薬剤師106名が考える、今後薬局が生き残るために必要な条件とは?
新型コロナウイルスの感染拡大により、新しい生活様式が模索されている。そんな中、調剤薬局はどのようなサービスを提供すべきなのだろうか?
合同会社スマスタではこのほど、薬剤師の転職情報メディア『ハッピーファーマシスト』にて、就業中の薬剤師106名を対象として、「調剤薬局の将来性についてのアンケート」を実施。その結果、超高齢化社会による在宅対応の重要性はもちろんのこと、コロナ禍によりオンライン対応やセルフメディケーション(OTC販売)を重要視する意見が多く見られた。
詳細は以下の通り。
今後、薬局が生き残るのに必要な条件は何だと思うか?
まずは薬局が生き残っていくために大切だと思うことを、以下の選択肢から選んでもらった(複数回答可)。
・面対応
・在宅対応
・オンライン服薬指導
・かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師対応
・企業(薬局)の規模
・OTC&サプリメント等物販
・利便性(24時間営業や立地)
・利益率が高いこと(加算・無駄を省いた経営)
・その他
回答の第一位は「オンライン服薬指導」と「在宅」、第三位は「面対応」だった。それぞれの代表的な意見は下記の通りだ。
■同率1位オンライン服薬指導/在宅対応74.5%
・新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけとなり、オンライン診療や電話診療を求める患者さんがとても増えたと思う。それに伴い、患者さんの家に近いことやオンラインや電話での服薬指導が求められていると感じる。
・高齢化が進むので在宅は必須だが、情報社会において薬をもらう作業に時間を取られるのは意味のない時間だから。いかに生活の中で病院と薬局にかかる時間、存在感を無くすかがか鍵。
・高齢化社会がどんどん進んでいくため在宅は欠かせないと思います。若い方は忙しい人が多いのでオンライン服薬指導が便利で好まれると考えました。
・薬局で待っていれば患者が来る時代ではなくなったのは確か。こちらから出向いていく時代に変わったと感じるため。在宅医療がその一つだと思う。オンライン服薬指導も患者が薬局に来るわけでなく、ある意味薬局が患者宅(インターネットを介して)出向いている形だと考える。
・在宅医療のほうが、薬局の処方箋調剤よりも加算点数が高く、利益を上げやすいため。オンライン医療は、感染症予防の観点から必要性が高まると感じています。
・利便性という点で、24時間営業よりも、自分の都合の良い時間に薬がもらえるオンラインは今後の主流になってくるかと思います。服薬指導さえ済んでしまえば受け取りは自由、深夜でも薬局前に宅配ボックスを設置して受け取りができれば薬局が開局している必要はないと思います。
■3位 面対応44.3%
・門前のクリニックの処方箋をさばくだけの薬局は今後、不要になると思う。かかりつけ薬局として存在するために、面対応は最低限しないといけないと思う。
・実際に自分が在宅非対応・処方箋集中率95%超の小規模薬局に務めているが、経済面・業務面ともに隣のクリニックありきの状況であり、患者さまにとっては使い勝手が悪そうである。複数の処方箋を持参する患者様も、「在庫がないなら、こっちの処方箋はよそにだすからよい」と言って隣のクリニックの処方箋以外は持ち帰っている状況がある。
・新規開業する医師の門前も含め、面応需は必要だと思います。面対応して集中率を下げないと調剤基本料が下げられるためです。
■分析
高齢者には在宅医療が、若い世代にはオンライン服薬指導が求められるという回答が多く見られた。
在宅対応は高齢化社会において求められるものであり、薬局にとっても利益率が高く欠かせない業務だ。一方若い世代には、コロナ禍をきっかけにオンライン指導が広まることが予想される。
今後さらに大手調剤チェーンの寡占が進む(業界内でのシェアが高まる)と思うか?
大手の寡占が進むと思った薬剤師は84%だった。
大手の寡占が進む理由の第一位は「資金力・規模・ブランド力が高いから」、第二位は「在庫・デッドストックのリスクが低いから」、第三位は「M&Aが加速しているから」となった。
それぞれの代表的な意見は、下記の通りだ。
■大手調剤チェーンの寡占が進むと思う薬剤師の意見
<1位 資金力・規模・ブランド力が高いから62.9%>
・経済力の差が一番大きいと思う。薬学部卒しかいない小規模薬局は経済や経営を学んでいないことが多いと考えるため、経済重視の世の中ではなかなか歯が立たない。
・処方箋の多様性が広がるにつれ、薬の取扱量の多い大手は有利だと思います。また、人手が多いので在宅と外来と人の振り分けがしやすいのも有利だと思います。前は小規模薬局の方が、融通が利くイメージがありましたが、高齢者が増えるにつれて融通ばかりが優先していては残っていけないような気がします。
・資本に余裕がないと必要な投資を思い切って行いにくく、結果、顧客が求めるニーズに応えきれない。また、地域薬剤師会による結びつきが非常に薄く、情報共有において役に立っていない。その点、大手チェーン店であれば組織としての結びつきも当然比較的強く、情報共有もしやすい。結果、情報量においても個人薬局に比べて充実し、高いレベルで業務が行える。
・ブランド力は日本人特に高齢の方には影響力が大きいと思ったため。未だに先発品にこだわる患者さんや、CMをしている著名なメーカーのジェネリックなら変えてもいいと限定する患者さんは一定数いるので、大手は強いと思う。
<2位 在庫・デッドストックのリスクが低いから15.7%>
・小規模の個人薬局では、無駄な在庫を抱えたくないために取り寄せを最大限避けようとしている(処方箋応需を暗に渋るときもみられる)。地域の薬剤師会や近隣薬局などから必要最低限の数だけ購入できないか打診するなど、調剤までのプロセスにかなり手間取っており、患者様の利便性を低下させている。
・個人経営の薬局や規模の小さい薬局は、在庫のロスも出やすく、医療機関とマンツーマンでやっているところも多いため、処方元がどうにかなったら立ち行かなくなると思うので。
・薬局の店舗数が少ないと、不動在庫は廃棄せざる負えないし、医薬品購入価格も割引などがなく、利益を確保しづらい状況にあるため。
<3位 M&Aが加速しているから13.5%>
・数店舗経営の中小薬局が、改定による打撃を受けやすく、高値で大手に売れるから。医薬分業率がほぼ上限の状態で、収益面から新規出店することが難しい時代なので、大手はM&Aを主軸に開発していくと思われるから。
・これから薬局が増え続けると統合が始まるように思います。コンビニや製薬会社、銀行などはある程度の規模になると合併が始まるので薬局もその流れになると考えます。
<大手調剤チェーンの寡占は進まないと思う薬剤師の意見>
・地域差もあると思います。高齢者の多い地方は全国チェーンで転勤のある若手薬剤師より、地域に根差した薬剤師の方が頼りになる。昔ながらの面薬局に強みがあると思います。
・調剤報酬点数が下がることで以前より(大手の)力や魅力が減ったように感じます。地元に根付いた薬局が信頼も厚く、これからはより求められると感じています。
・大手調剤チェーンは、対応の仕方がマニュアル化されており、地域医療にはそぐわないと思います。特に都市部の方と過疎地域の方では薬局へ求めるニーズが違います。規模の小さい企業の方が現場の意見は通りやすいと考え、先述の回答になりました。
・医療プラットフォーム企業の台頭が凄まじいから。大手や中小の差が外部企業によって埋まっていく。そのチャンスを中小や個人が掴めれば大手調剤チェーンの寡占に歯止めがかかるはず。
・その土地の事情に精通した個人経営の薬局もある程度は残っていくものと思います。調剤薬局は価格競争にはならないことも大きい。
・前は大手チェーンで働いておりましたが、今の中小企業に13年勤めて感じることは生き残るためにはいかに地域に求められる薬局になるかです。時代も違うので比較は出来ませんが、今の店舗の方が患者さん一人一人の顔が見える求められる薬局という印象があります。
■分析
オンライン服薬指導の導入・在宅対応・面対応のための豊富な医薬品のストックなど、今後の調剤薬局に必要とされるものはどれも多くの資本が必要となり、資金力に勝る大手が有利と感じる薬剤師が多い模様。
一方で、価格競争のない調剤薬局では、地域に根差した薬局が生き残っていけるとの意見も見受けられた。
中小薬局は長期的に地域に関わることで、地域住民や地域の病院・クリニックなどと良好な関係を築き、大手に差をつけることが重要になるだろう。薬剤師間や患者さんと薬剤師を繋ぐ医療プラットフォームなどの活用も、中小薬局の活躍の場を広げることに繋がると予想される。
今後、調剤薬局とドラッグストアのどちらに将来性があると感じるか?
調剤薬局に将来性があると感じた薬剤師は24.5%、ドラッグストアに将来性があると感じた薬剤師は75.5%だった(※調剤併設のドラッグストアは、ドラッグストアとして分類している)。
それぞれの代表的な意見は、下記の通りだ。
■「調剤薬局に将来性がある」の意見
・日本に限って言えば、保険医療は国民性と親和性が高く、今後もこの傾向は続いていくと思われる。製薬業界もOTCより医療用医薬品の方が市場が大きく、セルフメディケーション税制などもあまり機能していない。医師しか診断名を下せない現行では医師不在の医療経済は民間療法以外には成熟することはなさそう。
・ドラッグストアが最初は将来性があると感じましたが、オンライン服薬指導が広まるとまだまだ変われるのではないかと考え、こちらを選びました。
・次世代薬局「薬局3.0」が提唱されており、今後、調剤薬局はさらに薬剤師の業務拡大が求められるため、将来性ありと思われる。もし薬局3.0化がスムーズに進むのならば、ドラッグストアでOTCを扱う薬剤師は減ってゆくのでは。ドラッグストアは非薬剤師の業務を拡充させて薬剤師数を減らす方向になってゆくのでは、と考えている。
・初めはドラッグストアにチェックを入れたくなったが、オンラインを介してなんでも購入できる時代では、わざわざ店舗を持つドラッグストアの方がマイナス収支になる可能性もあると考えた。
・高齢者に対しては、調剤薬局などの需要は今後も高いように思います。ある程度専門性も求められていくと思います。
・高い薬剤も院外処方箋で出していく時代になっていくと思うので、調剤薬局のほうが利益は高いと思います。ただ降圧剤など、生活習慣病の薬が処方箋無しに購入できるようになったら、話は変わってくると思いますが…。
・在宅の技術が求められていくと思うので、既にノウハウのわかっている調剤薬局の方が将来性があるのでは。調剤薬局は箱出し調剤になり、対人業務に割ける時間ができ、力を入れるようになると思う。
■「ドラッグストアに将来性がある」の意見
・調剤併設のドラッグストアが一番将来性を感じます。ドラッグストアの商品は、スーパーなどに負けていない安価な価格設定となっており、買い物に来られるお客さんも多いです。薬の待ち時間にドラッグストアの中で時間を潰すのは有意義であると思われます。有意義である中で売り上げが増えるかもしれないので、良い経営法だなと思っています。
・調剤併設型ドラッグストアに勤務しているが、自己研鑽や学習面のサポート、福利厚生、給与、働きやすさなどの面から優秀な新卒や若手薬剤師は大手の調剤併設型ドラッグストアに集まっているように思います。
・診療報酬改定の影響を受けずに、安定した経営を行えると思います。医療費圧迫の問題が大きくなるにつれてセルフメディケーションが重要視され、セルフメディケーション税制も導入されているので、今後ドラッグストアの将来性は明るいのではないかと考えています。
・コロナ禍で、日用品を取り扱う業界と医療業界の需要はどんな時代も廃れないのではないかと感じた。よって、その両者の機能を兼ね備えているドラッグストアは、時代の変化にとても強いのではないかと思うようになったから。一方で調剤薬局は、通院を控える患者の影響で厳しい経営を強いられている。
・主婦層をターゲットとした場合、ポイントがつくことも鑑みてドラッグストアの人気が高くなっています。調剤薬局を併設することで待ち時間を潰しやすく、在宅管理でも薬だけではなく、日用品の配達を一手に引き受けられるのは需要が多いと思います。高齢社会で介護施設に入れず、自宅で介護する人を増加することを考えると、主婦層に便利な薬局は愛されると思います。
・介護用品、対応人員やバイタリティが違うから。陳列できる商品数も桁違いであるし、大手が実施しているプライベートブランドなどに、個人薬局は対応出来ない。
・医薬品適正使用(特にポリファーマシー)の観点からすると調剤薬局のような治療を重視する経営路線よりも、予防医療や医療保険を使用しないようなOTC、サプリメントを多種揃えている経営路線の方が医療経済面からも将来性があると思われる。
■分析
このコロナ禍で、日用品と医療品の双方を取り扱うドラッグストアの底力が再確認された。処方せんにもポイントが付与されるドラッグストアは、価格競争において強みを発揮する。
ドラッグストアの多くは大手企業であり、在庫を抱えるリスクも低いため面対応がリスクになりにくい環境だ。薬の待ち時間に買い物ができる便利さは、今後多くの患者さんに支持される可能性が高いだろう。
一方、次世代薬局「薬局3.0」で提唱されるように、今後は調剤薬局の業務が拡大することが予想されるため、調剤薬局に将来性を感じるという意見も見られた。
地域密着型の頼れる薬局として、ドラッグストアとは別の需要を見出すことが大切だろう。
こんな形態の薬局があったらいいなというアイデアは?
新しい形の薬局についてのアイデアを聞いた。また、似たアイデアごとに代表的な意見をまとめた。
※自由回答形式のため、回答されていない方もいる。
■カフェ・レストラン併設薬局26人
・コーヒーを飲みながら薬の説明を聞くことのできる居心地の良いカフェ型薬局。
・カフェ併設型薬局や飲食店併設型薬局。健康志向な飲食を提供し、疾患ごとに分けたような料理の提供など、他ではない形をとる。ただ、個人の疾患などが明らかになってしまうため抵抗のある方もいる為工夫が必要。
・カフェ併設薬局。薬剤師がカフェも営業してたら患者さんも気軽に入って相談もできると思います。
■オンライン・ウーバー(宅配)薬局14人
・ウーバー薬局。処方箋画像を送り、家に来てもらう。店舗型でもやっているが、会社に来てもらうなど、もっと気軽に頼めそう。
・テレフォンボックス型自販機(オンラインで薬剤師がいる形)
・アマゾンのような薬局。処方箋を写真等で送ると調剤して、配達。オンラインで服薬指導。
■その他39人
・カスタムオーダーメードの製剤化ができる薬局。ドラッグ、調剤のシームレス化やビッグデータにリンクしたAIソフトなどを活用したスタイルの薬局。
・AIが症状別に薬を選ぶネット薬局。
・24時間無人薬局があればいいのにという話を聞いたことがあります。聞いた時は、薬剤師としては切ない話だと思いましたが、感染のリスクも無いし安全でいいかもしれないと考え直しました。
・薬を持ち帰った後で、オンラインで服薬指導ができれば在宅に近い形でより患者さんに合った話もできるのではないかと思います。機械等の初期投資がすごいことになりそうですが。
・サプリメント・健康食品に特化したセルフメディケーション推進型薬局。
・託児つきの薬局。子供が小さいと病院に行きたくても行けず、薬をもらう待ち時間もぐずってしまうので、服薬指導をまともに受けることができないため。
■分析
カフェやレストランなど、飲食店の併設型薬局を提案する意見が最も多く見られた。薬膳や漢方茶など薬剤師ならではのメニューは、需要が見込めそうだ。しかしコロナ禍の影響を考慮すると、オンラインや宅配型の薬局の方が現実的かもしれない。今後は生き残りをかけて、様々なスタイルの薬局が生まれていくことが予想される。
■所感
薬剤師106人に対する調剤薬局の将来性についてのアンケートにより、以下のことがわかった。
・今後の調剤薬局には在宅とオンライン服薬指導が必要
・将来性のある施策を行うためにも、資金力に勝る大手が有利
・利便性が高く、価格競争力のあるドラッグストアの将来性は高い
・新しい薬局のスタイルとして、カフェ・レストラン型の提案が多かった
・調剤報酬改定や新型コロナウイルス流行により、経営を圧迫される調剤薬局が増えました。
そうでなくても、すでに飽和状態と言われる調剤薬局。今後は処方せんを待つだけではなく、生き残るために様々な工夫が必要と言えるだろう。
今後重要と考えられる在宅対応やオンライン指導に加え、かかりつけ対応など地域・患者さんに選ばれる薬局が生き残って行けるのかもしれない。資金力やブランド力で大手やドラッグストアに対抗できない中小薬局は、地域密着だからこそ対応できるニーズを見出すことが大切なのだろう。
<調査概要>
調査方法インターネットによる調査
調査対象就業中の薬剤師の男女
調査期間2020年11月16日~11月25日
調査エリア全国
サンプル数106名
出典元:合同会社スマスタ
https://smast.co.jp/
構成/こじへい