ”ない」が正しい言い方。
語源となった「問屋」とは?
そうは問屋が卸さないの「問屋」とは、商品を仕入れて商店などの小売業者に卸す(=売り渡す)商売のこと。現代の卸売業者と同じものとイメージするとわかりやすい。
問屋の起源は、鎌倉時代に年貢米の輸送や委託販売を行っていた「問丸(といまる)」と呼ばれる組織で、室町時代には一般の商品も取り扱う「問屋」に発展した。江戸時代になるとさらに問屋は発達し、米問屋・炭問屋・油問屋など専業化も進んだ。日用品のほとんどに専門の問屋があり、人々の生活に密着したものだったことがさまざまな文献にも残っている。
江戸時代の問屋は、自分たちの利益を守るために商品の卸売り価格を仲間内で決めてしまうことがあった。そのため小売り業者が値下げを望んでも叶えられず、こちらの希望する価格では売ってもらえない状況が転じて、物事がうまくいかないことを「そうは問屋が卸さない」と表現するようになったと言われている。
英語ではどのように表現する?
「そうは問屋が卸さない」を英語で表現する場合、「That’s expecting too much(期待通りにはいかない)」や「You won’t get it so easily(そんなに簡単にはいかない)」などの表現が一般的。どちらも物事が思い通りには運ばないことを表している。
また、慣用表現として「Roast geese don’t come flying into the mouth」も同じような意味を持つ。直訳すると「焼き鳥は口の中に飛び込んでこない」。「世の中は自分の都合の良いようにはならないこと」のたとえだ。
「そうは問屋が卸さない」の使い方と類似表現
次に、「そうは問屋が卸さない」の類似表現や使い方を詳しく見ていこう。特に似た意味を持つ故事成語や慣用句は、細かな違いを覚えて使い分けができると、さまざまな場面で役に立つはず。
「そうは問屋が卸さない」はどんな時に使う言葉?
「そうは問屋が卸さない」は、これまで見てきたように「物事が簡単にうまくいかない状況」を表すもの。相手の甘い考えに苦言を呈したい時や、順調だと思っていたことが失敗した時に使うのが良い。
例文)
「自分を磨く努力もしないで良い出会いを望むなんて、そうは問屋が卸さないよ」
「古文だけ勉強していればテストは乗り越えられると思っていたけど、そうは問屋が卸さないか」
「謝りさえすれば許してもらえると思っているんだろうけど、そうは問屋が卸さない」
類語にはどんなものがある?
最後に、「そうは問屋が卸さない」に類似した表現をいくつか紹介しよう。
・花発いて風雨多し(はなひらいてふううおおし)
中国・唐の時代の詩人、于武陵(うぶりょう)の作品「勧酒(かんしゅ)」の一説が由来となった故事成語。花が咲く季節には風や雨が多く、せっかく咲いた花が散ってしまうことから「物事には邪魔が入りやすく、思い通りにいかないこと」を表す。
・好事魔多し(こうじまおおし)
「好事魔多し」は中国の戯曲「琵琶記」が出典となることわざ。「好事」とは喜ばしい、めでたいことを表し、良いことがあった時ほど魔、つまり悪いことや邪魔なことが起こりやすいという意味を表す言葉。実際にそうした状況を表すというよりも「幸運に浮かれて足元をすくわれないように気を引き締めた方がいい」といった、戒めの意味で使われることが多い。
・月に叢雲花に風(つきにむらくもはなにかぜ)
叢雲(むらくも)とは群がり集まった雲のこと。せっかくの名月も叢雲がかかるとその姿は隠れてしまい、満開の花に風が吹きつけると花は散ってしまう状況を表す。ここから転じて、良いことにはとかく邪魔が入りやすく、うまくいかないことを指すことわざ。似た言葉に「花に嵐」がある。先ほど紹介した「花発いて風雨多し」ともほぼ同義。
文/oki