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【今月の一冊】ダメでも一生懸命。だからこそ励まされる一冊「さのよいよい」戌井昭人

2021.04.24

『さのよいよい』

 戌井作品を読むと心が整う。安心する。というのも、デビュー作『鮒のためいき』以来、戌井昭人は小説の中に、ダメ人間を多々登場させているのだけれど、彼らに向ける視線が常に肯定的だからだ。ダメなところがあったっていい。ダメじゃない人なんていない。それぞれのダメがそれぞれに違っていて、その差異がおもしろいし愛おしい。読んでいるうちに、普段は忌まわしいとしか思えない自分のダメさ加減にも、少しやさしい気持ちになれるのだ。

甲斐性なし、脱力系……様々なダメが織りなす物語

 戌井作品に出てくる男女は、明確な意志をもってダメになってしまうわけではない。やすきに流れたり、一生懸命は一生懸命でも的はずれな懸命さによって知らず知らず本道からはずれてしまう。

 最新作『さのよいよい』の語り手〈わたし〉もそうだ。〈しがない脚本家で、たまにテレビやラジオの、どうでもいい再現ドラマの脚本を書いている〉37歳バツイチ。

 雑誌編集者の彼女と結婚して1年もたたずに離婚してしまったのは、自分の夢ばかり追いかけて、アルバイトやテレビの脚本の仕事を辞めてしまったから。いわゆる甲斐性なし系のダメ男。妻はそんな〈わたし〉に見切りをつけて、「あなたはおもしろくて、やさしくて、そこそこ才能もありそうだけど、何かが欠けている。人を幸せにする能力が欠けているんだと思う」という言葉を残し、家から出ていってしまったのだ。

 そんな〈わたし〉が、まだらボケの状態にある祖母から、2016年の夏、信心していたお不動さんのお札をどうにかしてほしいと頼まれる。というのも、お不動さんはロサンゼルスオリンピックが開催された夏の、町が盆踊りでにぎわっていた晩に火事で焼失。お札を返したくても返せない状況にあったから。往時をよく知る人たちから話を聞き出すうちにわかっていく、住職が寺に火を放って妻と母親を刀で斬りつけたという凄惨な事件の詳細と、そもそも祖母がなぜお不動さんを信心するに至ったのかという事情。

 そんなミステリーの妙味を備えたこの小説にあって強い印象を残すのが、キャバクラの呼び込みをしている小山田という男だ。寂れた商店街を舞台にした映画の脚本を任されている〈わたし〉が、その中に登場する声が良くてアリアを歌いながらコロッケを揚げる元プロレスラーの肉屋の店員という役柄にぴったりと思いスカウトするのだけれど、この男のダメっぷりが絶妙。惚れた女にそそのかされて背中に入れ墨を入れるも、値段をケチったら獅子を彫ってもらうつもりが変な犬になってしまったという話をはじめ、戌井作品には珍しく笑いの要素控えめな本作にあって、脱力系のダメエピソードを担って輝いている。

〈わたし〉や小山田のような、うまくいかない人生をダメなりに生きている人間に、戌井昭人が向けるまなざしは温かい。イヤなことやつらいことがあったら〈燃やしちゃうんだ。そんで自分の踊りを踊ればいいんだ〉。「さのよいよい」と自分で自分に合いの手を入れながら。そんなふうに、ささやかに励ましてくれる。わたしが戌井作品を愛読するゆえんである。

『さのよいよい』

著/戌井昭人 新潮社 1800円

『さのよいよい』

豊崎由美
戌井作品に出てくるダメ人間は、ダメなところはあるけれど、たいていの場合やさしくて、他人の心や体を故意に傷つけたりしない。また、流行には無関心でお金とも無縁。そこが好き。

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『書きたい人のためのミステリ入門』

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文/編集部

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